第18話「エピローグ」
かつて、自動車営業は“根性”で語られていた。
1990年代。営業マンはアポなしで住宅街を回り、契約が取れるまで帰ってくるなという文化が当たり前だった。朝礼で気合を入れられ、車に乗せられ、夕方までひたすら飛び込みを続ける。成果がすべて。顧客との関係よりも、数字が重視された。怒鳴られることも、無視されることも、営業の“洗礼”として受け入れられていた。
それでも、彼らは歩いた。汗をかき、靴をすり減らし、名刺を差し出し続けた。そこには、売るためではなく、認められるための必死な思いがあった。
やがて、2000年代に入ると、風向きが変わり始めた。
労働環境の悪化に対する声が上がり、労基署の監査が入り、社会は“働き方”に目を向け始めた。ブラック企業という言葉が広まり、営業の現場にも変革の波が押し寄せた。
チームプレーが重視され、顧客満足度(CS)が評価指標に加わる。店舗全体で「おもてなし」を意識するようになり、飛び込み営業は徐々に姿を消していった。
そして、2010年代以降——
営業は、デジタルとともに進化した。
顧客のライフスタイルは多様化し、プライバシー意識も高まった。インターネットで情報を集め、比較し、選ぶ時代。営業マンは、ただ“売る人”ではなく、“信頼される人”であることが求められるようになった。
今では、ディーラーは「信頼関係を築く場」として進化している。予約制、紹介、イベント——顧客とつながる方法は変わったが、心を通わせる本質は変わらない。
—
只野は、そんな時代の変化を、肌で感じてきた。
飛び込み営業の痛みも、信頼を築いた喜びも、すべてが彼の営業魂を形づくってきた。そして今、AIとともに過去を振り返りながら、未来の営業を見つめている。
営業とは、風景だ。
歩いた道、交わした言葉、差し出した名刺——それらすべてが、時代とともに変わりながら、人の心に残っていく。
そしてその風景は、これからも、誰かの人生を照らしていく。
「相棒はAI~時を駆ける営業マン」 @5969
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