第30話 迫る脅威

※書き手の力不足によりお泊まりのど定番、入浴シーンは全カットとなりました。お手数ですが、入浴シーンは皆様の妄想で補ってください。よろしくお願いします。きっと僕以外の誰かが二次創作として書いてくれるんだと、私信じてる。


追記:なんと、本当に二次創作として温泉回を書いてくださった猛者が現れました!有り難や有り難や…


URL▽

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881482851/episodes/1177354054881482905


(作:mk-2様)


詳しくは近況ノートより




ーーーーーーーー



 窓から溢れる朝日に、みずきは眩しそうに腕を眉に当てベッドから起き上がった。大きなあくびを上げ、ダルそうに頭を掻く。



「ああ、そうか、昨日はユリカの家に泊まってたんだったな……」



 広い個室をキョロキョロと見渡す。と、机の上にポツリと置かれた紙切れがみずきの目に止まった。



「なんだありゃ?」



 地に足をつき、みずきはのそのそと机の方に歩み寄った。



「これは……メモか?」



 二つ折りにされた紙を開くと、中にはあるメッセージが書かれていた。



『朝食を済ませたのち、1階ロビーに集合』



「これ、ユリカが書いたのか……?」



 丁寧な字で書かれたそのメモに目を通すと、みずきは紙を元あった場所にそっと戻し、そのまま鏡を見ることすらなくバタバタと部屋を後にした。




>>


 着替えと食事を済ませ、みずきはロビーに向かって広い廊下をてくてくと歩き進んだ。



「あ、みずき!おはよ〜」


「おお沙耶、おはよう」



 長い廊下の先、ロビーで大きく手を振る沙耶に、みずきは返事を返す。みずきがロビーに着く頃には、ユリカと東堂を含め既に全員がその場に集合していた。



「なんだ、もう全員揃ってたのか。……なあ、いきなりなんだけどさ……昨日、各自自分が泊まった部屋の本棚が目に入っちまった奴ってどのくらいいる?」



 ユリカに聞こえない程度の声でボソボソと話すみずきの話に、風菜と息吹がそっと手を挙げた。



「え、あれ?私以外全員見てるの!?確かに大きな本棚だったけど、そんなに目立つような本棚だったっけ……?」


「いや、本棚が目立つというか、その中身が目立つというか……」



「まさか他の部屋の本棚まで♂×♂した薄い本で埋め尽くされておったとは……あやつ完全に腐りきっとるじゃろ……」


「♂……何?」


「いや、わからないのならそれでよいのじゃ……てか知らんでよい」



 風菜の言葉にみずきと息吹は強く頷いた。その周りの反応を見て、沙耶は不服に頬を膨らませた。



「まあある程度予想はしてたが、こうも残念な女子ばかり揃うとは……これ魔法少女名乗っててほんと怒られたりしない?」


「誰に怒られなきゃならんのよ……」



 円を組んで話し込むみずき達に、ユリカは手を叩いて周囲の目をこちらに引いた。



「はいはい、いい加減注目〜。ちなみに、そんなに気を使って話さなくともワタクシが腐っていることはオープンなのでお気遣いなく」


「いや、それでも客室の本棚全部埋め尽くすほどBL本詰めるとかどんだけオープンなんだよ!!」



「ワタクシの部屋と保管庫に入りきらなかった物ですの。他にも買い込んだものの飾る場所がない、けど捨てるには惜し過ぎるお宝は廊下に飾っていたりしますわよ。ほら、ちょうどあそこにも……」



 そう言いながらユリカが指差した先、通路の壁には美しい絵画の数々が並べられていた。そんな中、一つ明らかにその場に相応しくないであろう2人の美少年が、上半身裸で抱きつき合うイラストが丁寧に額縁に納めて飾られていた。



