第36話 Blue Eye

「な、なに? 私が『GF』とつながっているですって……?」


「その通りです。あなただけではありません。あなたのお仲間もご一緒です」


 そう言って、シルバがゴードンとその周辺に座っていた取り巻きを一瞥すると、彼らは一瞬ビクッと身を震わせた。


「な、なにを根拠にそんなことを!」「何たる侮辱。証拠を見せろ!」


 取り巻きたちは口々に言葉を発する。

 それを見たゴードンは、やや額に冷や汗を滴らせながらも取り巻きたちを制す。


「その証拠とやらを見せてみなさいよ」


「では、仰せのままに――」


 シルバがそう言った刹那、ミカが「皆さーん、こちらがその証拠になりまーす!」とにやにやとしながら証拠のコピーを全出席者に手際よく配る。

 それを見たゴードンやその取り巻きたちは、先程までよりもさらに大粒の冷や汗を滴らせる。


「くっ、ちくしょうめが」


 ゴードンの悔しさあふれる一言に、取り巻きたちも言葉を失ったようでその場に項垂れる。


「……勝負はついたようだな」


 思わず、俺はそう呟いた。

 その時だった。これまで沈黙を保ってきていたこのギルドのリーダーらしき男がその固く閉ざされた口をゆっくりと開いたのだ。


「事情は分かった。ゴードン、そしてその者たちには後日重い処分が下されよう」


「くっ……」


 最高意思決定者の重い言葉に、ついにゴードンも観念したように項垂れる。

 しかし、その刹那ニヤリと口角を若干挙げたのが垣間見えた。なんだこの笑みは……。


「リーダー。少々お待ちください」


 ゴードンの呟きに俺は少しばかり悪寒を感じた。

 そして、それは現実のものとなる。


「ところで、その証拠とやらはどこから入手したものなのです? もしかして、どこかから盗んできたものなのではないでしょうかねぇ。だとしたら、大変だ……!」


「そ、それは……」


 シルバは明らかに平生の表情を忘れ、青ざめている。

 ん? 悪事を暴くためだろうに。

 俺がこの状況がつかめずにぼけーっと口をあけアホの子のような表情を浮かべていると、それを見かねたのかミカがこっそりと耳打ちした。


「渡月さんは、知らないかもしれませんが、この世界では盗みは重罪なのです。例え、悪事を暴くためであっても」


 なるほど。だから、シルバはあのような凍り付いた表情を浮かべているわけだ。

 ここで思い出す。それは、スズカだって知っていたはずだ。だが、スズカは自らこの作戦を提案した。つまり――


「シルバ、これはアタシが責任を取るわ」


 スズカがこれまでにない優しい表情を浮かべ、シルバに下がるように命じる。

 シルバはいつになく悔しさたっぷりの顔つきになるも為すすべもなくその場に崩れるように着席した。

 なんということだろうか。スズカは、自らの正義を貫くために自身を犠牲にしたのだ。

 これでは、何のためにゴードンの罪を暴いたのかさえ分からない。

 その様子を見ていたゴードンは最後の悪あがきが成功したことに笑みを浮かべるとその場でうめき声にも似た笑い声を立て始めた。


「なんだこれは……?」


 意味が分からないし、笑えない。これまでにやってきたことは正しかったのか?

 確かに、ゴードンの罪は暴かれた。しかし、肝心のスズカまでもが裁かれる?


「やはり、世界は理不尽だ」


 悔しさのあまり、声が漏れる。

 これでは、数年前のあの時と同じじゃないか。俺が行動を取ったばかりに、悪い結果をもたらした。

 この世では、正義なんてものが勝つことなどない。例え勝利したとしてもその代償はあまりにも大きい。

 何故、世界はここまで不条理なのだろうか。

 そして、改めて自戒の念を持って自問する。


 ――やっぱり、何もしない方が良かったのか……?


 その時だった。

 項垂れる俺のそばで、青い瞳の少女がぽろぽろと涙を流しながら言い放った。


「そんなこと、――ない!」


 どうして、そう言いきれる。

 今回も、そしてあの時だって、失敗したじゃないか。


「渡月くんは、何も間違ってない! だって、渡月くんの行動で救われた人だっているんだから!」


 まさか、という思いが脳裏をよぎる。

 目の前に映る青い瞳の少女。それは、あの時、そう俺の小学校時代の記憶に残るあの少女だった。

 その少女は、続ける。


「だから……、だから、あの時のように、スズカさんを助けてあげて」


 刹那、俺は重い体をゆっくりとたたき起こし、何かに突き動かされるかの如く口を開いた。

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