第6話 VS廃墟の女子中学生
「後ろからは人形が迫ってるんだ。躊躇してる場合じゃないぞ~!」
高山が少女に向かっって走り出すが、
フロア隅の穴から人形が飛び出した。
「こっちから来たか!」
人形は高山に触れようと手を伸ばす。
高山はその動作に危険なものを感じてバックステップで距離を取った。
「お前ここで何してんだ?子供はもうお家に帰る時間だろ?
それに高山はともかく俺はお兄さんだろメスガキが!」
「私はここを守ってるんだよ!」
「何のためにだよ?」
「そ、それは……」
「何を守ってるんだよ。ここはすでに廃墟だし、お前以外誰もいねーじゃん」
「ううううっ……」
「何泣き出してるんだこのメスガキは……?」
「私は、みんなを待ってるんだ」
「話が通じねえな。だからみんなって誰だよ?」
「みんないつか帰ってくるはず。だから廃墟になっても私がここを守る!」
「話したくないって意味だろうさ~。ま、我々は我々で目的を果たそうよ。
僕があの人形を抑えるから、君はあの女の子に腹パンしといて」
「お前一人であの『人形』に勝てるのか?」
「うん、大丈夫。ま、当たらなければいいんだよなぁ~」
高山が床を蹴って飛び、天井に衝突する。
「何してんだ?気でも狂ったか?」
その後、通常の重量による落下よりも速いスピードで床に落ちる。
足が床についた瞬間、床を蹴り右の壁にぶつかる。
「おお?」
高山は常に最大の反発力で壁を蹴り、どんどん加速していく。
これは反発力の機能によるものだ。
高山の巨体がゴムマリのように室内を高速で飛び回るようになった。もう目で追う事も難しい。
「ううっ!速い……!」
敵である女子中学生も高山の動きを見て焦っている。
室内は高山のゾーンだ。
高山は弾丸のような速度で女子中学生へ向かった。
人形が女子中学生の前に立ち、高山と人形は交差する。
人形の機能により、
高山の装甲の一部が剥がされ、地面に落ちていた。
高速のため部屋の中をバウンドする。
そして、高山の体当たりをまともに受けた人形の方は、
上半身が吹き飛ばされていた。
「さ、再構築しなきゃ……」
「鏡坂?ぼーっとしてないで、仕事しなよ」
「お、おう!」
高山は高速でバウンドしながら話しかけた。
壁や床には血が飛び散っている。大分深い傷を受けた様だ。
(この速度でも相手の攻撃は防げない。
となると、あの人形に触れると機能は起動するようだな~。
攻撃くらうたびに装甲が剥げて困るよ~)
鏡坂は女子中学生へ向かって走り出した。
もちろん少女に向かって直接的に暴力をふるうためだ。
『ドゴォ!』
腹部に思い切りの打撃を加えた音が響き渡る。
腹を抑えて地面にうずくまっているのは、鏡坂の方だった。
「うっ!ぐっ!いってえええええええ!!」
「だから、帰った方がいいって言ったのに」
少女の右腕には『人形』とは雰囲気が違う装甲ができていた。
「ど、どういう事だよ……なんでこいつ自身も機能があるんだ?」
「簡単だ。彼女は神器を二つ持ってるんだろ?」
高山は発言しながら再構築した人形に体当たりし、再び破壊する。
しかし人形に攻撃するたびに装甲の一部が剥がれ、出血していた。
高山VS人形は消耗戦となっている模様だ。
(このままでは俺も危ない。一旦人形の気をそらしたあと、
所有者の方を攻撃したほうがよさそうだな)
「マジかよ!こんな子供のくせに二度も接続したのか!?度胸あるな!」
「二つの機能を使うだけでも神経使うと思うけど、『人形』と同時に使える所有者は初めて見た。
こりゃ二人対一でよかったよ」
鏡坂は女子中学生をにらみつけた。
「女とは思えない力で殴りやがって。それも機能か?」
「いちいち言うと思ってるの?おじさん素人?」
「生意気言いやがって……」
「おじさんたち、もう帰った方がいいよ!