「何額に入れてちょっと溶け込まそうとしてんだよ!浮きまくりじゃねーか!」



 顔を引きつらせドン引きしつつも、他にも何か面白そうな物はないかとみずき達は興味本位で美術品が飾られた通路付近をウロウロと散策し始めた。



「うわっ、凄い!刀まで飾ってあるんだ!これなんか国宝物じゃない!!」



 と、ショーケースに飾られた刀を発見するや否や、沙耶はキラキラと目を輝かせてケースにベッタリと張り付いた。



「はぁ、やっぱり刀はいいなぁ……研ぎ澄まされた地がねの肌、気高くも淑やかな刃の煌めきが私の心を捉えて離さない!……ところでなんで薬研藤四郎と厚藤四郎が重なるように置かれてるの?」


「それは”薬厚”が最高すぎてつい……薬研君が厚君押し倒してるみたいで妄想が広がるじゃーございませんか?」


「”薬厚”……って、何?」



 同じ刀の話をしているのに、この微妙に噛み合わない会話に沙耶は少し違和感を感じた。



「ああ、そういうこと……刀○乱舞にハマって本物の刀買う奴初めて見た……」


「完全に腐りきっておる……」



 青ざめた表情を互いに見合わせ、息吹と風菜はため息を吐いた。



「お嬢様、そろそろ……」


「おっと、そうでしたわね東堂。趣味を掘り返されるとつい話し込んでしまう癖は治したほうがよさそうですわね……おっほん、ではそろそろ本題に移らせていただきましょう。皆さんには前にも言ったように、まず見せたいものがあるのでワタクシと東堂に着いてきてくださいまし」



 東堂に呼ばれようやくハッと我に返ったユリカは、一度咳払いをして話を切り替えると、みずき達に背を向けて歩き出した。そのユリカの背中を追うように、みずき達はゾロゾロと彼女の後ろを着いて歩いた。


 一同がロビーに堂々と設けられたガラス張りのエレベーターに乗り込むと、東堂は壁際の辺りをゴソゴソと触り始めた。

 と、よく見ると壁の一部が蓋となっており、その中にはゴチャゴチャとしたキーボードなどの機械類が顔を覗かせていた。



「本来、このメインエレベーターは地下2階までしか行きませんの。しかし、パスワードと指紋認証を行うことでさらに地下深くの隠しエリアまで移動できる仕組みになっていますのよ」



 エレベーターがぐんぐんと下へ降りていくと、いつの間にかガラス張りのエレベーターから見える景色が一変、洋風な屋敷の地下とはとても思えない、機械仕掛けの近未来的で広大な空間が広がっていた。



「なっ……世界観が一気変わった……」


「おお……なんだこの秘密基地みたいな空間!!テンション上がってワクワクもんだなあッ!!」


「相変わらずお主の趣味はどこか少年地味とるな」



 みずきが感動をあらわにしていると、いつの間にかエレベーターは最深階へと到着していた。そこはもう先程までの洋館とは全くの別の世界、まるでSF映画のワンシーンのような機械だらけの通路が目の前に飛び込んでくる。大量の監視カメラに睨まれる中、そそくさと先へ進むユリカの後ろを一同が再び追いかけた。



「……ところで、皆様は疑問に思いませんでしたの?」


「えっ、何が?」



 と、突然ユリカが投げ掛けてきた質問に、みずき達はキョトンと顔を見合わせた。



「法律を完全無視した巨大な地下施設に衛生カメラの映像回収、更には警察の活動制限など諸々……いくら世界経済の半数を握る巨大財閥とはいえ、あまりに手にした権力が大きすぎるのでは……と」


「まあ、言われてみれば確かに……金の力でどうとなる話でもなさそうだし……」


「その答えがこの先にありますの」



 長い長い通路を抜けると、奥には巨大な自動ドアが見えた。東堂がドアの横のロックにカードキーを挿し込むと、銀色に光るドアがゆっくりと開かれた。




 目の前の光景にみずき達は息を飲む。


 ドアの向こうは暗い周囲のあちこちから蛍光色輝く、辺り一面ハイテクな空間だった。

 視界を埋め尽くすほどの馬鹿でかい空中投影のスクリーンを前に、段上になった席にたくさんのオペレーター・研究員と思われる人々が着席しており、インカム越しに指示を送り合いながら机のキーボードやパネルを操作していた。キーボードを叩く音と様々な人の声が入り混じり、辺りに響き渡った。


