破滅

@fuluki_toru

破滅


脳が破壊された


 内田先生、あなたには感謝をすればいいのか、恨めばいいのか、未だに答えが出ません。いいえ、きっと一生分からないでしょう。先生に初めて話しかけた言葉は「ありがとうございます」だったけれども。そう、先生が職員会議であの作品を取り扱わせてほしいと頭を下げたのと同じように。


 川端康成の「禽獣」が、高校二年の現代文の授業で取り扱われた。私の代から共学なために、女子が圧倒的に多く男子はクラスに五人ほどしかいなかった。それなのに、娼婦の少女と心中しようとした、なんとも生々しい話を持ってくるなんて、なかなかなものだ。

 「禽獣」は、とんでもないものだった。「彼」は目の前のものから過去を想起し、記憶といまを繋げていく。その文の破綻さといったら、接続詞は意味をなしておらず、時系列も回想が入交りぐっちゃぐちゃ、とめどない「彼」の思考が押し寄せてくる。まるでジェットコースターのように。その退廃具合が私の中に強烈になだれこみ、私の脳を溶かし、思考回路をぶちぶちと千切り、私の平和な暮らしを壊してしまった。壊されて闇の中。薄暗い帰り道を歩く。まるで、踏み外したらどこまでも堕ちていってしまう透明な綱渡りをしているように、ふらふらと。もののあはれに憑りつかれ、自殺する文豪のように、私は絶壁の淵に立っていた。この激しい価値観の変動に私はどうすればいいのか分からなかった。

そこで、内田先生に、「この作品を授業に取り扱って下さりありがとうございます」と頭を下げたのだ。そこから職員室に通い出し、先生は話を聞いてくれた。しかし、言葉で型にはめても、この私の濁流の押し寄せる大きな溝は満たされることはなかった。会話は社会的行為であって、どうしても情熱をそのまま流し込むことは出来ない。

 

誰か、だれか、私を分かってくれ、共感してくれ、この刺激を、、、

 

当時のことは頭が破壊されたため、脳の肉片をぽろぽろと搔き集めるように、言葉をつぎはぐことしか今は出来ない。

身体の中にぐるぐると廻らせ、いつか爆発させてやる。それはきっと破滅だろう。


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