第105話 班将軍との初対面

 先入観を持っていたことは否定しないが、はん将軍はまことに「らしい」人だった。

かん……ろうしょうか」


「お初にお目にかかります」

 最初が肝要と、小玉しょうぎょくはきっちりと頭を下げる。

 下げた頭を押さえつけられているような気になるほど、威圧感がすごい。


「ふん……成り上がりのわりには礼儀はなっているな」

 あと、言葉のとげもすごい。


「よほど上官たちが手塩にかけたとみえる」

 ……ただ、微妙に褒めてるような補足をしてくる。


 ――うーん……。

 なんか色々と気をつかわなくちゃいけない人なんだな、と小玉は思った。上官に気をつかうのは当然なんだが。


「ひととおりのことは、もうこちらに伝えてあるから聞け」

 そう言ってぎょうせいを示す態度は、ぶん投げている感もある。


「慣れている人間相手のほうがいいだろう」

 しかし付けたされた言葉のおかげで、「これって気づかい?」と感じさせてもくる。


「かしこまりました」

 うなずきながら小玉は思った。

 これは部下からの評価を二分する型の人間だな、と。


 とはいえ嫌みったらしいという評価を得ている班将軍であるが、初対面の人間相手にそれをてきめんに発揮するほど非常識ではないようだ。

 小玉としてはまずその時点で非常に好感を持った。これまで身分が上の人間には、あまりよい応対をしてもらった覚えがないので。


 ともあれ、まずは引き継ぎだ。


 小玉は去っていく班将軍を見送ると、暁生のほうへ向きなおった。

「お久しぶりです」

 班将軍に対するよりは気安い態度で頭を下げると、暁生はずいぶん日焼けした顔ににやりと笑みを浮かべた。

「聞いたぞお前。俺以外のこと『父ちゃん』って呼んでるんだって?」

「またずいぶん昔のこと持ち出しますね」


 初陣の後でおんぶされたとき「父ちゃん」と呼んだか呼ばなかったかで、彼にはしばらくからかわれたものである。


「あのしゅくあんが『父ちゃん』になるとはな……」

 しみじみと呟く暁生に、小玉は「いやいや」と声をあげる。


「本人は否定してますよ。あたしも肯定してません」

「いや、本当の意味でのほう。あいつんとこ、今度生まれるの何人目?」

「そっちですかー」

 小玉も正直、彼が父親になると聞いたときは、なにやらしみじみとしたものである。


 とはいえ、この場にいないうえに、今の仕事にまったく関係のない人間の話に花を咲かせても、まったく実りがない。

 二人はなんとなくしみじみしたところで、叔安の話題をさらりと投げ出した。

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