第3話 はじめての接続

神社の本殿の中での出来事を、

関係者ではない男が一人見ていた。

出来事とは何か?それは『殺人』だ。

派手な巫女服を着た若い女が、男を一人殺していた。


「おやおや。これはこれは運が悪い。

残念ながら、あなたは永遠となってしまいました☆」


男の胸には大きく裂けた傷跡があり、恐ろしい巨大な力が働いている事がわかった。

しかし巫女はそんな凄惨な光景を目の前にしても、けらけらと笑っている。

その光景はあまりに異様だ。

一部始終をのぞいていた男は、震えながら、ここから脱出する事にした。


「ダメですよ。逃がしません!」


突然、巫女が男の方を向いた。

視線があった瞬間、のぞいていた男は、

黒いスーツ姿の男達に取り押さえられる。


「ぐっ!!は、離せ!俺は何も見てねえぞ!!」


「ははは。嘘つきですね。今も死体を見ているじゃあありませんか!」

「な、何をやってんだお前ら!?」


「見て解りませんか?神への生贄ですよ」

「ッ!?」

「なーんてね!嘘です★」

「ふざけんな人殺し!犯罪者!!」


「人殺し?犯罪者?彼は単に人生の挑戦に失敗しただけですよ。私が無理やりやって殺した訳ではありません。

彼がロシアンルーレットをしたいからと言ったので拳銃を貸しただけです。

これのどこが犯罪ですか?」

「犯罪に決まってるだろ!!」


「ん、まあそうですね……例えが悪かったですね!

例えるならそうですね~……。

彼が旅をしたいというので、車を貸してあげたら、事故にあってしまった。

まあそんな感じですよ。ま、犯罪だろうがなんだろうがどうでもいいんですけどね!」

「この女、頭おかしい!!」


「ところであなたもどうですか?挑戦しませんか?」

「するわけねえだろ!」

「こんな例は少ないですよ。90%は成功です。ロシアンルーレットよりずっと生存可能性は高いです」

「10%は死ぬのか。……そんなことしてメリットは何なんだよ?」

「んふふ。それはそうですねぇ……不思議な力が使えるようになるのですよ」

「地獄に落ちろクソカルト女!!」

「本当ですよぉ?」


巫女は足元に転がっている男の死体の胸の傷跡に手を突っ込み、

奇妙なものを取り出す。


「うげえ……」


生物と機械が混ざっているブロック状の物体。


「これは複雑な1つの機械ですよ。失われた歴史の中で作られた機械です。

非常に高度な『生物構造学』が使われている……過去の未来技術です!」


「生物構造学?なんだそりゃ?」


「そのままです。生物に『構造』を作り出すのですよ。

この機械によってあなたは自分の体に、構造を作り出すのです。

まるで複雑な一つの機械装置のような……。

そもそも人体そのものが言わば複雑な機械装置のような構造を持って、そのために生命活動ができます。

例えば心臓などはすでに今ある技術である程度再現できます。

でも胃とか肝臓は出来ていません。

これは、それらの重要な臓器を傷つけず、新しい機能を持つ構造を人体の中に作り出す機械なのです。

その神のごとき技術と、多くが歴史ある宗教施設に安置してあった事から……この機械を『神器』と言います。

『神器』は人体に新しい『構造』を作る。

だから不思議な力が使える?いえ。全ては単なる物理現象です。不思議な事など何もありません。

不思議に感じるのは私達が単に未発達で無知だからです」

「……嘘くせえ……とても信じられねえな」


「見せてあげましょうか?」

「マジ?」

「私の『神器』の一部機能を見る事なんて珍しいですよ?大サービスです。

冥土の土産に見てください!」


神社の巫女が右手をあげると、その形がみるみる内に変形していった。

銅みたいな色をした金属装甲が張りいていく。

そして装甲をまとった右手で転がっている男の死体に触れた。

すると男の死体は煙を出して、すぐに白い粉となった。


「すげえ!なんだこれ!?これが『力』か……」

「私の複数ある神器の表面的な機能です。肉体を成分レベルに『分解』したんです」

「こんなのできるなら色々面白そうなことできそうだな!!

今もひっそりと死体損壊の罪を犯してたし……」


「あははっ!興味でましたか?

もう一回言いますが、神器を体に入れて体が破壊されて死亡なんて例は少ないですよ?

逆にこれだけ負担をかけるのであれば、

きっと素晴らしい『構造』を与えてくれるはず!!!!

