【後編】
┏━━━━━━━━━━<<Howks CO.presents >>━━━━━━━━━━┓
三 FREEDAM AIRFORCE 三
┗━━━━━━━━━━━━ ・・・☆・・・ ━━━━━━━━━━━━┛
◆◇"This is the real Flight simulater! "--Game Informermaljournal◇◆
◆◇"The Most Realistic Game Ever!"--V-tecLife Power◇◆
Welcom to ACE'sky!
"Freedam Airforce" is MMO combatgame, dedicated to modern warfare military aviation for all people who love sky. You will take part in Air forces of over 100 countrys, and join real time combat battles flight.
"Freedam Airforce" offers a highly detailed and personalizerd military aviation experience. Players will access to over 200 of models aircraft and experimence pilot LIfe.
Go shooting down the Enemys with aim of becoming a ACE!
※Acceptance of terms of Use※
Please keep to 1-3 hours to game play. "Freedam Airforce" put a highly load on your body than other games.If you keep paying over limit your body, you got physical injury examples are shown below.
Deficit body sensation.
Abnormal contract muscle,and broken body or intermal organs.
Lose the up and down feeling.
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and if you got somthing of Mental illness,there is apossibility confuse reality and fantasy. Attention what Freedam sky' s hegly detailed experimence will deep impact your body and sences.
DO NOT abnormal long period of times play.
so Let's join the combat flight!
and feel gratefull sky!
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足下がおぼつかない。
二本の脚をのばしていれば、いつも確かな物だったはずの大地が、おおらかな「うねり」を繰り返している。平行を描いていた日常の感覚が、右へ左へ、上へ下へと、ゆるやかに、だが大きく、揺すぶられる----
目を開いた。
灰色の羊毛が敷き詰められたような空。
白波をあげ、黒くうねる海。
視界いっぱいに広がった光景に呆然としていると、巨大な牛のいななきのような警笛が鳴り響きわたった。見ると、黒い海の遠方で、何
「……今度は一体なんのゲームに巻き込まれた? 」
目を凝らしていると、急に大きく足下が揺れ、水しぶきに襲われた。思わず腕で防ぐ。
冷たい海水の水滴が、顔や腕を濡らした。大波で持ち上がっていた足下がゆっくりと降下すると、不気味なきしみが足下から響く。
辺りを見渡すと、自分は通路にいるようだった。手すりがずっと遠くまで伸びている。その下には灰色の外壁があって、うねる荒波をしぶきをあげて切り裂いていた。どうやら、自分もまさに、遠くに見えていたあの空母や戦艦に乗っているようだ……
