今日の憂鬱は安売りで。

神楽坂 優

第1話 鈴の音みたいに

 先週、一人暮らしの母が倒れて入院した。


 それ以来ずっと東京と実家を行ったり来たりしている。


 10年前、兄が突然この世を去ったとき。


 今年、父が静かに息を引き取ったとき。


 そして今、母が弱々しく点滴を受けている姿を見るたび。


 同じ後悔が、まるで癒えることのない傷のように心を締め付ける。


 なぜ、あのとき地元に残らなかったのか。


 もう二度と会えない高校時代の友の言葉が、胸の底で鈴の音みたいに響く。


 「家族は一緒にいなければだめなんだよ」


 彼女はもういない。

 

 兄も、父も。


 あの頃の私には分からなかった言葉の重さが、今は魂の奥底まで染み渡っている。

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