第7話 『世界宗教同盟』の敗北

「という訳で、女子中学生のこころちゃんを男二人でボッコボコにしてきた。

500万円よこせよ」


鏡坂と高山は神社に戻り、成功報酬を受け取ろうとする。

その二人を巫女である内宮連歌が本殿の台の上から見下ろしている。

彼女が浮かべているのは侮蔑の表情であった。


「最低ですね……」


「お前の依頼だろうが!!」


鏡坂は思わずつっこんだ。


「説得してくださいよ女子中学生ぐらい。それが大人ってものでしょう!?」


「まあ……そうかもね~」

「高山ぁ!流されるな!!」


「まあ最低限の排除は達成されたそうですね。一応お二人には500万円づつあげましょう。

受け取れ下級国民!」


連歌は二人に向かって100万円の札束を10個投げつけた。


「なんだよこれ……」


文句を言いながら二人は仲良く5個づつ拾った。


「あと、高山さんは面白い情報をもってきてくれたのでボーナスです」


連歌が高山に向かって100万円の札束を投げつけた。


「ありがたいね~」


高山はにっこり笑顔でキャッチした。


「聞き出したのは俺!俺な!!」


「はいはい」


「クソが!俺にもボーナスよこせよ!!」


「鏡坂さんは一応初仕事でしたっけ?どうですか感想は?」


「なかなか面白かったよ。女の子殴って金がもらえるなんて最高だな!」


「やっぱり最低な男ですね……」


「だから、お前がやれっていったんだろ!」


「相手が女子中学生だとわかっていれば、ちゃんと説得の依頼にしてましたよ。

目撃した人物は皆『人形』にやられているので、所有者の情報がなかったのが不備でしたね……」


「連歌!お前はこころが言う『みんな』って誰かわかるのか?」


「名前で呼ぶのやめてくださいよ!馴れ馴れしいんですよ!

――私も彼女の言う『みんな』が何を指すのかはわかりませんね。

そんなに沢山『神器』持ってる部外者がいるなんて信じられませんが。

本当にいるとしたら……ちょっとびっくりです。どこから仕入れたんでしょうかね?

神器の大半は我々『世界宗教同盟』がシリアルナンバーふって管理してるんですが」


「なんだよその胡散臭い組織名は……」

「僕も初めて聞いたよ~」


「宗教の素晴らしさを知る人々が手を取り合って世界平和を願う素晴らしい組織です。

素晴らしいでしょう?

かつて、西暦の宗教は戦争の理由にすら使われたそうですが、新暦では違います。

世界の宗教はそれぞれを信頼しており、多様性を認め、世界平和のための同盟を結んでいるのです!

なんて素晴らしい事でしょう!!」


「怖ッ!」


「『世界宗教同盟』は本来全ての神器を保有し管理すべき同盟ですが、

その長い歴史の中で色々と失くしちゃったり盗まれちゃったりしてるんですよ。

だから我々は『ちゃんとした理由』があれば奪い取ります」


「なるほど。だから依頼がある訳だな。

今回も正義の大義名分を借りて金で釣って奪い取らせようとしてたのか!」


「えっ?……まあ、そういうような。そうでないようなですね……」


「誤魔化せてないぞ!」


「まあそういった野良所有者どもには気を付けてください。

我々『世界宗教同盟』の人間はあなたの神器を勝手に奪い取ったりはしませんが、

野良所有者は狙ってるかもしれない。

いや、ひょっとしたら神器が欲しい『無能』の組織も……」


「そんなん返り討ちにして逆に奪ってやんよ!」


「……特にこの街では気を付けた方がいい人達がいるんです。

最近この街にやって来た新参なのですが、

絶対に関わらないでくださいね!私に迷惑がかかります!!」


「どんな奴らか教えろよ」


「いやもうどんな奴らと言うか、人間として黒いっていうか……もう闇ですね。

人間の闇みたいな。闇キャラっていうか。もうそんな感じです」


「わかんねーよ!」

「全然伝わらないよね~」


「この世界にはジョーカーみたいな人がいるんですよ。

出会ったら、あなたが生きれるかは、相手の気まぐれ次第みたいなね……。

気を付けてくださいね。

前に一度だけ私の依頼で関わったことがありました。

その時は私にもとばっちりが来て大変だったんですよ!

とにかくなんか黒い服着てグロい事してる神器所有者達には関わらない事です!」


「なに?びびってんのか?連歌ちゃんよぉ!

そんなのお前の手駒と依頼使って、全力で潰してしまえばいいじゃん!

その『世界宗教同盟』の人達も使って戦争しようぜ!!」


「やりました」


「は?」


「すでに一回やって完全に負けたんですよ。

私が戦争の発起人でもないですし、他の街での出来事でした。

でも、私の手駒も何人か放出しましたし、大規模な依頼としても存在してました。

それでも。百人以上の神器所有者を参加させても、

『あの男』の神器の情報すら手に入りませんでした。

神器は世界でおおよそ1万個存在します。なので、世界の1%以上の神器所有者が、

たった1人のために戦ったのに負けたんです。

これは『世界宗教同盟』の長い歴史の中でも文句なしの歴代ナンバー1の失態でした。

よって、我々、『世界宗教同盟』の結論は以下です」


連歌は目をつむり、神妙な面持ちで呟いた。


「『この問題はほんの100年の間に解決するだろう』」


「……寿命待ちかよ!?」

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