第45話現実に戻った矢先に

≪光希視点≫

 「はっ、ここは保健室か?どうやら五体満足で戻ってこれたみたいだな。」

 

 目が覚めると視界には目一杯の白い天井が目に入る。

 ずっと、暗い深淵の底にいたせいか、はたまた長時間寝ていたからか、その白さが余りにも眩しい。

 

 それでも、その眩しさが僕に現実へと戻ってきたのだと実感させるのだ。


 「カレンダーはどこかにないか。結構時間が経っていると思うが、年単位だなんてことはさすがにないよな?」


 ベッドの周りを囲む薄いカーテン、病院の入院設備よりも簡易なベッド周り。これらを見る分には多分学校の保健室のベッドの上のはず。


 保健室にはカレンダーがあったはずだよな。後で確認してみるか。


 「おっ、光希、お前起きたのか。」

 「透、おはよう。僕、何日ぐらい寝ていた?」


 カーテンがシャラっと開く音がすると思えば、ひょこっと顔を出したのは透だった。

 ほっぺたに大きなガーゼが一枚ついているが、それ以外に大きなけがはしてなさそうだ。


 本当に良かった。透もあの瘴気に飲みこまれそうだったから、無事で本当に安心する。


 あれ、さっきの一言以降、透が何も反応していないような気がするのは気のせい?


 「す、すまん。俺としたことが少し取り乱してしまった。……寝ていた時間というより、気絶していた時間の方が正確か。3くらいだぞ」


 ん?たったの3時間しか寝ていないだと?


 あの深淵で過ごした時間は、徒労だと思うぐらい長かったのに、たったの3時間?


 それにって?

 黒い海の感触も、鼻を突き刺すような冷たい風もしっかり感じていたのに。


 あれは夢だったのか?


 ……まぁ、少なくとも現実ではなかったか。


 「教えてくれてありがとう。」

 「……光希、お前が使っている弓ってそんな形だったっけ?」

 「へっ?それってどういう……」


 手を動かすと、明らかに硬さのある物質に指が触れる。


 指に触れたものは、あの深淵で手に入れた……鏡幻だった弓。

 あの暗い海のような色の中に、所々ガラスの花弁が煌めいている。

 

 僕が目にしたものは現実だった。そう呼びかけているように。


 鏡幻と共に見て、聞いて、嚙みしめて、戦った。

 その全てここに残っていたんだ。


 「やっぱり、どこか具合が悪いのか?先生、誰か校舎の中にいたっけな……。」

 「……大丈夫。ただ、夢見が悪かっただけだ。」


 「それなら、良いけど」と言う透は心配そうに僕を覗き込む。


 はたから見れば、目覚めて、正気だと思ったらいきなり呻きだしたもんな。

 オロオロと心配するのも無理ないか……。


 それよりも、なんか外が騒がしい。もう夜も更け始めているというのに、何が起こっている。


 「入るよー……。添田ー、菱谷くん起きたみたい。あ、もう体を起こして大丈夫なの?」

 「えぇ、まぁ大丈夫です。それよりも、廊下で何が起こっているんですか?」


 扉がガラリと開いたかと思うと、入ってきたのは美琴さんと添田さんの二人。

 あれ?柘榴ちゃんはどこに行った?まさか、彼女だけ何かあったのか?


 いや、彼らと先に走って退散していたから、そんなはずないと思うけど。

 それでも考えてしまうのはあの暗い海に、まだ意識を持っていかれているのかもしれない。


 「まだやっていたの、あのバカ二人。柘榴ちゃんがいれば、刹那の方は止まると思ったんだけど?」

 「それが、柘榴ちゃんが刹那に加勢して混乱状態になっているみたいで……。」

 

 ますます、状況が分からん。


 加勢しているってことは、誰かと何かを争っているってことだよな?

 

 まさか、学校内にクルイモノが入った?!

 なんてことを考えてみたけど、それは絶対にありえない。


 もしそうだったら、もっと騒がしくなっているはず……。


 刹那と何か、やらかしそうな人物か……。

 思い浮かぶのは一人しかいないなぁ。というか、彼女たちのあきれ具合を見るに、絶対にあたっている。


 「ちょっと、涼介さん。待ってください。」

 「涼介……。」


 どうして、そんなに冷ややかな視線を僕に向けるんだ?


 「チッ、特に怪我もないのかよ。」


 彼がぶっきらぼうにそう吐き捨てる。


 友人になって10年、はじめて彼に明確な怒りを覚えた。

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再び交わる僕らの思い ほっとけぇき@『レガリアス・カード』連載 @hotcakelover

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