第8話 ジレー会にて


七、  ジレー会にて



最適な永遠を求める事は、先進国である事のプライドなのか、今、存在しているモノでなんとかなるのであろうとも、私利、私欲の希み理論と、詠嘆プリミチブしかり。


奇傑にbluebloodと合わせ、世の今現を知らぬゲージュツ家が木履でステップを踏み流す。


矢大酒店に現れた、アルブルという青年二人組み、無駄話しの連鎖球菌でくくられた社会で、一つそこに置こうが、使おうが、創ろうが、手を合わせて大絶賛などと、終わる事は無い。

ひねくれたネジ穴に山を潰して、潰されるのか、狙うのか。


同等の価値と飛び抜けた才能と無理にでも、押さえ込もうと枠にはめるのは、その社会でいる者が動かずと、他力で欲望を埋め、個々の才を盗む奴だと。




「決めてある事は楽だよ。」


「まず、辿り着くまでの無駄は無い。」


「ゲぜルシャフトであれば、ふるいにかけるだろうね。」


「いや、今は少し増やして固めてるよ。」


「出さずじまいが、不味いんじゃないの?」


「海外の製品だって、なんだってあるじゃない、日本に。」


永遠をもとめつつも、はかなく終わる日々なのであるかと

永年愛用しているロイド眼鏡をかけ直した。




「イトスギ、ヒノキ、カモミール、と、あ、こちらはエゾマツのかざぐるま。小鳥が心地良く鳴いてくれて。」


嶺御ネオさんのトリカゴ、森の中ですね。」

「自宅はもっと凄いよ。」

「剪定していると、盆栽ともね。エゾマツは月読さんからの頂きモノ。」

悠雪ユウセツさんはタディングレースのジレーですのね。バニラちゃん幻国の美庭ビテイで羽衣の薄桃色がバリエテに飛んで色彩豊かで、嬉しいわ。」


私は、セキセイインコのアリアを連れ、ジレー会に参加した。


嶺御さんはアリアをとっても気に入ってくれ「アリアムーン」と呼んでいる。


ジレーというものは、チヨッキ型のものもあれば、首飾りと襟に巻いてあるものもあって、とても可愛らしい。


バニラちゃんは、オーストラリア原産のモモイロインコでウサギの花梨ちゃんとほぼ大きさは同じ。


カラフルな小鳥達がサボブレスの二階に集合し、それぞれのジレー会を身につけて、ポートフォリオの撮影会が始まるのであった。


嶺御さんのフラッパーは赤色と青色オオハナインコ。とても人なつっこくて、ヨチヨチと床を歩き、嶺御さん手製の襟高いフラワーレースのジレーを付けると、自ら額縁の置かれた撮影台の上に乗った。


