転
まず目に入ったのは、巨大な、そしてあまりにも邪悪なオーラだ。規模だけなら、高位の天使にすら匹敵するかもしれない。それは、アークと同じ宿命を背負った先代の勇者であり、今代の魔王であった。
あれを倒す?不可能だ。十全に力を発揮できていた頃ですら不可能な敵を、力が制限された状態で倒せるはずがない。逃げるか?いや無理だ。もうすでに気づかれている。できるはずがない。
頬に冷や汗が浮かぶ。人間としての記憶が戻ったことで、感情の波を抑えることができない。
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ…………!!!!!
せめて、彼だけでも救う方法を!!!
魔王がゆっくりと近づいてくる気配を感じる。牽制として大抵の生物は灰すら残らない高温の光を浴びせる。当然のように無傷。避ける動作ひとつしなかった。
格が違う、と改めて思い知らされる。だが、止まるわけにはいかない。今度こそ、本当の意味で彼を救うために。
せめて時間を稼ぐために、彼を抱きしめながら飛行し、距離を稼ぐ。魔王は、血管が浮き出したような、禍々しい翼を広げ、私を追う。
「ん、ぅん…」
その時、彼が目を覚ました。
「意識はしっかりある!?大丈夫!?」
私が焦って声を出すと、彼は驚いたような顔をした。
「えーと、ユーキ?これどう言う状況?て言うかそれ羽?何それ?いつもと口調違くない?」
彼は困惑しながら尋ねる。当然だ。死んだと思ったら、抱き抱えられて飛んでいるのだから。しかも私は羽を生やして。
しかし、いちいち説明している時間はない。
「簡潔に言うと、魔王が復活した。そして今私たちを追いかけてきてる」
そう言うと、彼の目つきが変わった。かっこいい!じゃなくて、
「なので今めっちゃピンチ。やばい。とりあえず逃げてるけどもうすぐ追い付かれる」
「やばいじゃん」
どことなく緊張感のないような会話をしながら、それでも緊張感ありありな逃亡劇を続ける。
どれくらい逃げただろうか。とうとう追い付かれてしまった。抵抗はした。彼は聖剣と魔法を駆使し、私は天使としての力を駆使し。でも、ダメだった。わかっていたことだった。
それでも、ようやく、彼を思い出した。これからようやく、幸せに暮らせるのではと、淡い期待を抱いていた自分がいた。辛い、嫌だ、死にたくない…!!!
死ぬ寸前になって、そんな感情が溢れ出してきた。今日感情を思い出した天使には、その感情を制御できず、溢れさせてしまう。
「うわーーーーーーーん!!!嫌だよーーーーーーーー!!!まだ死にたくないよーーーーーーー!!」
それでも無慈悲に世界は進む。魔王が私の前に立ち、私に拳を振り下ろす。思わず目をつぶってしまった私は、後に続く衝撃がないことを不思議に思い、恐る恐る目を開ける。
そこには、拳を止め、涙を流す魔王の姿があった。
「て、テンシ、さん、、、?」
魔王が声を発した。天使?そうだが、なぜ魔王が知っている?
私は恐怖しながらも、問いかける。
「なんで、知ってる?」
「ボク、ですよ。あ、あなタに、みちびいて、モらた、ニンゲン、です」
驚きを隠せなかった。そして同時に涙が込み上げてきた。ああ、私が導いた
私が自責の念に駆られていると、
「それよりも、ハヤクく、こ、ろして。ながく、はもたな…」
と、魔王が口にしようとした時、魔王の腹から腕が生え、魔王の体を引き裂いた。
そして、腹からは、魔王の比ではない、邪悪の塊であるデーモンが、魔王の血肉に体を濡らし、笑いながら下界へと君臨した。
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今回短めです。と最後にいうスタイル(してみたかっただけ)
ある天使の世界救済 人間 @Fuji11_11
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