第102話 復卿と清喜

 兄嫁が病気になる数か月前から、せいふくけいは一気に距離を縮めた。

 余人がちっとも想像していないかたちで。



 なにから端を発したのか、詳しいところは小玉しょうぎょくにはわからない。

 ただ小玉が認識しているところでは、清喜がお見合い攻勢に辟易へきえきしたせいで、事態の急展開が始まってしまったように感じる。


 ちなみにその攻撃をしかけたのは、小玉ではない。


 主に食堂近辺では、男女の仲を取りもちたくて仕方がない方々がお勤めしており、若い独り者がしばしばそのじきになっている。


 しかし小玉の部隊には、男女の仲を取りもちたくて仕方がない方々の活躍で悩む者は、ほとんどいなかった。

 明慧めいけいはあれだし、復卿はそれだし、文林ぶんりんはこれだし……で、話を持ってくる者がいなかったのだ。


 ちなみに小玉は年齢とか立場とか、兄嫁と甥というこぶつきだとかで、「本人にとっても紹介する相手にとっても迷惑っぽいな」と率直にあきらめられていたせいで話を持ちかけられていなかった。

 本人としては、そういうのけっこう傷つくのであるが、半分は小玉のことを気づかっての措置であることはわかっているし、なによりその気持ちを口にして誰か紹介されてもやっぱり困るので、なにも口にしないことにしている。


 もちろん小玉の部隊にはほかにも独り者はいるが、彼らは持ちかけられたお見合い話に喜んで乗っかっているので、別の意味で悩んでいない。

 そういうわけで、最近適齢期を迎えた清喜は、ごくまっとうな意味でお見合い大好きおばさんたちに困っていたのだった。


 とはいえさすが清喜はのらりくらりとかわしていた。

 だが、その行けそうで行けないという感じが、かえってご婦人方を燃え上がらせてしまっていたようだった。


 きっぱりお断りしたら駄目なもんなのかねえ、というのは明慧の言だ。

 小玉はさあねとしか答えられなかった。文林は不干渉の立場を主張したかったみたいで無言だった。その態度は小玉には納得できた。さすが文林、賢明である。

 ただ泰と復卿も沈黙を貫いているので、男性陣は総じて賢明なようだった。


 しかし復卿については小玉にとっては意外であった。

 なぜなら最近、清喜はやけに復卿とつるんでいるようになったからだ。しかもたまに朝帰りもするようになっていた。なにかしら発言してもよさそうなものである。


 単純に考えれば、復卿が女遊びを教えたのだと思うところだし、小玉も文林も明慧もこんなところで複雑な事情が起こるだなんて思ってもいなかったのだ。

 だから小玉も明慧も清喜に「ほどほどにするんだよ」と声をかけていた。

 文林は復卿にごみを見るような目を向けた。かつて復卿に女遊びを教えられた身として思うところがあるらしい。


 とはいえ、乗り気で教わった文林が復卿をそんな目で見る資格があるのかといえば、たぶんない。


 後から考えれば、そんなひどい扱いをしてくる上官と同輩に対し、復卿はなにも弁解しなかった。

 単に首を突っこまれたくなかったからなのだろうが、それできちんとこらえきったのは偉い。いらっとしたらなにか言いたくもなるだろうに。


 小玉たちが色々なことを知らずにいた幸福な日々が終わりを告げたのは、その会話からほどなく経ってからのことだった。



 ある日、清喜が衝撃の告白をしたのである。

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