大チャンスじゃないですか!やりましたね下級国民さん!」

「えっでも死にたくないし……こんなので死んでもいいギャンブルなんて多重債務者とかそのレベルだろ?

俺貯金100万円とか余裕であるし……一般人だし……」

「あの……下級国民さん?」

「ん?何だよ改まって」

「逃がしませんよ?」


「へ?」


「あなたはこの場で口封じされて死ぬか、

挑戦するしかありませんね。

まあ挑戦しても反抗的なら口封じをしますし、

少なくとも私の足にキスぐらいはしないと生き残れませんね」

「この女、頭完全におかしくなってるな……」

「本当ですよ?」

「わかったわかった。やりゃいいんだろ?

まあ9割成功するなら大丈夫か。

さっき1割の失敗の目が出た後だから、10割成功するってことだよな?」

「パチンコとか好きそうな健全な発想でいいですね!では早速」


巫女は神器を手に持ち、男の腹部に当てる。

すると神器から謎の繊維が出てきて、男の体をまるで編み物をほどくようにほぐしていく。


「なんだこれ!?明らかに俺の体が解体されてるのに、痛みすら感じないぞ」

「わかりません。原理は謎」

「怖すぎぃ!」


ある程度男の体がほぐされた後、神器は自ら男の体の中に入っていく。


「はい、装着完了ですね!調子はいかがですか?」

「ぐっ!?何だこれクソ痛いんだが」

「え?おかしいですね~?

痛みなどすんなりなく入るのが成功です。どうやら失敗っぽいですね!死にますね!」

「ど、どうして……?1回失敗した後だから9回は成功するはずだろ……?」

「いえ、そんなことありません。

1割の方が出ても1割で死ぬことには変わりありませんからね。

まあそもそも本当は成功率低いんです。本当は4割くらいかな~。

ま、それもあわせてパチンコみたいなもんですね。正しい情報は下級国民が知る事は決してないのです」

「…………」


男は無言のまま地面に倒れ、巫女は足先でツンツンと小突く。反応がない。


「残念ながら、あなたの存在は永遠のものとなってしまいました――――」


独特の死亡宣告の後、巫女は右手で男に触れようとする。『分解』するつもりだ。

触れるか触れないかのところで、男が声を上げた。


「や、やめろ!ギリギリ生きてる!」

「ほう。どうやらギリギリ成功のようですね」


男は口から血を流しながらも、なんとか意識ははっきりしているようだ。


「では早速あなたに新規追加された『機能』を使ってみてください」

「ど、どうやってだよ!?」

「あなたはどうやって手を動かしているのですか?

どうやって歩いてますか?それと同じで説明しようがありませんね」

「こ……こうかな?」


男が新たに追加された自分の中の何かを使った。

すると、外見は変わらなかったが……地面の砂がぶるぶると震えだした。


「『振動』ですかね?ふーん。これはなかなか強力そうですね」


「振動させる機能か。すげえ!これでいつでも……ん?何ができるんだ?わからねえ……実用性のある使い道が……」

「そうですか?結構応用力ありますよそれ。

あなたの能力はなかなか面白いようなので、生かしてあげますよ」

「やったぜ。じゃあ俺はこのへんで失礼するぜ……」

「あ、そうだ。一応言っておきますが、通報とかはやめてくださいね?

こちらは予言の能力を持つ者がいます。

そのような事をする未来になったとしたら、流石に私も始末しなくてはならない。

逆に言えば、こちらに明確な殺害の理由を与えるような真似をしなければ、殺しはしません。

まあ安心してください。私にはあなたを生かす合理的な理由があるのですから」

「予言の能力?じゃあ今日のこの結果も解ってたのか!?」

「あははははははははははははは!!!」

「笑ってごまかしやがった!」

「予言に逆らえば、未知なる未来が待っている!

