第5話 討伐と、集結と。

 その日の夕刻。鼠浄土がある御山の天気は、「親方、空から女の子が!」同様に奇妙な天気であった。

 なぜなら天から降ってきたのは、雨でもおさげが可愛い女の子でもなく、ハーレーに乗った男性ふたりと、巨大な枕に乗ったメイド天女であったからだ。


 誘導灯に従い、ふわりと舞い降りてくるとしあき二人と天女一尊。

 

 「おお! よく来てくださいました! 天部の方々!」


 そんな三者を地上で出迎えたのは、長老パキリトとそのお供たち。選抜された少数の口の堅い者達である。

 長老達は、満面の笑みを浮かべ、天より降りてくるとしあき達を歓迎した。


 なぜ長老とお供たちのみが地上へ?


 それは、鼠浄土の一般住民達にとって異変はすでに終わった事であるからだ。


 彼等は皆、異空間の事は大した問題ではなく、三馬鹿が死んだために事態は収束したと思い込んでいた。

 残る問題は苦行のような片付けだけ。片付けさえ終わればすべては元通り。すぐに同族達と共に笑い合って暮らしていける。 


 そう考えていたからであった。


 そのため、心優しい長老としては、真実を住民達には知らせる事ができずにいた。

 できれば危険な異空間の件は皆に知らせずに、解決してしまいたいというのが長老の本音であった。


 それ故に、長老達はわざわざ外の御山に出て、鼠浄土の入り口から離れた場所に、異空間対策本部を兼ねた三馬鹿討伐隊の休憩所を設置したのであった。


 「天女様、鼠浄土の長老パキリトと申します。時間がなく大した歓迎もできませんが、討伐隊の準備が整うまでどうかここでお寛ぎください」


 「天部の幽星騎士団の一人、夢詩枕。招聘に応じ当地へと着任致しました。以後、同僚共々、よろしくお願いします。微力ながら異変解決に邁進致しますわ」


 休憩所の天幕内部へととしあき達と天女を通した後、丁重に頭を下げた長老。それに対し、メイド天女も丁重かつ優雅に一礼。カーテシーで自己紹介に応じた。

 その後に、としあき達の自己紹介も続く。


 「俺はとしあき! メロスあきと呼んでくれ。幽星騎士として恥かしくない働きを約束しよう」


 「俺もとしあきだ! ウルフあき読んでくれ。メロスあきと連携し、確かな結果を出してみせよう」


 「ほほう。幽星騎士…とは、聞かぬ名前ですな? 新設の部署ですかな」


 聞きなれぬ幽星騎士との言葉に長老が疑問を感じ、それを口に出した。軽いノリのとしあき達に、こいつら大丈夫なのかと心配になったのだ。


 「その通りです。天部で新設された部隊です。まあ、天部でも色々とありまして。ですが実力は折り紙付き。保証致しますわ」


 空気を読んで長老の内心を察したメイド天女。うふふと微笑し、こんな坊やふたりでも実力は確かと太鼓判を押した。


 「そうでありましたか。実力は折り紙付きですか。それは大変結構ですな!」

 

 「うふふ。その通りですわ!」


 「ほっほっほっほ!」


 慈愛に満ちた天女の言葉に、不安になっていた長老もようやく安心したのか、共に談笑する。


 「ほれ、お前達、天女様にお茶とお菓子ををお出ししろ。騎士殿にもな!」


 はい。ただいまとお供の浄土鼠達が動き出した。


 「あら? としあきさん達、何処にいったのかしら?」


 「む? そう言われれば、騎士殿たちの姿が見当たらんな?」


 「はい。それが…」


 これ、お前達と、長老がお供の者達に尋ねると、長老とメイド天女が談笑している間に、空から地上を見た時、気になる物を見つけたから行ってみると出て行った…とのことだった。