「こちらのジレー、アリアムーンにお似合い。私の、いくつかご覧になって見て。」


小さなトランクの中には、編まれたりレースが縫い付けられたジレーが虫ピンで並んでいた。


「わ-。ド-ルケース。衣装箱ですか。凄ーい。アリアには大きいですよね、少し。」


「フフ。そうね。」


「タディング、一つでほら。」


「ジレーを付けてくれるまでがね。」


悠雪さんは、編まれた小さなボンボリを持つと、アリアをなでた。


「赤カナリアの方は、今日は?」

桜樹オウジュさんは、これから?かしら。」


「カノンちゃんが落ち着くまでねぇ。」


「琴美、巣箱の人、あの人よ。」


「こちらの方々アルブルさんです。巣箱作家さん。」


「小鳥の撮影会、ちょっと見学させて下さい。

どうも、こんにちは。アルブルと申します。小鳥の撮影会なんて聞いたものですから、集まりの鳥たちに僕らも関心がありまして。

創作巣箱というものですが、

『合奏ホームズ』といった事をテーマにしています。

小鳥達も集まれば、きっと心地良さを追求してくるのではと思うんですよね。

まあ、今の人々が僕達の巣箱を見て、どう感じ捉えるのか、という事ですけど。赤カナリアが行方不明になった。そこの所にも奏でがあるのかと。

美柑さんから話しを聞きましたし、その後も、どうなったのかと、、、偶然シールを見かけまして。

美柑さん、天青広場で画家さん、シール見ましたよ。」


「あぁっ。シール、見てくれたんですね。良かったぁ。ありがとうございます。付箋でも、どうぞ。二枚、あっと四枚。」


「まだ画家さん、どの方なのか。」


「何名か絵描きの人、いましたけど。」


「アルブルさんの巣箱じゃぁ、バニラ片足でも無理よ。」


「はぁー・・・?!。」


「そう言っても、理想的。いい?額の中に。」


嶺御さんは、壁から台を話すと、奥にあるイスの上に巣箱を乗せた。


「アリアムーン、おいで。

こうすれば、あ、枝に掴まらせて、と。」


「アリアのブルーも映え映えしいわよ。」


嶺御さんコーデで、アリアの撮影も大好評。


サボブレスのジレー会では、アルブルさんやら、一階までも賑やかでジュークボックスの前でも、演奏も始まっていた。


♪ー


チート。チタタタ。 ,,,,,


不思議な音。


店内から?外?スピーカなのかしら、


二階では、金属音と木琴とフルートのエレクトロニクスが混ざり合い、弾んで響いて、アリアも首をかしげて聞いている。


時折、小鳥達が鳴いて、音に乗っていた。


ピアニカで音を出している人は、ミキシングされた音と合わせ、頭を下に向けたまま、揺んらりと静かに身体を動かして演奏しているのだが、ピアニカを止めると、ジュークボックスにコインを入れ、ミキシングされた音と重ねたり、頭を抱えては、ピアニカを小さく前に置き、肩を揺らして演奏していた。