無用なリスクを犯すこと。それは実に愚かなことですね」

「やっぱり殺人じゃん……」


「あなたはこれから『神器所有者』となります。

ルールを理解していただきたいですね。それがわかるまでは帰しません」

「ルール?どんなんだよ。まさか俺もそこにいる黒服みたいにお前の下で働けってか?」

「別に縛り付けたりはしないですよ。自由に生きていただいて結構です。

私の組織に入るとなると私が責任を取らなくてはならなくなります。

なので、あなたのようなアレな人はダメです。嫌です」

「うるせえ!」


「しかし我々には様々な暗黙の了解があるのです。

その一つが、『神器』を持っている事を『無能』に言ってはいけないというルールです」


「まあ言うのはいけねえんだろうなと思うけど、『無能』ってなんだよ」

「簡単です。『神器所有者』でないものを『無能』と言います。

上級国民だろうが下級国民だろうが私的な暴力の無いものは無能です。その点において私達『神器所有者』とは違う。

これは一種の特権なんですよ。暴力と言うのは特権なのです」

「バイオレンスな世界だなこりゃ……」

「どこでも同じですよ。人間は何で今繁栄しているのか?

そりゃ他の動物より暴力があったからです」

「この女の思想やべえよ……」

「ルールは他にもありますよ。

『無能』からものを盗むのはダメです。また、『無能』を殺すのも許されません」

「おいおい、暴力が特権って話と違うぞ」

「わからないんですか?頭悪いですね!」

「うるせえ!」

「『無能』から殺したり奪ったりするのは、『我々の特権』なのです。

その地域を縄張りとする組織の特権なんですよ」

「ああ、なるほど。お前ら集団の『神器所有者達』の方が、一人でいる『神器所有者』より、

巨大な暴力だから特権を貪っていると言う訳かよ。ほんとひでえ組織だなお前ら!!」

「全然酷くなんてないですよ?むしろ無差別な暴力を取り締まってる。

なぜなら民間の暴力は私達の縄張りだからです。まあ、民間の警察みたいなもんですね。

私が誰だか知ってますか?神社の巫女です。

実はこの町には『教会』と『寺院』があり、『神社』とは横のつながりがあります。

我々は使命を持っているのです。

宗教的道徳を唱えて人々を正しい道へ導き、

正しくない人には暴力によって制裁を行い正義の道を教える。

どうですか?ふふふっ。

まるで、あなたが子供の頃に見ていた正義のヒーローそのものじゃないですか?

「全然違うんだよなぁ……」


「私達が『無能』を殺すのはそれが正義であり、かつお金になるからですよ。

理由があって正義がある依頼によって殺人する。

もし、理由なき正義なき殺人依頼が来たらどうしますか?」

「断る!」

「そう!断るふりをして、たんまりお金を取れるという事です。

すなわち、こういう解釈なんです!

我々は正義を守っている。守っていない者からは多額罰金を取ると……」

「ふざけんな!」


「言うまでもなく私達は国家的に認知されておりますよ。

民間の暴力装置たる私達に対し国家が無関心であるならば問題です。

私達の存在が問題にならないのは、単に私たちの持つ暴力の方が大きいからです」


「頭おかしいよ……」


「ぶっちゃけると戦車だろうが爆撃機だろうがミサイルだろうが私達を殺す事はできません。

なぜかと言えば、『理論上無敵』を所有しているからです」


「『理論上無敵』?」


「正確に言うと、『通常兵器・機能に対し理論上無敵』です。

簡単に言えば、どれだけ強い爆弾やどれほどの数の兵隊の攻撃でも耐える事が出来る機能を持っているかです。

世界最大の核兵器や100億発の銃弾でも壊れない、また毒ガスも通さない壁を、

地下含めて作る事ができたならこれも『理論上無敵』のクラスになる機能です。

あなたの『振動』が面白いのは実際に触れていないのに揺らすことができたから。

これは他の組織の『理論上無敵』を破れる場合があります」


「確かに、そんな壁があっても内側を震えさせられそうだな」


「対して、無能どもはどんなに地位が高くても無能など相手になりません。

暗殺は実に簡単です。

『神器』は常に広義の我々のものです。

いくつかは無能がトップの組織でも所有しているでしょうが、多く所有することは許されません。

広義の我々の手により、摘み取ります。秘密のお仕事ですよ」


「どんだけ暴力にまみれてる世界なんだよ!?」


「さっきも言いましたが、どこでもそうなんですよ。

これが事実です!これが現実です!認めましょうね☆」


「畜生!とんでもない世界に入っちまった!結構今まで平和に生きてたつもりだったが……」

「あ、そうだ。普通なら最初に聞くべきことを忘れていましたね。

なんで神社本殿に入ってきちゃったんですか?ここは立ち入り禁止ですよ?不法侵入で訴えますよ!」


「俺、祭りが好きだからな。どんな準備してるのか気になって見に来ちゃったんだよ!!」

「あ、そうなんですか。バカなんですね……」


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