アルバム

涼月風

第1話 


先日、長年勤めた会社を定年退職した。


実家から会社まで一時間半の道のりを、四十年近く通ったことになる。


そして、何もすることがない日常に少し辟易していたころ、家の大掃除をする決意をした。


大掃除の最中、押し入れから懐かしい物が出てきた。


それは、家族の記憶を収めたアルバムだ。


アルバムの写真には、幼かった頃の自分と元気な両親が写っている。


……笑顔を浮かべた顔。


……ふてくされた顔。


……泣き喚いている顔。


その一枚一枚から、薄れかけていた当時の情景が思い出される。


三人で写っている写真を見たとき、ふと目が霞んで見づらくなった。


……もし俺が離婚していなければ。


……両親に孫を抱かせてやれなかった。


……俺が死んだらこの家とこのアルバムはどうなるだろう?


湧き出す思いは後悔と懺悔に満ちていく。


誰かわからない者の手に渡り、ゴミとして処分されてしまう未来は必ず来る。


ならば、俺の手で終わらせたい。


庭先にアルバムを持ち出し、火をつけた。


剥がした写真を一枚ずつ、真っ赤に燃える火にくべる。


その写真はだんだん姿を変え、やがて灰になった。


天に昇る白い煙は、どこに届くのだろうか。


願わくば、星になった両親のもとに——




あの頃の笑顔が届いてほしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アルバム 涼月風 @suzutsukikaze

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