第7話 お仕置き

 ――うん。


 こうしてレヴィの力を使った姿で、人類の宿敵たる魔人と戦ってるわけだけど。


 なんというか、その。


 ――レヴィの力、強すぎない……?


「……ッくそぉ! なんで、どうして! 魔術だけじゃなく、アタイの空中殺法まで通じないなんて……ッ!」


「だって空中殺法って言っても、結局攻撃の時は降りてくるから。動きが見えれば避けるだけだよ」


 こんな感じに。あと、ついでに拳も入れておく。


「ぅぐぁっ、ッは! ぁぁああクソッ!」


 一撃入れてもすぐ飛んで逃げられる。厄介だよね、やっぱり。


(フーガ、あんた……えげつないやり方するね。完全に相手のプライド折って)


 え、そうかな。嬲ってるように見える、ってことかな。


 ……別に、そんなことする気はないんだけども。


 ただ、一発殴って仕留めるならさっきみたいな大振りが必要で、それはたぶん避けられちゃうし。


 かといって魔術でやろうにも、どうにも加減できる自信ない……。周りの仲間たちに被害は出せないし。


 だからこうして、ちまちまダメージを与えてる。


「こ、の! アタイのことを舐めてんのか!? カウンターばっかり! このおおおおおッ!」


「め、めちゃくちゃ怒ってる」


(必殺の一撃も自慢の立体機動も全部潰してるからね。なのに積極的にやりにこない。周りの人間を守ってるなんてアイツは想像できないだろうし、舐めプしてるようにしか見えないでしょ)


 ひどい誤解だ……。


 で、でも、その方が都合いいかも。頭に血が昇ってる方が、逃げられたりしないだろうし。


(へえ。フーガなら、殺したくないから逃げてくれた方が、みたいに言うのかと思った)


 僕があの魔人を殺せないって? ふふ、甘く見てもらっちゃ困るよ。


 これでも僕、村では畑を狙う動物や魔物を相手してきたんだから!


(ふん。アイツは害獣と一緒ってわけ? それはまた)


 それだけじゃないよ。


 彼女は僕の仲間たちを傷つけた。それにきっと、この戦場には今日彼女の魔術で命を落とした人だっているはずだから。


 だったらやっぱり。――畑を狙う不届者にはちゃんと罰を、ね。


(害獣と一緒で見せしめは必要……ってことね。やっぱりフーガ、案外リアリストじゃん)


 そ、そう? そうかな。


(思考の基本がなんか、全部農夫視点なのが気になるけど……)


 それはしょうがないよ。僕農夫だからね、気持ちは今でも!


(まあ、それは置いておいて。フーガにそれをする覚悟があるって言うなら。教えてあげる)


 変わらず突っ込んでくる翼の魔人を捌きながら、レヴィの言葉に首を傾げる。


 教えるって、なにを?


(――わたしの力の、上手な使い方。フーガぜんぜん使いこなせてないし。表面的なところのさらに一部だけだよ、いま出来てるのって)


 ……! それは、きっとそうだよね。僕、戦いなんて得意じゃないから。


(その割には、身のこなしとか素人っぽくないけど。……まあ、魔力の使い方って意味ではやっぱりまだまだだよ。わたしなら、いまフーガが使える程度の魔力でも、うまくアイツを倒せる)


 それじゃあ。教えてくれる? レヴィ。


 上手な魔力の使い方。




 そして僕は、ますます速度を上げる翼の魔人を相手にしながら。


 ――体内で、魔力を練り上げる。


(そう、それでいい。魔力ってのはね、ただ溢れてきたものを垂れ流すだけじゃなくて、磨いてくものだから)


 うん……。


 魔力を圧縮。安定してない魔力は取り除いて、また圧縮。密度が上がるごとに不安定になりやすくなるから、都度質の悪い魔力は除ける。


 そうすると段々、ふつうよりかなりエネルギーを秘めた、高密度高純度の魔力が出来上がってくる。


(うん、なかなかやるじゃん。ずっと向かってくるあの鳥頭いなしながらだし上出来かな)


 ありがとう、なんだけど。……精錬した魔力を留めてる胸の辺りがすごく熱い! これ大丈夫なやつ?