「不思議な曲。流れているの、あの人の曲?」


「ピアニカ吹いて、ボタン押したりしてるけど。

あ、

ジュークボックスへコイン入れた。」


「2回目よ。」


「さっきから、ずっと演奏してるのよ。」


草原に住む生き物が、町へ風へと、リズムを送ってきたのか、海洋の和音の波が、うずを巻くと、ノイズ音にかき消され、再び、生き物が現れた。


冷えた音と落莫した森と空っぽの小石がガットで跳ね飛ばされるのだ。


「二藍さん、ほら、ジュークボックスの横に。」


「行ってみよ。」


何度かサボブレスを訪れている私達だが、パンパスの森へ入る事はあの時以来は無かった。


「二藍さん、アリアです。」


「こんにちは。ジレーどうですか?皆さん凝ってる方々多いですからね。」


「付けるまでがって。悠雪さんのボンボリで暫くは。」


「 先にお創りになれば、その方がアリアちゃんもわかるかもしれませんよ。」


「そうだよ、琴美。」


「うん。」


「今日は、賑やかですね。」


「薄荷匠太郎さんという方です。あの方は。」


「ミュージシャンのライブがあるなんてね。」


「というよりは、音楽学者さん。」


「学者さん?」


「そう。あちらの席に座って下さい。

アリアちゃんもどうぞ。」


二藍さんは、演奏しているあの方の所へ、キラキラと金色に光る水を置くと、黙って音を聞いていた。


「スノードームドリンク!?」

「水母は入ってないよ。」


「いらっしゃいませ。本日のメニューでございますが。」


「どうも。こんにちは。大切さん、私達、今回は…。」


「サモワールですか?」


「はい。」


「ロシアでは、お砂糖よりは、甘ーいジャムとなります。

ベリー系とマーマレードに、レモンキウイと、割と沢山飲めますから。

お湯が無くなったら声を掛けて下さい。」


「スミレパイって後をひく程美味しいよね。」


「熱々のチーズとソースが卵とピッタリでね。」


「熟成されてるもん。家では上手く

出来なかった。」


「作ってみたの?琴美?」


「私、チーズ大好きなんだけど、ブルーチーズはダメなんだよね。」


「あーわかる。」


「青カビだよ。だって。」


「他の食べ物も、古くなると、すぐカビるけれど、食べないよ。」


「ポツンとあっても。」


「全体的にとか?」


「はっきり見えているのに、どうしてなの?」


「どこまでが良いのかわからない。食

べられる人と、食べられない人がいるって事だから。」


「それでOKって事。」


「禁止には出来ない訳よ。」


「ワガママとは違うよね。」


「そう、そう。えっそれで、もしかしてスミレパイ、食べたいの?」


「頼んでもいい?」


「今回は、サモワールにされたんですね。初めに、私、入れますね。」


二藍さんが、大きな容器を持ち運んで来てくれた。


「あのーそれで、スミレパイもお願い

したいんですけど。」


「ええ。どうぞ。」


二藍さんは、大切さんを呼びに行くと、演奏の終わった学者さんに声を掛け、私達の席へ一緒に来た。


「月読さんも、こちらへ。」


「私も宜しいかな。」


「慶案さん、薄荷さんもこちらに 。」


「先程演奏されていた薄荷匠太郎さんです。」


「どうも。」


「琴美さん、美柑さん」


「私、慶案です。

どうでした?薄荷さんとしては。」


「まだ、ちょっと。あ、いやどうぞ、気にせず。」


「音楽が自然な感じで良かったですよ。河原で魚も聞いてそうだが。」


「ええ。」


「鳥も鳴いて、今日のジレー会、皆さん喜んで。」


「ああ、はい。」


薄荷さんは、ピアニカをケースに終いながら、目をパチパチとさせ、アリアを見ると、頭を抱えて、首を回していた。


「皆さん、サモワール、紅茶とジャムで召し上がって下さい。」


二藍さんは、もう一つ容器を持ち運んで来た。


「薄荷さん、」


「…………。」


「薄荷さん、フルーツのソーダですが。」


「え?」


「フルーツソーダ水、どうぞ。」


「ああ。」


薄荷さんはソーダ水を一気に飲み干すと、しばらく目をつむって、身体を揺らし音をとっていた。


「まだ、演奏してるんじゃない?」


「お嬢さん方は、ジレー会の方?」


「はい。初参加なんですが。」


「アリアです。」


「私は美柑です。こちらは琴美。

画家さん探しに御協力お願いします。」


「はは。赤い鳥ねぇ。これは日本の河原では、ななかなか見られない動物だ。」


「画家さんです。探しているのは。」


「ああ、画家さん。なる程ねぇ。」


「失礼致します。スミレパイでございます。」


「スミレパイ?」


「卵を掬って、チーズとパンで。絶品ですよ。」


「ニワトリの卵はカゼひきにも良いですから。栄養つけて、薄荷さん。」


「スタミナ切れですか?食さなければ、酸欠になりますよ。」


「いや、そういった訳でもなく…。」


「薄荷さん、音の効果を第一にと、お考えされている。となると、受けた側は、メンタル的に、考えすぎている場合もあると。」


「気に入っておりますよ。私は、薄荷さんの音楽。」


「他の評価やらと、あれやこれやと言う者は、少し病んでいるもんですからね。自己評価で、考えている事も、同じ事。」


「ああ、はい。どうも。

いや、しかし、鶏がうるさくて。」


「ジレー会で鶏連れて来られた方いる?」


「鶏は…いなかったよね。」


「うん。いなかったよ。いなかったけど…。」


「そうでは無く…、レンズにね、勝手に映って来る残像映像というかね。

、、、まぁ、気にせず。」


薄荷さんは、ソーダ水のグラスの中のフルーツを口の中にどんどん運ぶと、紅茶のカップの中に、マーマレードをたっぷり入れて、ぐるぐるかき回し、肩の力を抜いてイスに寄り掛かって、暖まっていた。


