第5話 変身ヒーローと反発力。そして厄介なお人形さん

二人はかつて自動だったドアの前に立った。

もちろんかつての自動ドアも今では朽ち果てており、

割れたガラスが床に散らばってるだけ。


「早速入ろうぜ」

「おいおい。こういう仕事の時は罠を警戒しなよ~。

そこのガラスに血がついてるよ」

「えっ!?」

「仕方ないな。僕が先行するよ~『変身』ッ!」

「なんだと!?」


高山が『変身』と叫ぶと、地面から土が盛り上がって体を包み込んだ。

数瞬の後、土に含まれていた石や金属で構成された装甲が高山の体に装着されていた。

その姿は実に造形美にあふれていて、まるで変身ヒーローのような姿だった。


「おいデブ、いきなりコスプレするのやめろ!ここはコミケじゃねえんだ!!」

「どんだけ理解力ないんだよ……?

いいか?これが僕の神器の『形態』なんだよ。

機能を発揮するための形態だよ。

僕の神器は体の外に構造が作られる形態で、こうやってそのまま鎧みたいになるのさ~」

「す、すげー強そうだな……」

「だから戦闘向きだって言っただろ?」

「高山さん。これからもよろしくお願いします!」

「強そうと感じたら即敬語かよ……?」


高山が先頭になって歩く。

案の定、廃墟の中はワイヤーが張り巡らされており、トラップだらけだった。

しかし高山の装甲は厚く、ワイヤーやガラス片では傷一つつかなかった。


「どうやらお手製のトラップの様だね~」


二人は廃墟の中を注意して探し回る。

3つのワイヤートラップと、天井からコンクリート片が落ちてくるトラップがあった。

しかし、高山の装甲はノーダメージだ。


「おい、あんまり派手にトラップを壊すなよ。侵入した事バレるだろ」

「ああ、そんなの最初からバレてるよ。廃墟の近くに来る前から見られてる。そんなもんさ~」

「マジかよ」

「――いつ奇襲されるかどうかが問題だな。

僕が奇襲にあたっても避けるか耐えるかできれば大分有利になるだろう。

君が奇襲された時はまあ……死ぬだろうけど……」

「おい、どうにかしろ」


5分ほど一階を捜索したが、目的の人物は見当たらなかった。


「どうやら一階にはいないようだね~」

「んじゃ登るか。廃墟は全部で四階まであるんだろ?」

「しらみつぶしに探して行こう」


高山が2階に上がろうとした、その時だった。

けたたましい金属音が鳴り響き、高山の顔に火花が散る。


「あっ」


思わず鏡坂から驚きの声が漏れた。

久しぶりに見る高山の横顔。装甲がきれいに剥がされた。いや、切断されていた。

高山の頬から鮮烈な色をした血が流れていく……。

高山はゆっくりと崩れ落ち、地面に突っ伏した。


鏡坂は階段の上を見上げる。

そこにあるのは一本の手。

体は壁に隠れていて見えない。

コンクリートで出来た手だけが見え、思い切り中指を立てていた。

二度手を揺らした後、ひっこめて階段から去ったようだ。

その間鏡坂はあまりの出来事に動けなかった。



鏡坂の額に冷汗が流れる。

今までの雰囲気からがらりと変わって。

――軽口をたたき、二人の中にあった気楽な気分はただの勘違いにすぎない。

この依頼は『500万円相当』の内容を持った『仕事』なのだ。


「た、高山ァ!し、死んじまったのか!?」


「いや……かすり傷だよ~」


高山はむくりと立ち上がる、頬の傷は軽いものだった。ほぼ装甲部分のみの切断だったようだ。


「顔の側面でなく首を狙えば一撃にて殺せただろうな。

すなわち、今の奇襲はいつでも殺せるのだというメッセージに他ならない。警告だね~」


神器により、体全身の装甲を形成すると言う、

高山の頼っている部分が今の一撃で否定された形になる。


「相手の神器の機能は切断って事か?こりゃ相当厄介そうだな……。もう帰ろうぜ」


「これくらいで帰れるわけないだろ……。仕事できなくなってしまうよ。

切断が機能なのかどうかはわからないぞ。何らかの機能の結果、切断が生じることもある。

ただかなりの攻撃向きであることは解った。まさか頼みの装甲が簡単に破られるほどとはね。

毎回毎回、楽にはいかないもんさ~」


「敵のお情けで生き残ったって訳だな。

今まで生き延びたのも運がいいだけだったようだな!」


「運もよかったけど、敵だからと言って即殺するような相手ではないのはわかってた。

内宮さんの説明では誰が相手でも襲いかかるという説明だった。

――殺人していないって意味だよ。相手は不殺なんだ」


「おっ!そういや確かに」