 「気になる物とな?」


 「気になる物…空からそんな物見えたかしら?」


 何なのだろうと疑問を口にする長老とメイド天女。そこに、外からとしあき達の感嘆の声が聞こえてきた。


 「ヒュー、見ろよ俺。この見事な魔除けの人形を! まるで、いるさ、ここにひとりな! そう自己主張しているようじゃないか!」


 「ヒュー、ああ俺。こいつの、こいつからやっていいのかとの面構えは一級品だ! 対策本部に置く魔除けとしちゃあ、なりは小さなが、これ以上の物は考えられないぜ!」


 「それに見ろ俺! この武装! 六本腕に持つ武器をよぉ!」


 「どれも小振りだが見事な業物だ俺! 俺達には小さいが、浄土鼠達の大きさには調度良いな!」


 「あら…そんな魔除け、上から見かけたかしら?」 


 「はて?…そんな物、用意しろと命じた覚えはないが」


 外から聞こえてくる、としあき達の話の内容に困惑し、顔を見合わせる長老とメイド天女。

 

 「これ、何か知らぬか?」


 「はい。あれは帰ってきたピリリ君が持ってきた人形ですわ」


 そう答えた長老のお供の女性。その女性は、ピリリが帰ってきて一番に出会ったおばさんであった。

 実は、おばさんとおじさんは鼠浄土の外の様子を見て廻るだけでなく、長老の密命を受け、対策本部設置の下準備をしていたのであった。ピリリと再会したのは、その途中だったのである。


 その後、おじさんは坑道に駆け込んでいったピリリを追い、あしゅらだよー人形を回収して入り口へと戻った。


 一方、おばさんは外の御山の地形を調べ、対策本部を設置できる場所をピックアップし、最も適していたこの場所にを対策本部を据える準備をしたのであった。


 そこに戻ってきたおじさんが、魔除け代わりとしてあしゅらだよー人形をついでに置いていったのである。


 「そうであったか。ピリリが戻っておったか…ならば」


 おばさんの説明を聞き、何事か考え始める長老。メイド天女とおばさんは、そんな長老を静かに見守る。

 そして、決心したのかおばさんに頼み事をする長老。


 「ちと頼む。ピリリを呼んできてくれぬか。我等浄土鼠も面子がある。異界へ誰ぞ同族を派遣せねばならぬ。わし自らが出ようと考えていたのだが、ピリリがいるのならば、な」


 「それは構いませんが…シャキリ殿はどうするのですか?」


 「あれは駄目だ。下手に異界へ行かせると、宝珠を奪われた失態と取り繕おうと失敗する。命の遣り取りの場なのじゃ。先走って討伐隊の輪を乱す奴は派遣できん。自重してもらう」


 長老は、厳しい目付きとなりきっぱりと言い切る。そしてメイド天女に意見を求めた。


 「どう思うかな、天女どの?」


 「そのピリリ君とやらは、そこそこできる方ならば問題はありません。ただ、そのシャキリという脇侍の方は、こちらとしても遠慮していただきたいですね」


 「やはり、そう思いまするか」


 無言でうなずくメイド天女。


 「では、頼むぞ。ピリリを呼んでおくれ」


 「はい」


 長老に命じられ、そう素直に応じたおばさんは、メイド天女に一礼した後、鼠浄土へと向かっていった。大事な任務なので人任せにはしないで、自分でピリリを呼びに行ったのだ。

 

 「…ふう」


 「心中、御察し致します」


 「すみませんのう…我が孫シャキリが宝珠を奪われなんだら、このような事態にはならなんだのに」


 話題があしゃらだよー人形から浄土鼠の身内話に移った事で、天幕の中を重苦しい雰囲気が包んだ。


 そんな状況のため長老とメイド天女は、天幕の外で快活に語り合うとしあき達の、ある重要な情報を含んだ会話を聞き逃していた。


 その内容とは。


 「それにな俺、この人形自立して動くみたいだぜ。上空から眺めた時に動いていたんだ、これ!」


 「マジか俺! からくり人形みたいな物なのかこれ! どうやら鼠浄土は、ジ〇ン脅威のメカニズムのようだな!」


 「ああ。これは異変を解決した後、鼠浄土をじっくりと探検しなければならんな!」


 「まったく楽しみな話だな俺!」


「はははは!」


 と、言うものであった。


 だがしかし、自立機動する機能なんて、あしゅらだよー人形には実装されてはいない。

 もしそんな機能が元からあったなら、ルンバそんと一緒に改造されて、ルンバーン師匠として存在していないし、ピリリ達の旅の仲間にもなっていないだろう。

 もし、そんな事があるとするなら。


 そう。


 それこそ御仏の加護であろう。


 自分を慕う衆生の鼠がピンチのため、心配したどこぞの如来様が密かに力の一端などを分け与えなければ、自立して動くなどありえないのである。


 だが、メロスあき曰く動いていたのである!