「15分前、
急に、グラスを叩いたようなソプラノの声がかけられる。
驚いて見ると、ごてごてした緑色のつなぎを着たコーディが、似合いもしないサングラスをかけてこちらを見上げていた。後頭部に花開くように黒髪を結っているのが、クロセの意識を「ここは
「お前……」
思わず噴き出しそうになる。サングラス、全然似合ってない。
「なんだよ、それ」
「……相変わらず女性の扱いには慣れていないようで安心しました」
笑いかけていたクロセの口元がすっと落ちた。頬をひくつかせて、「なんだって?」と聞く間に彼女はサングラスを海に投げ捨て、
「時間がありませんので。これを」
コーディは胸に抱えていたフルフェイスのヘルメットを手渡してきた。大きな
「さぁ行きましょう」
ろくな説明もせずに手を引っ張っていく。この強引さは相変わらずだ。詳しく説明しろよと言い掛けたその時、甲板にあがったクロセの鼓膜を、炎も焦げるような熱風の轟音が襲った。一瞬で、左から右へ駆け抜けていく。
戦闘機だった。
まさにグラス・リリィで見たばかりの機影が、甲板をまばたきの間に駆け抜け、空に舞い上がっていく。黄色やオレンジのベストを着た水兵達が、オレンジに光る誘導灯を振り回して駆け回っている。
「----急ぎましょう、こっちです!」
コーディは機影が残したジェットエンジンの風に激しく髪を揺らしていた。あばれる髪をかき上げると、また強引に手を引いた。進む先には、整備員達に取り囲まれ、
「今度は空を飛べっつーのかよ!」
「ブリーフィング画面にそう書いてあったじゃないですか」
コーディは至極当然のことを口にするように言った。彼女の冷静さがうらやましい。あの状況で
「さぁ乗って!」と急かされるままに、クロセはコクピットに続く
「前の席に座ってください」
しかしコクピットの
「おま--コーディも乗るのか!?」
「
何を当たり前の事を、とばかりにコーディはヘルメットに顔を埋めながら言った。
「何言ってんだよお前--やられたらお前も死んじまうだろ!」
「今までだってそうです。なに言ってるんですか!」
「それは……そうだけど、でも」
「おい待てよアンタら! ド素人だろ!」
足下から急にだみ声がかけられた。見下ろすと、梯子の脇で髭面の整備員が誘導灯を振り回して
「今日の荒れ模様じゃ、離陸するのもままならんよ。あんたらじゃ無理だよ!」
「無視しましょう、乗ってください」
迷ったが、クロセは頬の中で舌打ちをしてコクピットに飛び込んだ。
棺桶の方がマシな狭さのスペースに、精密機械がぎっしりと詰まっていた。鉄板をとりあえず椅子の形に仕上げたような、武骨なシートに体を押し込む。すると、あわてて梯子を上ってきた髭面の整備員が「おいおいおい!」と身を乗り出す。
「無理だって! 大波が来てるから離陸で揺れるし、風は西やら東やらむちゃくちゃに吹いてるんだぞ!」
「黙って離れてろ」
「あのな、今日は六機も機体が上がったのに一機も帰ってきてないんだ、ヤバいの飛んでんるだよ。ド素人が出る幕はないよ」
食い下がる整備員にいい加減銃口でも向けてやろうかと思った。その時だった。
『総員衝撃に備えよ』
突然、耳をつんざくような甲高い音が艦橋から放たれた。すさまじい警告音が鳴り続け、思わず、クロセも整備員も耳をふさぐ。
甲板や艦橋のあちこちでスピーカーが『身体を固定しろ』とわめきちらし、乗組員達がはっとして空を見渡す。そして聴覚に膜が張ったような世界の中で、クロセはぎょっと目を見開いた。
灰色の空から、白煙がまっすぐに向かってきている。
突然姿を表したと思った瞬間、上から下へ一直線に白煙は突っ込み、滑走路をゆっくりと
爆炎が上がった。
戦闘機の腹が一瞬で膨らみ、炎が弾けるとともに空駆ける鉄の塊は真っ二つになって吹き飛んだ。爆風の焼けるような風に襲われ、吹き飛びそうになった整備員を、思わずクロセはひっつかんだ。バイザーの
「----あぁなんてこった!」
髭面の整備員が大口を開けてわめいた。足下の甲板ははっきりと傾いていて、鋼がねじれる音が、龍のうなり声のように響きわたる。不気味な音に、慌てて走り出した水兵達は誰もが顔を強ばらせる。遅れてやってきた浸水警報が、辺りにけたたましく鳴り響く。
「----まずい横穴があいてるぞ!!」
「甲板上の機体は全て空にあげろ! 急げッ!」
「どうなってる!