(完璧に制御できてるなら大丈夫だけど……まあ、ちょっとしたきっかけで弾けちゃうような状態ではあるよ)


 弾けるって、魔力が? 僕が!?


(……)


 何も言ってくれない! じゃあこれ、早く使った方がいいよね? よしわかったすぐ使うよ!


 ちょうどね、ほら。翼の魔人も盛り上がってるみたいだから!


「――さっきから、上の空で! もっとアタイを見ろッ! 恐怖しろ! あ、アタイにはねぇ――まだ、上があるんだッ!」


 そう言った直後。


 翼の魔人は突然――空中で急激に速度を増して、一瞬僕の視界から消える。


 追いきれなかった……?


「これがアタイの最速だよッ! ほんとはこんなとこで使うつもりなかったけど! 単なる火力が効かないなら、神速であんたを削り切ってやる!」


 うわっ、また消えた。ほとんど影しか見えない速度。


 しかも、空中で何度も速度を落とさず方向転換して、予測で攻撃を置いておくことも牽制されてる。


 この異常な速度は……魔術?


(そうみたい。あれ、足の裏で圧縮した空気を解放して推進力を得てるんだ。フーガが空飛ぶときにやったことに似てるね)


 それをより爆発力のある方法で、しかも完全に空中軌道を制御してる。


 こんな奥の手もあったんだ。


(まあ、確かに速いけど……。でも、さっきのアイツの言い方。たぶんけっこうなデメリットがあると見た)


 体に大きな負担がかかるとか、消耗が早いとか……かなあ。


(考えられるのはそんなとこね。――それに、仮にデメリットなんて無かったとしても)


 うん。


 僕なら――ううん、レヴィの力なら。


「アハハハハッ! 目で追うこともできてないじゃない! さすがにこれはあんたでも攻略できないみたいだねぇ!?」


「うん、確かにすごく速い。僕じゃあ、影が一瞬で横切った、くらしか認識できないよ」


「だろうねえ! それじゃああんたは今から一方的に殴られ続けることになるけど! その余裕がいつまでもつか見ものだよ!」


(ビュンビュン飛び回るしか脳のない鳥頭が生意気に)


 まあまあ。


 でも実際、魔人ってすごいんだね。人類を滅ぼすほどの力だってくらいしか聞いてなかったけど、確かに一人で戦場を制圧できるんだもん。


 この翼の魔人も。


 ――それに、レヴィだって。


「それじゃ、さんざんビビらせてやったし? ここから本番! 目にもの見せてやる……ッ!」


 そう言って、縦横無尽に飛び回る翼の魔人。


 僕はその様子を眺めながら、さっき精錬した魔力を体に回す。


 具体的には、目と、右腕へ。


 発動する魔術は――。


「ああ、澄ましたあんたを鳴かせられるって思ったらちょっと興奮してきたよ! そんじゃ喰らいな、アタイの最速をぉ――!!」


 基本に忠実に。まずはそれだけでいいっていうのがレヴィの教えだよね。


 だから。


「――【金剛強化】」


 自然界にはあり得ない、高純度の魔力で【強化】を発動すれば。それはもう、肉体に金剛の強度を与えるに等しい。


 それに、単に肉体に強度を上げる以上に、魔術的な――格のようなものだって上げられるという。


 そんな力を目に使えば、普通は見えないものが見えるようになったり。動体視力が神がかったり……。


「そらぁ! 潰れなァ――――――ぁ、あ……? え?」


「よぉく見えたよ。君の動き」


 左腕で、飛び蹴りをかましてきた翼の魔人の足を掴む。


「ふふ、さっきも同じような一幕があったよね。その時は風の魔術で逃げられちゃったっけ。でも、今度は――」


 逃げられる前に。力の詰まった右腕をコンパクトに振りかぶって。


「……ッや、やめ――」


 そして。




「――ダメ。お仕置きね」




 振り抜いた拳は、空気との摩擦で一瞬にして赤熱し。


 一切の躊躇いなく、魔人の腹に突き込まれて――。



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女性優位世界の【変身】男魔術師 in 崖っぷち戦線 〜人類の敵『魔人』の姿で同僚助けてたら、本当の僕と魔人の間で葛藤する拗れた性癖の女兵士量産しちゃった〜 クー(宮出礼助) @qoo_penpen

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