「どうぞ、どうぞ。スミレパイも食べて。」


慶案さんという方は、薄荷さんに食事やら、音の調子やらと世話をし、楽しく話をしているのだが、薄荷さんが再び目を閉じたり、頭を抱え込んだりし始めると、手帳を取り、スケジュールなのか、何か記入していた。


「鶏じゃなければいいのかねぇ。」


「おたまじゃくしが、浮かぶのでは無いの?普通は。

かぼちゃだって、楽しい?」


「湯のみに映ずる招き猫」


「木の下やみで病みほうけていては、ソーダ水飲んだってムダ、ムダ。

お嬢さん方も食べなさいよ。」


「はい、私達はもう、ね。」


「あ、食べ終わったの?

そうでなくちゃね。」


「汚染された食べ物などを食べ続けると、不安になり、脈拍微弱に熱なども。中毒的な症状なのであれば解毒作用のあるものを取られた方が良いかもしれませんね。」


「いや、まぁ、鶏じゃなければ……。」


「三角食べしてるの?種類豊富に食べなけりゃ、ヒットどころか、ファーストゴロだね。あれ、薄荷さんも丸パンの常連さんじゃない、ずいぶんと買い込んだもんだね。」


「いつもの薄荷さんらしくないですねぇ。ちょっと緊張してる?」


「…………。」


「薄荷さん?」


「いや…、まぁ。」


「ドーパミンの分泌が心泊数を過剰に増加させ、しびれなどの症状を起こす事もある。ヒスタミンが身体に溜まり、知覚神経を刺激すると。

音が消えるなんて、音楽学者としては、致命傷ですからね。薬剤師が言うのもなんですけれど、私としては、薄荷さんの食生活になんらかの原因があるのではないかと思います。」


「慶案さんは、毎日美味しい食事、召し上がってますから。ヒノキや松林で森林浴、忙しいからね、現代人は。

家ではこれ。はい、檜のかざぐるまどうぞ。」


「いや、しかし、成長ホルモンが減少し、代謝が悪くなってきている可能性もある。大量の丸パンもいいですけど麦角中毒性の症状か、もしくは、、、、

そういえば薄荷さん、この前、矢大さんで、ブルーチーズ食べましたか?」


「ええ、まぁ、、食べたか、、無いような。ゴホンッ、、そうは言われましてもね、我音ガオンのノイズは音の一部として必要な事も

……あるんですが。」


「いいですよ。音は。

薄荷さんの音。

ねぇ。お嬢さん方もどうでした?」


「草原というか…、

不思議な音でした!」


「自然の音楽で、沢山の音があっちからも、こっちからも聞こえてきたので、広ーい空間音というか…。」


「ジュークボックスで流された音楽と合わせて曲が重なってきたのが凄いなって。」


「ほら、こちらで演奏したのも、悪く無いでしょう。その電子ピアニカ、ユニークだよねぇ。

自作なの?北口の音器オトキ屋さん?

しかし、川も酸欠じゃ、息苦しいって思う訳ですよ。」


「ええ、まあ、そうですが…。」


「挑戦してね。これからは、琴美さんも美柑さんも。

そして続けて行く事と、自信を持たなければ、受け側だってどうしたら良いかと考えてしまうよね。

他の国々の良い物も、まずは自分達の為に作っているのでは?