誘導員や整備員達があわただしく声を荒げる中、コーディは氷を吐くように冷淡な声で言った。
「三分前に交信が途絶したままです」
髭面の整備員が、かけられた声に唖然として振り返る。
コーディががウィンドウを取り出し、濁流のように流れていくログデータに目を輝かせていた。
「おそらく、既に撃沈されています」
「ありえない……」
髭面の整備員は言葉を失ってわなわなと口を動かす。クロセは振り返り
「護衛艦ってなんだ!? 何が起きてる!」
「護衛艦は広大で強力なレーダーを装備し、接近する戦闘機や戦闘艦を察知することで、遠距離から即座に撃破するのが役割の艦船です。文字通り空母や戦闘機を護衛するのが役割ですが、東に二キロ地点にあった護衛艦二隻は先ほど撃沈されたと思われます」
瞳をタスクウィンドウに輝かせて、コーディは努めて冷静な口調でそう言った。
「この空母を守る盾はなくなりました。次の標的はこの艦です」
「
この巨大な船は、今や小回りも利かず、
クロセはぐっと歯がみする。いきなりゲームの根幹をくつがえしてくるこのやり方、これまで戦ってきたプレイヤーたちの顔が浮かぶ。
「あんたら一体なんなんだ……」
困惑する整備員の胸ぐらを、クロセは
「飛ぶ前に殺す気か! 今すぐこの機体を上げさせろ!!」
一瞬、彼の表情は迷ったが、その頭上をジェットの轟音が横切っていく。見上げると、厚い雲の向こうで黒い戦闘機の機影がすさまじい速さで駆け抜けていくところだった。整備員は「--ええい」と髭の間でうなると、クロセの肩を叩いた。
「基本的な操作はわかるんだろうな!」
彼はコクピットに身を乗り出した。精密機械が詰まったボックスが所狭しと並んでいるが、コクピット全面は案外すっきりとしたタッチディスプレイでまとめられている。中央からやや右に位置した床からは
「操縦桿のトリガーは二段階発射だ! トリムは突端右側、
濁流のような説明を、クロセはうるさそうに手を振って押しやった。コーディに人差し指を回して見せると、彼女は「まかせて」とばかりに力強くうなずく。
「操縦技術は私がサポートします! 今すぐ機体を出して!」
コーディは長い髪をヘルメットに押し込んでいた。シートの背もたれの方が彼女よりも大きく、むっつりとした表情を別にすれば、彼女はまるっきり"女の子"だった。髭面の整備員はぽかんとした顔つきで
「……こんなお嬢ちゃんに頼るのか?」
「言葉に気をつけろよ」
バイザーの表示に目を凝らしながら、クロセは嫌みではなく、心の底からのアドバイスを送った。
「
わけがわからない、とばかりに、整備員は首をふった。
クロセはクスリともせず、バイザーの
「このゲームの
流れをぶった切ってそう訊くと、整備員は困惑顔で
「なんでそんなもん--」
「いいから早く!」
「あぁ……ナイトイーグル……あ、いや。サンダーボルトだな」
「
コーディに目の端を向けると、彼女は戦闘機のタッチディスプレイを素早く操作する。バイザー越しに、彼女の瞳へ青白い光がさっと横切るのが見えた。
「……ごく最近現れたプレイヤーです。非常に短時間でベストスコアを更新していっています」
「あぁ、ここ二三日で、四個小隊の味方機が奴にやられてる。それまでこっちが優勢だったのに、あっという間に戦局を塗りかえられた!」
そう言った彼は、ふっと何かに気づいたように、困惑を通り過ぎて呆れた笑みを浮かべた。
「ちょっと待て、あんた達奴と交戦するつもりか? 」
「笑ってろ」
そう言って、クロセは
虚をつかれたように、整備主任は髭だらけの顔で目をしぱたたかせていた。首を振って
「やる気は買うがね、でも奴はーー」
「
クロセが一瞬だけ視線をむけると、 整備主任ははっと目を見開いた。言葉につまってから
「あぁそうだが……まさかあのエース、
「十分だ、ありがとう」
唖然とする整備主任をコクピットから押し出すと、
「出力を最大に!」
左手で握り込んだレバーを、いっぱいまで押し込む。
地の底を揺らすような音がくぐもって響き、機体が振動を始める。エンジンに吹き込まれた
ディスプレイで見た華麗な姿とは違い、振動は馬のいななきのように泥臭い。車に揺られている感覚とまるで違う。車窓を眺めているときは、自分が静止して景色だけが流れているように思えるものだが、このコクピットの揺れは、『お前は機体の中にいるのだ』と激しく主張してくる。今まさに炎を吐かんとする龍の
F-i3 on the runway2,you copy?
CATT(Poseidon)<<ラインⅡ上にいる機体に告ぐ>>
膜を通したような、くぐもった通信音声が響いた。音声の最初と最後にゲームのスタートボタンを押したような奇妙な音がする。無線の声は
This is Airship SITADEL CATCC call sign :"Poseidon"
I copy ”Poseidon”. need my TAC name.
