第123話 悲報
「貴官の着任を歓迎する」
きりっとした顔で言う王将軍は、出会ったときに比べて年を重ねたがゆえの渋みを増していて、非常に頼もしい将軍に見える……実情を知らなければの話。
小玉は知っているどころが熟知しているとさえ言えるくらいなので、特に感銘を受けることなく、「拝命シマシタ」、「感謝イタシマス」、「精一杯勤メマス」と定型の挨拶を返した。
ちょっとどころではなく、棒読みになってしまったが。
そもそも、小玉は王将軍のところから出たり戻ったりを繰りかえしているので、こんな格式張ったやりとりは別に省略してもいい。
実際前回は省略して、
「じゃあ今日からよろしく」
「はいっ、よろしくお願いします」
「それではこの書類を……」
と、簡単な挨拶のあとに米中郎将が、さっそく実務的な話に入るくらいには気心の知れたやりとりを交わしていた。
わざわざ気取った言いまわしをする彼は、真面目くさった顔をしているが、内心は絶対に楽しんでいると、小玉は確信していた。いつも心がお若くて結構ですね。
――この人との掛けあいの日々が、また始まるのか……楽しいからいいけどさ。
小玉はそんなことを思っていた。
目前で苦虫を噛みつぶしたような顔をしている米中郎将も、半分は同じことを考えているに違いない。なお小玉と意見が重ならないであろう半分は「楽しいからいいけどさ」の部分である。
「そういえば、
「はい、そうですよ。どうかしましたか」
小玉と同じように班将軍の下で働いていた暁生も、元いたところに戻ることとなった。
彼の場合、小玉と同じ手続きがあるうえに、はるばる遠方からやってきて、そして帰ることになったのだから、小玉以上にたいへんなはずであったが、彼のほうはあまり徒労感がないようだった。
急いで結婚したせいで、妻側の親族にお披露目ができなかったから、これを機に……と喜んでいた。
彼といい泰といい、世の中愛妻家が多くてまことに結構なことである。
ただ暁生の場合、(泰のような
小玉も女なので、奥さんを大事にするのはいいことだと思っている。だが、いつも「逃げられるんじゃないか」と思っている夫というのも、それはそれで家庭の問題の火種になりそうな気がする。小玉たち女性武官は皆、ちょっと心配している。
しかしこればっかりは、他人がどうこう言うことでもないので、小玉はただ
「なんだ~。
王将軍は残念そうに呟く。
「あたしには、配属祝いくれないんですか?」
米中郎将が口を挟む。
「手を出すな、手を」
「それは今度、うちで飯食べさせてやるから。
「やった! ありがとうございます」
班将軍に比べるとほどほどに名門の王将軍の家で出されるご飯は、非常においしい。夫人が厨房に立つこともあるのだが、彼女の作る料理もこれまたおいしい。
王将軍の子どもたちとも知った仲なので、とても心穏やかなお宅訪問になるのは間違いない。純粋に楽しみだった。
けれども、その「今度」は永遠に来なかった。
予期せぬ増援が来ることもなく、この戦の規模自体は確かに小競り合いで終わった。
ただ、王将軍が戦死した。
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