全てを世界レベル、地球規模で考えてしまうと、全ては通用しない。

まずは自分で使用し、自分の国で喜ばれ無ければ、自分で創っているのに、気が付かず、

なんて事ばかりになるよね。」


「自分の力量を知る。と。

力持ちは好まれるのに、足が速いのは生意気かって。

誰が創ったのか解らないと、責任も無い物になるからねぇ。

ブロックし続けるのも、配信されていない様な事になっているのではないかと。」


「………。あー、まぁ、

破壊する事で、利益を得ようと、修復に辿り着く前、目星を付けていたとすると……。

ゼロですよ。

使われる物までもが失われる事になる。」


「そうかねぇ薄荷さん、ターゲットにされたら、アウトになるのかねぇ。」


「文化をね、自分の国の文化を大事にすると。

但し、世の中を知る事と、正確な情報と、その身に付ける事と言うかね、

教養の行く先、

届く先の方向が、合わないと

まとまらないし、聞かないじゃないかって。」


「最悪なのは、悪く無いのに、悪いモノと勘違いしたりね。」


「ウォッカ戦争なんてありましたけど、発砲酒でビール戦争しませんよ。平和だから、日本って。

さとう大根で車飛ばしてねぇ、酔っぱらいなんだって。」


「月読さんでしたら、小船の上で乾杯できますけど、まぁ薄荷さんの場合、鶏ですからね。

日本人は、アルコール分解が遅いらしく、水種ってむくみですが、甲状腺に多量のリンパ液が溜まって、エラがガチガチになったら、一方通行。

挙げ句の果てには行き止まりですよ。」


「上にも下にも通らない。って事でしょう慶安さん。

新陳代謝を善くしなければ、駄目なんだってだから。」


「失礼します。薄荷さん、先程の紫雪シセツとまでは…いいませんが、

ですが、いくつか甘草、丁香、黄柏もろもろ、 梅エゴマ等、包みましたので、食事の時にでも、一緒に。」


二藍さんが、白い角封筒と、キラキラのスノーボールソーダを持ちこちらへ運んできた。


「あ、どうも。」


「しかし、鶏がうるさいのであれば、イソソルビドが良いのかもしれません。

鶏の駆除に集中しすぎて、栄養不足。

他の作用が働いてなどと、負の連鎖反応も、困りものですが。」


薄荷さんの言う鶏とは、一体なんだろう。二藍さんも落ち着いた様子で包みを渡しているけれど、慶案さんのお話を聞いていると、私も美柑もちょっと心配にもなってきた。


「二藍さん、本日は、バニラがとっても喜んで。」


「フラッパーも、ヤマユリをバックに、馬車に乗せたのよ。懐かしいわぁ。」


「あら、アリアムーン、ジレー楽しみに。はいフサスグリ。フフフ。」


嶺御さんは、実のついたフサスグリの小枝をアリアのトリカゴに差し、二段になったワゴンに乗せている大型のバニラのトリカゴに、ド-ルケースと運び出し、サボブレスを後にした。



「可愛いよね、バニラもフラッパーも。良かったじゃない、琴美。アリアもなついて。」


「私にできるかしら…。

まず第一歩としては、ジレー製作にがんばる。」


鶏にうなされている薄荷さんは、バニラとフラッパーの登場で、もしやと私は、イスに寄り掛かる薄荷さんを見たのだけれど、スノードームに輝く金粉を両手で抱え、瞬きをしな がら、まったく動く事は無かった。



