エピローグ
第37話 エピローグ
「アンタ、いつまでそんなところに隠れているのよ? どうせ、アンタなら見つかりっこないわよ」
「誰のせいだと思っているんだよ、誰の! てか、そんなこと言うなよ!」
今、俺はリーフォーレスト郊外のとある民家の縁の下に身を隠している。
というのも、原因は全てあの忌まわしき会議における俺の言動にある。
あの言葉の後、何かに突き動かされるかの如く口を開いた俺は、あろうことか――
「おい、待てよ。実はそれを盗んだのは俺だ! 一度失敗したが、その後再度侵入してくすねることに成功したのだ!」
自分が犯人だと名乗り出てしまったのである。
ちなみに、俺の発した言葉は緊張のあまり声が裏返っており、実に見苦しいものだった。
しかし、その前に俺がゴードンの部屋もとい財務長室への侵入未遂で捕まっていたこともあり、その言葉は即座に認められた。
そして――、
「ならば、ゴードン及びその取り巻きとともにその者をひっとらえよ!」
とのギルドリーダーによる鶴の一声が発せられたのである。
当然、俺は捕まりたくはないので逃亡したわけだ。
その後、いくばくかの時を経て、現在の状況に至る。
「逃亡途中、俺は普通に逃げただけなのに、何故か追っ手に直に見失われたのだがどうしてでしょうねぇ」
狭い縁の下に身を縮めるようにして入り込んだ、実に奇妙な体勢を取りながら、そう愚痴をこぼす。
すると、シルバが「それは、他人が言わずともわかっておられるのでは?」といわんばかりのニヤケ面を俺に向ける。
ちくしょう、シルバよ後で覚えて置きやがれ!
そう心の中で最大限シルバに罵倒を浴びせていると、これまで沈黙を貫いていたミカがゆっくりとこちらへと歩み寄ってきた。
「……渡月くん、本当にありがとう。あの時から、ずっと言いたかったの。やっといえたよ」
「じゃあ、やっぱり、あの時の……?」
「そうだよ。あの後、すぐに交通事故で死んじゃって……。で、気づいたらこの世界にいたの。まさか、また渡月くんと会えるなんて思ってもいなかったよ」
「俺もだよ」
「本当に、本当にありがとうっ!」
そう言いながら、頭を下げるミカ。僅かに見えたその表情は実にすっきりとしたものであり、なんだか当時のことを思い出さずにはいられず、暫しじっと見つめてしまった。
ミカは、俺が見つめてしまっていたのに気がつくと、はっとしたような表情を浮かべ、一目散に脇に掃けて行った。一体、どうしたってんだ?
それを見ていたシルバがニヤニヤ顔で「微笑ましいですね」と俺に囁いた。お前、そんなに殴られたの?
「いえいえ、そういうわけでは。寧ろ、あなたには感謝してもしきれませんよ。やはり、僕のあなたに対する評価は正しかったようで――」
そう言いかけると、何かに気付いたのか、
「おっと、他にもあなたに用がある方がいらっしゃるようです」
呟くと、先程よりもさらにニヤケ面を増して去っていった。
よし、後で殴ろう。異論は認めない。
ところで、誰だ? と思い立ち、シルバが見つめていた方向へと顔を向ける。
「あ、あのさ……」
「ん? なんだよスズカ。また、俺に嫌味を言いに来たのか?」
頬を赤く染め、何かを言いたげに口をもぐもぐとしているスズカ。なんだよ、なにがしたいんだ?
「もしかして、お前、熱でもあるの?」
「っ、熱なんてないわよ! この通り、ぴんぴんしているわ、お陰様でねっ!」
俺が気遣ってやると、スズカは余計に顔を真っ赤にさせて怒り始めた。
なんて理不尽なんだ……と、今の心境を正直に呟いていると、急にニヤリと悪だくみを企てる男子小学生のような笑みを浮かべたスズカが、
「じゃあ、その元気さを今ここで発揮してあげるわ!」
と声を張り上げた。そして、はぁーふぅーと何度も深呼吸を続け、
「……みなさーん、犯罪者の渡月向日さんはここにいますよ――――――!!」
「おまええええええええええええええ」
恩を仇で返すとはまさにこのことだろう。もう、許さねぇ!
俺はその場から一目散に逃亡した。逃げ足だけには、自信があるぜ!
それにしても、なんて理不尽な奴なんだアイツは。あいつが正義のヒーロー? 糞くらえってんだ。正義なんてない、今俺は改めてそれを思い知った。
「くそおおおおおおおおおお」
スズカの一声によって集った追っ手を尻目に精一杯の力を振り絞って颯爽と逃亡する俺。
その俺の鼓膜に、ある小さいながらも確かな一言が滑り込んだ。
「……ありがと」
(完)
ぼっち、異世界へ行く。 藍うらら @kyonko
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