第25話 同棲することになりました

 のぞみは早速その日のうちに清三の家に行くことになった。清三が前からのぞみに同棲を打診していたこともあり、離れはいつでも使える状態になっているらしい。それ以外にのぞみに必要な洋服などはママが用意して明日届けてくれることに決まった。

 もちろん桜ものぞみと一緒にその日から清三の家に行くことになった。桜と松は顔を青くしたまま何度も清三に頭を下げていた。

 その姿を見たのぞみは、自分も自覚が足りずに桜や松に迷惑をかけて申し訳ないな、と思っていた。


 

 清三が呼んだ車は、以前のぞみを迎えに来た車とは違い、黒塗りのワンボックスカーだった。中が見えにくいようになっているらしい。なんだか物々しくて、のぞみは更に怖くなっていた。



 車で清三の家に向かうと、玄関には桜のお父さんがいた。どうやら離れに案内をしてくれるらしい。清三はのぞみを抱き上げようとしたが、のぞみは恥ずかしくて断った。怪我をしたのは腕で、脚は歩くことに問題ないのだ。のぞみに断られた清三は心なしか肩を落としているように見えた


 

 離れは本殿にあるのぞみも通ったことがある廊下から、隠し扉のようなところを通って行くらしい。特に隠している扉ではないらしいのだが、壁と一体化して見えるようなデザインになっており、のぞみは前回この屋敷に来た時に、そこに扉があるとは気づかなかった。


 やっぱり……忍者屋敷なんだ。


 のぞみは案内されながら、そんなことを考えていた。


 

 離れはのぞみの家と同じくらいの大きさだった。洋館のような作りで、キッチンや居間、そして一部屋だけ和室があった。そして2階にはのぞみ専用の部屋も用意されていた。


 なんだか……落ち着く


 のぞみの部屋の内装は、のぞみの家の内装に似ていた。

「この部屋嬉しいです」

 のぞみがそう告げると、清三は少し眉間のしわをゆるめ頷いてくれた。

「内装を変えたければ言ってくれ。一応、のんちゃんのお母さんにコーディネートしてもらったんだ」

 清三の口から出た言葉はのぞみにとっては驚きの事実だった。


 ママ……こんなところまで


 ママはいつの間にか清三の家にもお邪魔していたらしかった。

「明日からはしばらくは運動は控えた方が良い。それから食事もしづらいと思うが……」

 そう言って清三はのぞみのギブスをはめた右腕を見る。

「着替えは一木桜に手伝ってもらえばいいが、食事は俺に任せてくれ。食べさせるのは得意だ」

 清三はどうやらのぞみにご飯を食べさせたいようだった。

「自分で、大丈夫です」

 のぞみは清三に断りながら顔が熱を持つのを感じていた。清三にあ~ん、とされているところを想像してしまって恥ずかしくなったのだ。



 桜は本殿に住むらしく、必要に応じて呼べば来てくれるらしい。本殿には松も住んでいるということだった。朝食はのぞみの希望で、清三との生活に慣れるまでは離れで松と桜も交えて取ることになった。


「のんちゃん……」

 清三が珍しく口ごもる。清三はあまり必要なこと以外は話さないし、唸っていることもあるが、口ごもることはほとんどない。のぞみは不思議に思い、清三を見上げてしまった。

「はい」

「いや……その……まだ……同衾、はできないから……安心してほしい」

 どうやら清三は、同衾という単語が恥ずかしかったようだった。同衾と言った時の声が震えていた。のぞみはそんなことは全く考えていなかったので、清三に言われて初めて意識することになり、顔がほてってしまった。

「あ……まだ……未成年ですし」

 と、自分でも意味の分からない言い訳をして、その場をごまかした。その後もふたりはぎくしゃくしながら夕食を食べた。のぞみには気を利かせてくれたのかサンドウィッチが出されたので、ありがたく左手でいただいた。この時、清三にあ~んをされていたら、恥ずかしくて悶絶していただろう。


 ふたりのぎくしゃくした空気は夜寝る前の挨拶まで続いた。


 そんなこんなで同棲1日目はスタートしたのだった。

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婚約者が……強面の忍者でした 一瀬碧 @ichinosemidori

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