「二藍さん、お客様。」


リリィを乗せた大切さんが二藍さんを呼びに来た。

大切さんは、手の平に小さな鈴蘭を並べ、テーブルに一つ飾りを付けた。


「リリィ、おいで。」


「アリアはまだ、無理ですか?」


「はい。カゴからはまだ出られないです。嶺御さん方は上手ですね。」


「バニラはウサギみたいでしょ。お店では飛ばないんですよ。」


「リリィみたいになれば良いんだけど。」


「少しづつね。」


フサスグリを啄んでいるアリアは、首をかしげてはリリィを眺めていた。



お店の入り口で話をしていた二藍さんは、嬉しそうにこちらに向かって来ると


「美柑さん、琴美さん、画家さんいらっしゃいました。」


「えーっ見つかった!来てくれたんですか?お店に。」


「はい、こちらの方です。画家さん。どうぞ、お席に。

桜樹さんに御連絡。嬉しいお知らせね。」


紗城シャシロと申します。」


「画家さんですか?良かったぁ。」


「天青広場に、赤カナリアのシールが貼ってあって。どういう事かと、驚きました。」


「赤カナリアが迷子になっていたんですよ。」


「それで、見つかったと。

私まで探されていたとは。

しかし、良く見つかりましたね。」


「画家さんの、絵のおかげですよね。」


「鳥を描いていたのが、お役に立てて、なによりです。鳥の絵はわりと多く描いていますけれど、祖父もこちらのお店で絵を描いた事があると聞いております。」


「ルックサックの方?えーと、紗城さんとおっしゃっていましたけど…。」


「祖父は、蒼井アオイという者ですが。」


「蒼井さん!!駝鳥の絵を描かれた…。そうでしたか…。サボブレスに蒼井さんの絵は、いくつか飾っております。それでは御孫さんなのですね。まぁ、一つの絵でこんなに繋がっていくなんて、和楽にくつろいでいって下さいね。今スミレパイご用意致しますので、お待ち下さいね。」


「あのー、二藍さん。」「はい?」「スミレパイ、どうやって作るんですか?」


「ご覧になりますか?では、お二人共、頼まれて下さい。アリアちゃんは、大切さん見てあげて。どうぞ、こちらに。」


私は思い切って二藍さんにお願いしたものの、内心出来るのか少しドキドキしてきた。


「琴美って、チーズが大好きなんですよ。家でもスミレパイ、作ってみたんでしょ。」


「はい。でも、スミレパイとはかなり違って、やっぱりお店の味とは全く別の物です。」


「スミレパイは先代の奏恵八十吉ソウケイヤソキチが、ヨーロッパ滞在中に小さなビストロで召し上がってきた味を再現したメニューなんです。」


「はぁー?」


「サボブレスでは定番になっているメニューで、スミレパイを楽しみに来店されるお客様も多いんですよ。

栄養満点で健康に良いからって。

持ち帰られるお客様もいましてね、そういったご注文の方に、お二人にも描いていただきましたけど、紙石鹸 を一 枚お渡ししているんですよ。

当時は八十吉が自身で描いていましてね。

そちらも出来上がっておりますから、持っていって下さいね。さぁ、それではお二人には卵の殻を剥いて頂きます。いいですか、熱いうちにどんどん剥いて下さい。」


「えー!?」


厨房の中は、スチームが立ち昇り、シュ-シュ-と鍋や釜もコトコト、グツグツ、忙しく音を立て、パイの敷かれたプレートが調理台に並ぶ。


私と美柑は、とにかく卵の殻を割ろうと熱いゆで卵を持ったものの、熱くてボールに戻してしまった。二藍さんは、ご覧になって下さいとチクチク卵に切れ目を入れると、水にさっとくぐらせて、あっという間に殻を剥いた。


「卵が冷めないうちに、ワンプレート、全部で8玉、こちらにお皿を置いておきますので、お二人で8玉剥いてみて下さい。」


「わっ、琴美っ失敗、かけちゃった白身が。」


「熱いから少しづつしか剥けないよ。」


「やだ、二藍さん、もう8玉お皿に乗せちゃってる。」


「こんな感じに並べましたら、クリームソースをかけまして、こちらチーズですが、全てサボブレス特製のものになります。温めておいたオーブン250℃、上段に乗せて、焼き具合を見て下さいね。」