 現世でもフットワーク軽いな! どこぞの〇〇〇〇様は!



オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ !


オン ビセイゼイ ビセイゼイ ビセイジャサンボリギャテイ ソワカ!


ノウモ バギャバテイ バイセイジャ クロ ベイルリア ハラバ アラジャヤ タタギャタヤ アラカテイ サンミャクサンボダヤ タニヤタ オン バイセイゼイ バイセイゼイ バイセイジャサンボリギャテイ ソワカ!

 

 そんな加護を授かり、ピリリをはじめ、浄土鼠達は幸せ者である。


 「へっくしょん!」


 「かあー?」


 「風邪引いたかって? いや、大丈夫。何か、誰か俺の噂でもしているのかなぁ?」


 「かあー、かー」


 「うん。気を付けるって!」


 所変わって、対策本部の周辺。


 「む! 増援がきたようだぞ俺!」


 「宝珠レーダーも強く反応しているぞ俺! かなりの強者が来たようだぞ!」


 「おお! あれは筋斗雲か!」


  としあき達は、設置された誘導灯を目指してやってきた、新たな来訪者を出迎えていた。


 「甘寧一番乗り…やない! 遅れたンゴ!」


 来た早々、なんjの方からきました。実質、そう宣言するネタ発言をしたのは、雲に乗って新たにやってきたふたりの中、リーゼントにサングラス、白黒の縦じまシャツ、ニッカポッカ、木製バットといういでたちの若者であった。


 「…馬鹿」


 リーゼントのネタ発言に呆れ、そう言ったのは、もうひとりの愛らしい少女。髪型はポニーテールで幼さの残る面影。なぜかワーク用つなぎを着ていて、全身のシルエットを隠している子であった。そして、つなぎからちょこんと出た手には、なぜかチア用のポンポンを持っている。


 「おう、下の兄ちゃん! わいは鼠ちゃん達の助っ人にきた天部の端くれ、白虎衆のタイガーっちゅうもんや! 歓迎してクレメンス!」


 いい加減な関西弁となんj語を悪魔合体させたリーゼントが、地上に降りもせず高所から自己紹介を開始した。


 これはあまりにも失礼。


 せめて地上に降りてからにしてよと、頭を抱えたつなぎ少女の様子を余所に、リーゼントは話を続けた。


 「筋斗雲の術を駆使するわいらより先に到着しとるとは、兄ちゃん達、かなりできるな。頼りにさせてもらいまっせ!」


 「こちらこそだぞ! 筋斗雲は初めて見た。ちょっと感動しているぞ俺!」


 「俺もだぞ、俺!」


 「俺達ふたりは、ふたばのとしあき! 俺はメロスあきと呼んでくれ!」


 「同じく、ウルフあきと呼んでくれ!」


 「なんやて工藤! あきメロスとあきウルフやな! 覚えたで!」


 タイガーの失礼を気にせず、ちょっと興奮気味に応じたトシアキ達。筋斗雲に乗ってきたので悪意はないのだろうとの判断だった。

 としあきにだって人を見る目はある。


 一方のタイガーも、そんなとしあきたちの態度を好ましく思ったようだ。

 つなぎ少女の心配を余所に、友好的に挨拶を交わした男性陣。その途中、安堵の溜息を吐いた少女が術を解き、筋斗雲が消え去った。

 すたっと、着地をきめるふたり。


 「「ヒュー!」」


 「白虎衆、宇志川みるく。としあきさん達、タイガー共々よろしくお願いします」


 「「よろしく頼む!」」


「おお! お待ちしておりました!」


 そこに、騒ぎを聞いた長老とメイド天女が合流し互いに挨拶を交わした。腰を屈め、同じ目線で長老と握手を交わすタイガー。


 そんな時。


 上空に巨大な空飛ぶ鐘がやって来ていた。


 「甘寧一番乗りー…じゃない! 私達、何番目?」


 「遅れちゃったね、清音ちゃん」


 「うー…仕方ない。都合の悪い事は忘れるわ…やるわよ!」


 「うん!」 


 新たな増援が二人到着したのだ。


 ビシィッ! 