「警戒を解いていた僕を一撃で殺せたのに、殺さなかった。やっぱり甘いね~」


「負け惜しみもここまで来ると清々しいな!」



高山は自分で発言しながら疑問に思った。相手が甘い。

――それがなんだと言うのか。

ただ相手がいくら甘かろうと、自分が弱ければ勝てないのに変わりはない。


高山と鏡坂の二人は強い警戒をもって階段を登った。


二階に到着する。そこには罠が仕掛けられていない。

しかしその代わりに不自然に壁が作られていて、視界が狭くなっていた。


「なんだここは?石やブロックが積み上げられまくってるぜ」


「なるほど。こりゃまいったね。

こっちからは相手が見えないけど、この廃墟に慣れた相手はこっちを見ることができる。

隠れながら壁越しに切断するぞという意味だろうな~」


「ってことはここを探すこと自体が敵の思惑通りって事かよ!」


「探したらそうだろうな~」


「どういう意味だよ?」


「あのさぁ……君も『神器所有者』だろ?使ってくれよ!『振動』の機能を」

「お、忘れてたわ」


鏡坂が石やブロックなど目につくものを『振動』させていった。

危険な壁に近付くことなく作られた壁を崩していく。

そして隠れていたものが現れる。


「なんだありゃ!」


コンクリートで出来た人型の何かがが立っていた。

異形の姿で、胴のところに大穴が空いているデザイン。

作り物の様に見えるし、人が入れるような形ではない。


「おい!あれも高山みたいに全身装甲の形態なのか?

到底人間には見えねーが?」


「いや、あれは僕とは別の形態だよ。

神器が作り出す人形さ。非常に厄介なタイプさ~。

あの人形に戦わせて、自分はどこかで僕らを観察しているんだろうね」


人形はのっしのっしと正面からこちらへ向かってくる。


「近づいてきたぞ!?どうする?」

「あれを100万回壊しても何の意味もない。再構築されるだけ――所有者の方を叩かないとね」


二人は人形から逃げ出す。階段を登って三階へ移動する。

三回も同様に石やブロックが積み上げられた空間だ。


「二階で戦う事を想定していたなら、ここから所有者が二階を見ていたはずッ!」

「よし!壁崩すぞ!」


鏡坂が壁を崩し、粉塵が舞っている間に確かに人影が見えた。

フードを被った小柄な人物が、フロアの隅で壁を登っている途中だ。

二階から四階はフロアの隅の天井に穴が開いており、

壁から登って移動できるようになっていた。

人物の顔は見えず、足しか見えなかった。


「見つけたぞ!追いかけようぜ!!」

「いや、壁を登るなんて隙だらけだ。

上から攻撃を受ける可能性が高いし、後ろから人形が追ってきている状態で手間取るのはまずい。

階段で四階に上がろう」


「わかったすぐ行こう!」


二人は階段を駆け上がるが、三階から四階への折り返しの部分で重大な事に気づく。


「ん!?四階への階段はふさがってるぞ!?」


四階へ上がろうとする途中の階段に山ほど瓦礫の山が詰まっていた。

到底人力で動かせるような物量ではない。


「やべえ!このままでは壁に挟まれ、人形に切り刻まれちまう!」

「おいおい何言ってるんだ。塞がっているって事は、逆にそれは当たりって事さ~。

僕が破壊するから下がってなよ!」


高山が助走をかけて思い切り階段を塞ぐ瓦礫の山を殴った。

すると瓦礫の山は四階天井へと吹っ飛び、突き刺さる。

四階への道が開けたようだ。


「これが反発力100%設定のパンチだ。弱そうに見える~?」

「うぜえ……」


二人は駆け足で四階へと登る。

そこは生活感があふれる空間だった。フロアは清潔に保たれている。

中央の空間は食事をとる所のようだ。ガスコンロの上に鍋があり、湯気が出ている。

においからしてカレーだろう。水蒸気が出ており、まだ暖かい様子だ。


フロアの隅にはフードを被った人物がいた。

体格からして150センチ以下だろう。

どうやら四階まで上がって来られるのは計算外だったようで、

動揺が見られる。

人物は甲高い声で叫んだ。


「おじさんたちは出て行ってよ!」


勢い余ってフードが脱げる。

その人物は中学生ぐらいの女の子だった。


「おいおいメスガキかよ……!」


その少女は茶髪のサイドテールで、そこらへんの町を友達と一緒に普通に歩いてそうな雰囲気をしていた。

日常的な存在であり、

暴力に満ち溢れた夕方の廃墟にいるのはとても不自然に感じられる。

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