コーディ<<通信了解"ポセイドン"。こちらの機体の暗号名を要求します>>
後ろの席から
唖然として振り返ると、コーディがパイロットヘルメットに手を押し当てている。
コーディ<<
「息を吸って!」
クロセが大きく息を吸った瞬間、機体の外の景色が一気に吹き飛んだ。膨らんだ肺が一瞬で押しつぶされる。
甲板に這うような姿勢でまっすぐに腕をつきだした発進誘導官の姿が、あっという間に前方から左へ、左から後方へ--視界の端から消え、正面に目を向けると、ずっと遠くに見えていた甲板の
その先にはあるのは、支える物が何もない、真っ黒な海だ。
「機首をあげて!」
コクピットの景色が灰色の空一色になると、足下から響いていた突くような衝撃が途絶えた。
その瞬間、ヘルメットの
ふわっ、と、一瞬重力が消えた。
「----上げすぎです! 緩めて!」
だがすぐに、機体にかかっていた「浮かび上がる力」が消えたのがわかった。
風を切り裂いていた翼が傾きすぎて、正面から風にぶつかって機体がひっくり返りそうになる
「----っ!」
慌てて操縦桿を元に戻すと、鈍い反応ながらも機体は水平に近づき、体にかかっていた
視界に、灰色の空と、黒みがかった海のコントラストが戻ってくる。キャノピー《窓》の外の景色は、くすんだ灰色の空と、うねる海の黒さに、まっぷたつに分かれていた。
機体を緩やかに上昇させながら、クロセは息苦しさにあえいだ。穏やかにすら見える窓の外の光景に比べ、息を吸うのはふくらんだ風船を飲み込むような困難さだった。呼吸に全身の筋肉を使わなくてはならない。
「息が……!」
「機首を下げれば、体にかかる
振り返ると彼女は半透明に
『いいですか、左右への
『墜落って言うんだろ--あぁクソ、そっちは気楽で良いよな』
『なんですって?』
コーディの声音がむっとした調子になったとき、無線に割れた通信が割って入ってきた。
軽い調子が鼻につくが、低く深みのある声。
次の瞬間、キャノピーの上をジェットエンジンの轟音が横切った。切り裂かれた空気がビリビリとキャノピーを叩き、焼けるようなジェットの
ジェット気流の先に、流線型の戦闘機があった。丸みを帯びた胴体に、鋭くコンパクトな羽根が鋭角に伸びている。羽根先や機首から飛び出した突端が、鋭いくちばしを連想させた。
尾翼には、黒い鷹の
「敵か?」
灰色の鋭角の機影が、あざ笑うように一瞬で空を駆け上がる。
夜鷹<<味方だ、
「こちらの軍のエースのようです」
後部座席で、灰色の空に目を凝らしたコーディが言った。彼女のバイザーには、
「“サンダーボルト”をのぞけば、撃墜数でトップの機体です」
「エースをのぞけば、か……」
クロセは鼻白んだ。味方としては頼りになるかも知れないが、
なにより、軽薄でお調子者なのがありありとわかるしゃべり口が、どうも気にくわない。クロセ本人は気づいていないが、いかにも根の暗い人間の考えそうなことである。
夜鷹は興が乗ってきたラジオDJのように、ぺらぺらと流れるように話しだす。
夜鷹<<すぐにエースに返り咲くさ。俺はヤツが現れてからずっと付け回してきたんだ。サンダーボルトは俺が落とす。わかったかい、美しいお嬢さん?>>
空から駆け下りてきた夜鷹の機体は、ぴったりとこちらの横につくと、泳ぐように機体を横へ滑らせ、さらにそのまま横転するようにぐるりと灰色の空に螺旋を描いた。こちらの機体をぐるりと見回すような、見事なバレルロール。
円の半径はかなり小さかった。一瞬のうちに重力も
「うつくしい、おじょうさん」
ぽかんとした間抜けな調子が後ろで聞こえた。クロセが細めていた目をいぶかしく思って後ろに向けると、コーディはバイザーの下の目をぱちくりさせていた。
夜鷹<<ああ、お嬢さん。これが終わったら、俺の後部座席に乗ってみないかい? とっときの観覧飛行をービスするぜ>>
まんざらでもなさそうな顔をして、ちょっと恥ずかしそうに彼女は口元をゆるめていた。
あきれて半口を開けているのクロセに気づくと、こほん、と咳払いする。
「おまえさぁ……」
「さぁ爆撃してきた敵を追いましょう!」
なにか言いたげなクロセに、コーディは「さぁ!」とはりきって言った。
「(免疫ないな、こいつ…)」
CATT<<全機に告ぐ《GOLD》、こちら
無線が通信開始の合図音をあげて、膜を通したようなくぐもった声をあげる。
we contact the aircraft what bombed SITADEL .