「4つ、並べたね。あと4つ。」


「冷めないうちに、あと4つ。」


「焼き具合が、見れないじゃない。わっ、これも白身がかけちゃった。」


私達二人で卵の殻剥きに苦戦している間に、二藍さんは、オーブンからプレートを取り出し、こちらに来ると

「これで、完成です。紗城さんに御運びして来ますので、お待ち下さいね。8玉剥けましたら、お二人特製のスミレパイ、焼き上げてみて下さい。」


「私達、食べていいの?スミレパイ。」


「二藍さん、戻ってくるまでに、早く並べよう。チクチクして、水にくぐらせて、集中してー、ほらっ上手く出来た!」


「出来た!そーっとよ。」


二藍さんは、プレートに並べられた卵をまっすぐに均等にすると、お玉でソースを流し込み、チーズの入った角皿を寄せた。


「お好みでどうぞ。たっぷりがお勧めです。オーブンは準備出来ていますので、仕上げは、お二人のまごころで焼き上げて下さいね。」


なんとか完成したスミレパイを持ち、ホールの席へ戻ると、紗城さんは、アリアの絵を描いていた。


「勝手にモデルになって頂きましたよ。アリアちゃんに。」


「アリア!私達がスミレパイを作っている間にですか。」


「月読さんのご御希望で。」


「紀元前一八四〇年頃に、古代エジプトでは、鶏の壁画が描かれていたって話されたものだから、今の姿を残してみたら良いんじゃいかとね。」


「絵になりますね。ブルーの羽が鮮やかで、祖父の蒼井は鳥の研究をしていまして、研究の為に絵を描いていたのが始まりなんですけど、後半はサボブレスにも置いて頂ける程、

鳥の絵画家として、追及していったんですよね。自分の人生を。」


「そうでしたか。」


「スミレパイお二人共なかなかの出来でしたね。」


「いや、もう二藍さんの卵の殻剥きには追いつけなかったよね。」


「私達はチーズを乗せて、と。

でもこれもバランスが大事なんでしょうね。卵が固くなっちゃったし、違うよね。お店のスミレパイとは。

ソースのレシピまでは聞きだせません。」


「お首にも言えぬ。

と、そうでしょうよ。

美技があるんだねぇ。」


「鶏の卵は羽の色で変わるんですよね。産卵するのも良い環境で無いと、卵の産まれる数も変わると、日の当たる場所、太陽の熱と光。それは、生き物だったらほぼ必要でしょ 。

祖父は私が子供の頃「卵が先だよ。」っていうのが口癖で。

飼っていたヒヨコに、大豆と玄米、エビとピーナッツ、だだ茶豆にシジミを刻んで、駝鳥の様になってしまった事もあるんですよ。」


「大きく育ったのですね。

成長ホルモンのバランスでしょうかね。

成長ホルモン剤といった事でしょう。

枝豆で背が伸びると聞いた事もありますが、必要な栄養分というのが具体的に

どういった食材であるかはねぇ、エビとピーナッツですか。人それぞれですが、人間も毎食の事ですからね、歳をとってきても食べなきゃ、やっぱり。

寝ている時だって寝返りをうつでしょう。身体を動かす為には、栄養バランスは大事。大人になってからも、この先、成長していくのですからね。」


「しかし、それじゃぁ、卵が先じゃ無いじゃない。」


「ははは。ビタミンCを大量に沢山身体に取り入れると、色白になるって話もありますよ。」


「身体に良いものが蓄積されれば良い状態がキープできるが・・・。

薄荷さん、鶏三昧の集まりになってきましたけれど、可能性を考えれば、

栄養にしてね。」


「サイクルとして、悪循環を繰り返してしまうのは、攻撃を続けているのと同じ事。

結局の所は、自ら排除できない。

とかね。」


「いや、他のペースメーカーに置かれる事により、リズム崩壊されると。

ターゲットにされたら、飼育された鶏ですよ。」


「卵が先ねぇ。」




サボブレスの時計草も、オレンジ色の実をつけ、青々とした空に浮かぶ雲からは、鞦韆(ブランコ)が揺れていた。


薄荷さんは、ビッグムーンをこの目でと日本から旅立ち、


ソノラマブックを創作した。


その人の音。その人の為。


ソノラマで贈る。


  


                     

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ブランコ狂想曲〜鶏肋走禽楽曲 牧野 ヒデミ @makino-hidemi

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