 まさに漫画やアニメでしか見たことないようなこの秘密基地的空間に、みずきは口をぽっかりと開け驚きをあらわにした。



「す、すげぇ……なんだこりゃ……」



「ふっふっふっ、驚きましたね?巨大財閥というのは表の顔!これこそ神園グループ真の姿、リブロ・ディ・マジーア……通称”LDM本部”なのです!!」



 広げた右手を天に突き出し、ユリカはドヤ顔で決めポーズをとった。



「リブ……何?」


「まあ呼びにくければ今まで通り神園グループや白爪家とでもお呼びください。LDMは、日本政府含め世界に認知された神園グループ私設軍隊兼魔道研究施設なのです!言わば国家直属の秘密結社といったところですの」



 ユリカがくるりとみずきの方を振り返った瞬間、”LDM”の文字がデカデカと背後の巨大画面に映し出された。


 どんどんと規模の膨れ上がっていく話に、みずき達の額にはジワジワと冷たい汗が滲み出した。



「おいおい、何だかとんでもねえ話になってきやがったな……」


「……それだけのことにボク達は足を踏み入れてるということだよ。それはみずき、あんたが一番理解しているはず……ユリカ、ここが極秘機関だというのは理解したけど、魔道研究施設ってのは一体どういうこと?」



 的確な息吹の質問に対して、ユリカはふっと笑みを浮かべ答えた。



「ワタクシ達はあなた方よりも、それこそニューンや魔道生物がこちらの世界にやってくるずっと以前から魔法という概念がこの世に存在するということを知っておりましたわ」


「なっ……!?」



 ユリカの言葉に、息吹は驚き思わず声を漏らした。



「以前から科学によって魔法を解明するという動きは、極秘ではありましたが頻繁に行われてきましたの。これはLDMに関わらず、様々な機関で研究が進められております。しかし、ある出来事をきっかけにワタクシ達LDMはこの横浜に本部を置くことになりました……」


「それって8日前の魔道生物による横浜襲撃……私が魔法少女になったあの時に……」


「残念、ハズレですの」


「なっ……!?」


「考えてもみてください。ワタクシとニューンが出会ったのはその2日後、いくら白爪家とはいえ、たった2日でここまで巨大な施設を造るのは不可能ですわ」


「た、確かに……じゃあ一体どうして……」



 ここまで話すと、ユリカは一度大きく息を吸い込み、ゆっくりと歩き出した。かつかつと足音を響かせながら巨大画面の方へと前に出る。



「5年前、この横浜の地下から謎のエネルギー波を感知しました。その正体は魔力。この横浜の地下に眠る魔力について調査するため、ワタクシ達は日本にやってきました。最初、それは我々が独自に開発した魔力探知レーダーに僅かに表示されるかされないか程の微弱なエネルギー波でした。しかし、観察していくうちに、それはとんでもない早さで力を増幅させていったのです。それこそ、無理に地下引っ張り出そうものなら地上が無事では済まないほど大きなものに……そして今ではこのザマですの」



 ”このザマ”……ユリカがそう言った瞬間、巨大な画面にある映像が映し出された。



「こ、これは……!?」



 その異様な映像を前に、みずき達の体は小刻みに震え出した。


 映し出されたのは地球を表したであろう簡易図だった。そして、その地球を模した図の地底全体に、根を張るようにして禍々しい赤い何かがそこに表示されていた。



「……こいつは驚いた。彼女から話は聞いていたが僕も見るのは初めてだ。これが全て魔力だとすれば……地球はかなり危険な状態にあると言って間違いないだろう」


「おいおい、マジかよ……」



 目の前の現状に、みずき達の目の前は真っ暗になった。額から溢れ出す汗が治らない。



「これが一体何なのか、何故横浜から根を張るようにして世界中を侵食しているのかはわかりません。ですが、これには闇の使者……いえ、組織化していることから、ワタクシ達は彼らを”オスクリターα”と呼んでいます。彼らαがこの件に絡んでいると考えてまず間違い無いでしょう」