ゴムまりおじさんの方はもう出血多量で死んじゃうかもしれないよ?」
「おいおい、大人をなめるなよ?俺達大人は500万円と他人の死を天秤にかけたら、
500万円を取る。これが大人の世界だ!わかったか!」
「なんて汚い大人なんだ!もう殺しちゃうぞ!!」
「いい覚悟だな!それでいいんだよ。俺もその気になるからな……」
鏡坂が拳を握ると、
女子中学生はいきなりその場で転び、しりもちをついた。
「ふえっ!?」
「足元を振動させたんだよ」
その隙に鑑坂は距離を詰めて、女子中学生に襲い掛かる。
しかし、鑑坂はいきなり『何か』と衝突した。
「うおっ!?」
そして、それ以上女子中学生に近づけなかった。
二人の間には透明の壁ができていた。
「そっちのゴムまりおじさんがこっちに来てくれれば、
そこで弾き返してあげたのに」
「硬い守備と人形による装甲を破る攻撃。バランスよくてたまげたなぁ……。
こりゃ排除は難しそうだね」
(鏡坂を仕掛けさせて、隙をついて強襲しようと思ってたけど。
バレてたようだね)
鏡坂は女子中学生を見ながら少し考えた。
「わかったわかった!俺らの負けだよ。負け」
「ん?やっとわかってくれた?じゃあ早く帰ってね!」
「その前に俺達にお前の居場所に入った事を謝らせてくれ。
すまなかった!」
「ふ~ん……」
「仲直りの握手がしたいから、この見えない壁を消してくれ」
「ふふっ」
鏡坂の言葉に女子中学生は思わず笑ってしまった。
意図があからさますぎる。
「その手にはのらないよ汚いおじさん!ちゃんと帰宅するまで廃墟から監視するからね」
「俺は本気で言ってるのに、その気持ちをないがしろにするのか?」
「……そ、そんなの関係ないよ!」
「じゃあ帰ろう。おい高山!無駄な戦いはやめて帰るぞ!」
「えっ」
「いいから早くしろ!」
高山は少し考えたが、このまま継戦しても消耗戦の結果自分達の敗北が見えていたので、
鏡坂の言う通りにすることにした。
「わかったよ~」
高山がバウンドでの加速をやめて、地面にすとっと降り立つ。
反発力0にすれば急減速も可能なのだ。
鏡坂は高山を見た。
致命的な怪我こそないが、想像以上に傷だらけだった。
いずれにせよこのまま戦い続ける事は無理があるようだった。
四階の階段を下り、三階に降り立つ。
「本当にこのまま帰るの~?」
「おいおい、本当に帰る訳ねえだろ」
「こっちの方が距離を取ってて楽だから移動しただけだ」
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』
三階の天井が激しく揺れ出す。
「俺の機能を最大出力にした。
もうすぐ崩落するだろうから、あのガキをすぐ拘束しろよ?」
天井が崩落する。女子中学生と人形も落下し、地面に衝突した。
女子中学生は揺れに対応して神器で壁を作り出していたが、
落下時に自分が張っている透明な壁に頭をぶつけて気絶した。
「やったぜ!廃墟だったのが運の尽きだな!」
「君さぁ……わりと使える男だね~」
高山は気絶した女子中学生を確保した。
女子中学生が目を覚ます。
そして自分の体が自分の上着によって拘束されている事に気づく。
女子高生は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にした。
上着を脱がされたとは言え、一枚だけなのでYシャツ姿だ。
しかし、脱がされたという事実に対して羞恥心を覚えた様だ。
「この状況で恥ずかしがる余裕あんの?乙女だね~~~~」
『ドゴォ!』
鏡坂は思いっきり腹パンした。
女子中学生の腹部に大人げない大人の本気パンチはかなり堪えたようで、
涙を流しながら床をのたうち回ってる。
「うううぅ…………酷い……こんなの酷すぎるよ……」
「ああー気持ちいいわ。すかっとした。最高の気分だ!」
「あのさぁ……ひくわ」
「あまりの気持ちよさにバイト辞めてこっちで食っていく決心がついた。
依頼!金!パチンコ!そういう感じで生きていきたい」
「あ、もう発言しなくていいから」
高山は女子中学生の私物を漁り、生徒手帳を見つけ出していた。
「名前は中野沢こころ。住所はこれ
「一応写真撮っておくか」
鏡坂は自前のカメラで撮影した。
「あうぅ……」
こころは顔を床に伏せ泣いている。
「おい、メスガキ」
「うぅ……」
「実は俺ら事情をよくわかってないんだよな。
一体なんでこんな廃墟にお前みたいなのが居座って、
んで廃墟を潰して素敵な施設にしようとする工事の人とか、
警察とかをボコボコにして追い返してたんだ?」
「だから、ここには『みんな』が居たから……いつか帰ってくる『みんな』のために守ってたの……」
「その『みんな』ってのがわかんねえんだよなぁ。具体的に言えよ」
「ここには『みんな』がいたんだよ。みんなどこかに行ってしまったけど。
おじさんたちよりずっと強かったよ!
私は子供だったから2つしか神器をもらってないけど、
『みんな』はもっとたくさん持ってたんだ!」
「ほう……マジ?そんな神器をたくさん持ってる奴らがここいいたと?
これは大きな情報だね~。持ち帰ると報酬増えそう」
「お前はそいつらを待ってるのか?別にこの場所でなくてもいいんじゃねえの?」
「この場所じゃなきゃいや!ここが、ここでみんなと遊んでいた……から」
「ガキのくせに思い出を守ってんのか?外へ出て遊びに行けよ」
「大切な思い出を守って何が悪いの?おじさんたちには大切な思い出がないの?」
「……ふぅ~」
「そうだよ!んなもんねえよ!」
「ふーん。おじさんたちはかわいそうだね!」
鏡坂はこころの腹を蹴った。
「うぐっ……!」
「いずれにせよお前は負けたんだ。
殺されたくなけりゃここから出ていくしかねえんだよ」
「ううっ……」
「おや?出て行けって事は、殺して神器は奪わないの?」
「いいわ。二つもあるとめんどくさそうだし」
「あっそ。まあ、これで依頼は完了かな~」
高山はこころを担いで外へ出た。
「君の神器の機能はもうバレてしまったからね。
これから君の拘束を解いても襲ってきてはダメだよ?
その時は、僕は単独で逃げて君の機能を報告するからな」
「……わかってるよぉ」
「もちろん、これから廃墟に近寄ってもダメだよ?
次はほんと排除から殺人の依頼になるだろうし、
相性のいい神器所有者が3人ぐらい来るだろう。
そうなると、本当に死ぬことになるよ~?」
「わかってるよ!私だって何も知らない訳じゃない!」
高速を解かれたこころは泣きながら走り出した。
ある程度距離をとると、あっかんべーと舌を出して二人を挑発した。
「僕らの500万円が逃げていくけど本当にいいの?」
「当たり前だろ……常識的に考えろよ。
汚いおっさんならともかく、子供に手をかけるなんて冗談じゃねえ!かっこ悪いんだよ!!」
「腹パンしてたじゃん……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます