特殊作戦群の狙撃銃? 『対人狙撃銃(中距離域用)』

曇空 鈍縒

対人狙撃銃(中距離域用)

 小説の材料集めのために防衛省が公開している情報を漁っていたのですが、その中に面白い資料を見つけたので、ここで紹介しようと思います。


 https://www.mod.go.jp/gsdf/chotatsu/document/pdf/08/GAM-Y706109C.pdf

『対人狙撃銃(中距離域用)用弾薬』


 こちらは平成26年2月4日に補給統制本部の弾薬部によって作成された、陸上自衛隊で調達している、あるに関する仕様書です。

 この仕様書によると、この特殊な銃弾は8.59ミリであり、普通弾、徹甲弾、ボンディッド弾、空砲の四種類が含まれているそうです。

 狙撃銃用の弾薬ということになっていますが、自衛隊の保有している狙撃銃(M24、G28、64式、対物狙撃銃)の口径は7.62ミリか12.7ミリのどちらかで、8.59ミリ弾を使用する銃は存在していないはずです。

 つまり、この対人狙撃銃(中距離域用)という銃は、これまでに公表された自衛隊の銃火器の、いずれにも当てはまらないということになります。

 今回は、対人狙撃銃(中距離域用)用弾薬と、それを使用する対人狙撃銃(中距離域用)の正体を探っていこうと思います。


 まず対人狙撃銃(中距離域用)用弾薬についてですが、これは.338ラプア・マグナム弾でほぼ確実だと思われます。

 この弾丸は狙撃用として世界的にも高く評価されており、自衛隊が導入しても不思議はありません。また口径も8.58〜8.6ミリほどで、仕様書の内容と一致しています。さらに、この仕様書の中にも.338ラプア・マグナム弾を意味すると思われる『338狙撃弾』という記述があります。

 同様の弾丸で他に思い当たる物もないので、対人狙撃銃(中距離域用)用弾薬の正体は.338ラプア・マグナム弾で間違いないでしょう。


 では、この弾丸を使用する『対人狙撃銃(中距離域用)』というのは、どのような銃なのでしょうか?

 これは、自衛隊がどのような形でこの銃を調達しているのかを調べれば、推測することができます。

 まず、対人狙撃銃(中距離域用)という銃の入札情報を調べたところ、何件か存在していました。

 その多くが2丁や1丁などごく少数の契約になっており、調達の担当は防衛装備庁、そして納入場所は陸上自衛隊習志野駐屯地となっていました。

 習志野駐屯地には、が駐屯しています。

 あくまでも精鋭部隊であって特殊部隊ではない第一空挺団が、戦術的な優位を確保するために運用上の効率性兵站を切り捨て、他部隊と共通化されていない弾薬や銃を使うとは考えにくいです。

 よって、これらの弾薬と銃は、陸自の特殊部隊である特殊作戦群に配備されたと考えるのが自然でしょう。

 特殊作戦群は一般部隊にはない様々な装備を保有しており、MP7やHK416など自衛隊内ではイレギュラーな銃器を使うことも多いです。

 そして特殊作戦群は対テロ作戦を強く意識して創設された部隊なので、この対人狙撃銃(中距離域用)も、おそらくは対テロ作戦等に投入することが想定されていると思われます。


 では結局のところ、この対人狙撃銃(中距離域用)の正体とは何なのでしょうか?


 私は、イギリスのL115A3狙撃銃だと予想しています。

 その理由は、8.59ミリ弾を使用でき、信頼性が高く、自衛隊が入手しやすい銃となると、かなり限られてくるからです。

 マニアックなものも含めれば.338ラプア・マグナム弾を使用する銃は多いですが、自衛隊は外国製の装備を購入する時、あまりマニアックな銃は購入しないように思います。

 なぜなら、他国と訓練するにしても、整備するにしても、部品を調達するにしても、マニアックな銃は広く普及している銃に比べて手間と時間がかかるからです。

 また、L115A3の原型となったL96A1を警察特殊部隊SATが導入しており、その点からも調達しやすいのではないかと考えました。


 そしてもうひとつ、レミントンMSRという狙撃銃も、対人狙撃銃(中距離域用)の正体としてあり得ると思います。

 このレミントンMSRは、.338ラプア・マグナム弾を使用できると同時に、簡単なメンテナンスで、7.62ミリ弾など他の種類の弾丸も撃てるようになる、極めて汎用性の高い狙撃銃です。

 また米軍の特殊部隊でも使用しており、採用実績もあります。

 そして将来的な拡張性も高く、自衛隊の特殊作戦群が導入してもおかしくないと思います。


 ただ結局のところは、画像も何もないので、正確な情報は分からないというのが正直な感想です。


 ちなみに、.338ラプア・マグナム弾というのは7.62ミリ通常の狙撃銃より長射程で、12.7ミリ対物狙撃銃より短射程で軽いという、両者の中間を埋める役割を期待されて開発された弾丸です。(だからなのだと思います)

 戦場での評価も良く、狙撃用の弾丸として普及しつつあります。ただ自衛隊の場合は調達数が少ないので、値段もそれなりに高いと思います。


 以上が『対人狙撃銃(中距離域用)』についての考察です。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。



 参考文献

 https://www.mod.go.jp/gsdf/chotatsu/document/danyaku.html

『インターネット公開仕様書目録[弾薬]』

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