「……なるほど、今後は闇雲に戦うだけでなく、連中の目的が何なのかを突き止める必要があるわけか……」


「はわわ……話が大きくなりすぎて混乱してきたわ……」


「これはおっかなびっくりな真実じゃな。これでアッシらは今まで以上に危険な沼に足をつけてしまったわけじゃが……さて、どうするみずき?」



 風菜の質問にみずきはしばらく沈黙すると、ぐっと拳を握りしめ、覚悟を決めた表情で顔を上げた。



「どうする……だって?そんなのあの日、魔法少女になった時からとっくに決まってんだろ……みんなが必死に生きてるこの世界を、これ以上好き勝手にされてたまるか!!私は戦う!この気持ちは死んでも譲れない!!」



 みずきの熱い言葉に、一同がふっと笑顔を見せた。それでこそみずきだと言わんばかりに風菜が肩を持つと、みずきもまたニッと笑って見せた。




 と、その時、突如みずき達の背後のドアが開かれ、外から一人の女性が急ぎ足で基地内へと入ってきた。



「東堂さん!大変です!」



 東堂の名を呼びながら駆け入ってきたのは、美しい金髪を靡かせフリフリのメイド服を身に纏った女性だった。


 白爪家に仕えるメイドと思われる女性。しかし、明らかに面識のないであろう彼女に、みずきは何故か見覚えがあった。みすきはじっと目を凝らし、そのメイドの顔を見詰めた。



「……ああッ!どっかで見た顔だと思ったら、あんたもしかして私を捕まえようとしてた警察か!?」


「なっ……出たなコスプレ女!!」


「いや、この状況だとあんたの方がコスプレ女だろ。メガネ外して髪ほどくとマジで誰だかわからんくなるな……」


「じ、じろじろ見てんじゃないわよッ!!」



 小坂元警部補改めメイドの小坂は、周囲から突き刺さる視線に短いスカートを両手で一生懸命下に引っ張った。



「なんで警察のあんたがこんなところに……しかもそんな格好までして……」


「小坂さんは自分の正義を貫くため、捜査から手を引いた警察組織を既に辞めておりますの。ですが、彼女はあまりに色々知りすぎてしまっていたため放っておくわけにもいかず、ワタクシ達の監視下のもと協力して貰うことになりましたの。何故メイドかというと、冗談で用意した衣装が予想以上に似合っていて……いえいえそうじゃなくて、極秘任務の協力者がただの一般人より、ある程度関係者であった方が都合がよかったからですの。……して、小坂さんは何をそんなに慌てていらっしゃったんですか?」


「あ、はい。それが朝の庭仕事をしていたところ、何やら外がやけに騒がしくて……」




”ビーーーーーーッ!!!!”




 小坂がそこまで言いかけると、突如基地内に緊急ブザーの音が響き渡った。



「何事だッ!!?」



 東堂が声を上げると、LDM本部内の人間が全員即座に動き出した。



『特定しました。横浜市内、CPショッピングモールにてαの反応を確認!』


『敵の襲撃を受けたため建物が破壊及び発火!現在こちらでも避難誘導を優先しております!』



 あちらこちらから渦巻くようにして聞こえてくるオペレーター達の言葉に、みずきは怒りで拳を近くの壁に叩きつけた。



「くそッ!!奴らまた罪のない一般人を巻き込みやがって……!!」


「これはまた、近所で派手に暴れてくれたみたいですわね。さしずめワタクシ達を誘き寄せるための罠と見てまず間違いないでしょうね……しかし、奴らは知らない。このワタクシ、5人目の魔法少女の存在を!さあ、今すぐ向かいますわよ!」



 自信満々に飛び出したユリカに続き、一同は一斉に駆け出す。映像越しに映るショッピングモールは煙を上げながら轟々と真っ赤な炎に包まれていた。





―運命改変による世界終了まであと100日-

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