 「颯爽登場! 阿頼耶識十二神将、卯の座、竹囃子白斗!」


 「絢爛登場! 阿頼耶識十二神将、巳の座、道成寺清音!」


 「「僕(私)が来たからには、もう、何の心配もありません!」」


 でっけえ空飛ぶ鐘から飛び降り、地上に降り立ったショタロリはそう名乗り、あさっての方向をビシィッと指さし、シンメトリーなポーズを決めた。


 おおーと歓声が上がり、ぱちぱちぱちぱちと拍手が巻き起こった。


 ビシィッ!


 それに気を良くしたのか、再びシンメトリーな別ポーズを決めるショタロリ。なお一層の歓声と拍手が巻き起こり、さらに頬を上気させるショタロリであった。


 まさに幼さの残る儚さと、可憐さの具現体。そんな表現がぴったりのショタロリがそこにいた。


 そう!


 兎耳尻尾ショタと、蛇の目傘を持ったロリが、颯爽、絢爛に登場したら誰だって拍手する。俺だってする。


 ドガアァァァンンン!!!


 その後、でっけえ鐘がドカンと落ちてきて、ショタロリの後方に土煙を巻き上げた。

 戦隊モノの爆発のような中々に見事な演出に、再びぱちぱちと拍手が巻き起こる。


 「…」

 

だが、その巨大な鐘の音で、常時ハイテンションであったメロスあきが正気に戻ったようだ。としあきモードも忘れ素になってしまう程に。


 「それはそれとして、俺も使ったから言えないけどさ。甘寧一番乗りってネタ、知られ過ぎじゃね? いくら世はまさに大ネット時代だからってさ」


 普通のネットサーフィンを楽しむ一般人のメンタルに戻り、メロスあきが周囲の者達に質問する。完全にとしあきのペルソナを見失って。


 「ですが、ウキィにも載ってますよ」


 「…え? ウキィペデアにも乗ってるの? それは仕方ないな。みんな検索機能を十全に使い熟しているのか」


 「せやかて工藤! それは仕方ないな!」


 「仕方ないわ!」


 「早くとしあきに戻れ俺!」


 ふたり、若者達の会話についていく事ができなかった長老と瀟洒なメイド天女が、呆然とその会話を聞いていた。


 と、そこにまたしても。龍に乗った女性が一人空から近付いて来る。


 「甘寧一番乗りー! 竜清院祥子、参上ですわ!」


 そして、お約束の如く、新たに登場した女性も甘寧ネタを使ってきた!


 一同無言。

 


 「………滑りました? このネタ?」



 はあーッと、ため息を吐く一同。


 さすがに、こう同じネタが連続すると痛い。


 立場がなく、てへぺろで誤魔化す龍王院祥子さん。 


 ネットってすごい。浸透し過ぎだろ。甘寧一番乗りのネタ。


 そう思うメロスあきたちであった。そして同時に、同じネタを使うこのメンバーなら良いチームが組めそうだ。

 そんな事を、メロスあきはじめ一同は漠然と思うのであった……単なる勘違いである可能性も大いにあったが。



 その頃。



 「ピリリ君、話を長老から聞かせて貰ったわ。このままでは確実に鼠浄土は滅亡する!」


 「なっ、なんだってー!」


 「かーっ、かああー!」


 「なっ、なんですってー!」


 ピリリとせせりは、ピリリを連れていくためにやってきたおばさんと管理人さんを交え、MMRごっこをしていた。


 いや。そう周りには見える会話をしていた。


 

 このままでは確実に鼠浄土が滅亡するのは本当です。冗談ではないです。

 マジで!マジで!



 第5話 討伐と、集結と。  了  第6話 集結と、出陣と。へ続く。



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