第71話 小玉、本領発揮
一週間後、河原に彼らはいた――清々しく汗をぬぐうおっさんたち、にいさんたち、
「ふふ、いい……風!」
「ははは、日差しもいいですなあ!」
交わす言葉は、なにやら青春じみた
そんな会話を交わす面々は、ほとんど青春期を終えている。そんないい年した大人が河原でなにをしているのかというと、土木工事である。
したがって当人たちの言動が無意味に清々しくても、見た目はかなり暑苦しい。
「どうぞこれで汗を!」
そんな暑苦しさを、
小玉だけに手ぬぐいを差し出す清喜は、新妻のようにかいがいしい。そのかいがいしさは小玉にのみ発揮されており、「あいつけっこういい性格してるよな……」とあちこちで言われている彼である。
とはいえ清喜は小玉の従卒であるので、彼の態度は決して間違っていない。
それに彼は、直接手渡しこそしなくても、他の人間の手ぬぐいも人数分の飲み物もきちんと手配しているというそつのなさも発揮している。したがってわりと皆にかわいがられている。
ところで小玉たちがやっている工事の内容はなにかというと、軍隊の仕事の定番である
体力の有り余っている軍人を有効に活用し、なおかつご近所に喜ばれるという一石二鳥な公共事業である。
それなのにこれまで実施されていなかったというていたらくが、この部隊の末期的だった状況を示していて涙を誘う。
工事の実施計画を示してから、ご近所の方々の態度が目に見えて軟化したということからもそれがうかがえた。
「それっ!」
気合いとともに、
普通、こういう場合の監督とは指揮する人間であって、実際に作業に携わるものではない。
それなのになぜ彼女がここで実際に働いているのかというと、彼女の信条とか性格
かくてこの事業は、計画、指導、実施すべて小玉主導のもとに行われることとなったのである。しかし色々とこなしてきた小玉は、もうその程度では動じない。
ちなみに、作業していると全体が見とおせないため、なにか起こったときのために、監督用に設けた席には、例の枯れ木みたいな前責任者を座らせている。
見た目はまるっきり、「薪にするために拾ってきた木を乾かしている」という状態であるが、今更なので誰も指摘しない。
ご老体はほとんど動かないため、見る者の不安を誘う。それでいて、周囲が声をかけようか……と迷ったあたりでときおりかすかに動くため、かろうじて生きていることがわかる。
ただ、これでご老体はけっこう役立っており、言われたことはある程度難しいことでもきちんとこなす。
言われただけでは望む段階まで達成できない者が多いなか、こういう人材はけっこうありがたい。この年齢で、
彼がこの場で枯れ果てていたのにも、もしかしたら訳があるのだろうか……小玉はそんなことを思いもしていた。
さて、責任者が
しかし当事者以外でも、見れば小玉についてわかることがある。
明らかに冷やかしに満ちた声が響く。
「おーおー、泥だらけになってお疲れさん!」
小玉は振り向いた。そこには自警団の連中がいた。
見回りが必要な場所でもないから、軍が灌漑事業を行っていると聞きつけた彼らがわざわざやってきたのであろう。
正直暇人としか思えないし、その認識で正しいはずだ。
そんな連中にかかわりあう時間がもったいないので、小玉以下皆無視し、引き続き作業に戻った。
自警団の連中は、しばらくにやにや笑いながら見学していた。ここでさらに
やがて彼らは、昼ごろになってようやく去っていった。
腹が減ったのだろうか。確かにそういう時間だ。
「さーて、あたしたちもお昼にしようか」
小玉の命令に、皆素直に返事をし、昼食の準備を始めた。
なお小玉の頭からは、以前自警団の連中に口説かれたことは完全に消えている。
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