『神社』1

第2話 歴史と掲示板と簡単なお仕事

それは、生徒達にとってはつまらない歴史の授業だった。

すでに終わりを迎えた、暦の話。


かつて、この世界は西暦という暦で時間の経過が表現されていた。

それは4096年で終わってしまった、はるか過去の歴史。

現在は新暦2015年。


西暦2015年以降4096年までの世界の歴史は、基本的に謎である。

そして、その謎を知ろうとしてはいけないのだ。


退屈に耐えかねて、一人の生徒が質問する。


「先生!西暦はなんで終わったんですか?」


先生は真顔で答えた。


「わかりません。

何度も授業で言ったとおり、

西暦2015年から西暦4096年までの歴史は、

公的な機関による研究は禁止されていますからね」


「じゃあ先生はどう思ってるの?」

「う~ん。まあ核戦争でもあったんでしょうねぇ。

だから滅んだと……」

「ふ~ん。普通の意見だな……」


「新暦を創った人達は、大規模な戦争をした自分達を恥じて、

その歴史を隠蔽したのでしょう。

……西暦に到達した、非常に高度と予想される科学技術。

さらにその歴史、記録も全て失われていました。

それらを破壊し終わった事を記念し、新暦1年を当時の人達は制定したのです」


「野蛮すぎるだろ古代人!」


「それが、貴方達のご先祖様ですよ」






一人の男が街の掲示板を見ていた。


「なるほどなぁ……」



不思議な事に、新暦2015年は西暦2010年代と、

ほぼ同程度の科学技術を持っていた。

明確に違う点が1つ。

それは通信技術が強く制限されているというところだ。

通信技術は軍事技術として扱われており、

民間利用は厳しく制限されている。


この世界の人々の手には携帯電話がない。

そして、インターネットもない。

電話は家の固定電話しか許されていない。

それが西暦2010年代の世界との違いだ。


そして、高度な通信技術には代替手段があった。

それは掲示板だ。

携帯電話とインターネットの変わりに、街には必ず大きな掲示板があった。

ここに文字を書き込み、公的な連絡手段として使われている。

書き込む手段はアナログではない。

専用のメモリースティックに文字を保存する表示するのだ。


今は昼の2時。掲示板の前には、だらしない格好をした無職の小太りの男が一人いるだけ。

彼は掲示板の文字を読んでいた。


『紀元前500年ごろに成立した神の書物があります。

その書を読んだ三人の使いは、教えを守り、三人の迷い人を救済しました。

神の教えに耳を傾け、正しく生きれば道は開かれるのです』

『神社』より


くだらない、宗教じみた文章。

実は……これは『殺人の依頼』なのだ。


「とりあえず、行ってみるかな……」





無職の男が掲示板を見ていた同時刻。

その『神社』は、祭りの準備と言うことで、関係者以外立ち入り禁止となっていた。

かなり広い場所となっており、立派な施設が立ち並ぶ。

神社の規模としても、かなり大きい部類に入る。

もちろん全国的にも有名で、祭事には何万人と言う参拝者がやってくる。


だから、準備をするために関係者以外立ち入り禁止と言うのは、

周辺住民にとっても不思議な事ではなかった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る