CATT<<
2bandits bearing 195 for 27 . Angels medium, Flunk.
CATT<<補足2機 方位195、距離27 高度:中域 膠着状態 >>
夜鷹<<
割れた無線で響く夜鷹の返事はおどけていた。ついでに翼を左右に振ってみせる。まるで機体が彼の体のようだ。無線の向こうから誰かが<<Don't fuck with me《ふざけんなクソ》>>と汚くののしるのが聞こえる。
コーディ<<
コーディの返事は淡々とした物だった。短い単語でどれだけ情報をまとめられるか競っているような言葉遣いで、ほとんど単語だけだ。なんとかクロセにも理解できた。
バイザーに表示された青白い
「誘導モジュールのオペレーションソフトを更新しました。指示に従って、光をたどってください」
「
「……合ってますよ、発音以外は」
クロセは鼻を鳴らした。こういう"情報を操る"のは彼女の得意分野だが、操作を始めるとまさに機械じみてくるのが彼女らしい。冗談も通じない。
いつの間にか、機体の周りには数機の戦闘機が二つや三つの塊となって飛んでいた。そのどれもが、機体を傾け、機首を彼方の一方向へと変えていく。
クロセも操縦桿の冷たい感触を握り込む。固くごつごつした感触。ゆっくりと引き揚げると、体が斜めに傾き、体がシートに押しつけられた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「……レーダーが敵機を捕捉しました!」
灰色の空は、どこまでも天を埋め尽くす汚れた綿毛のようだった。沈鬱な空と、うねる暗闇の支配する海間を、切り裂くように機体は飛ぶ。どこまで行っても続く灰色の空に、必死に目を凝らしていると、コーディが急に声を上げた。
コーディ<<
フルフェイスヘルメットの耳の辺りに手を押し当て、彼女は警告を放つ。
高鳴り続けるエンジン音と、風のうなり。流線型の機体をなめるように風が抜けていくのがわかった。握りしめた操縦桿が生きているかのように右へ左へ動きまわろうとする。常に小刻みに操作していると、集中力で頭の奧にふつふつと熱が浮かぶ。額に走る汗だけが、酷く冷たい。
クロセ<<どこにいる――?>>
亜音速に近い速度がでている。首を動かすのにすら、見えない壁に挟まれているかのようでうまくいかない。映像で見た優雅さと、この操縦桿を握りしめる感覚はすこしも一致しなかった。見えない荒波の中、おそれる馬をなだめながら駆けているかのようだ。
『左手の方です。蒼い機影が--そこに、見えますか?』
後部座席から身を乗り出したコーディが、人差し指を伸ばした。冷たい空気と合わさって、高原に咲く花をかいだような香りがした。視線を巡らし、小雨が窓をたたく空を見回す。灰色の空をたどっていくと、ひときわ大きな雲が、壁のように天高くへと伸びているのが目に入った。
夜鷹<<
夜鷹の戦闘機が、アフターバナーを噴かせて、熱のゆらぎを残しながら前に出てくる。ゆっくりと左へ滑っていく機体にあわせて、クロセも操縦桿に力を込めた。平衡を保っていた視界が、水平計を倒したように左へと傾いていく。
少し傾けるだけで、灰色の空がほとんどを占めていた視界に、黒い海がせり上がってきた。
見下ろした海はいくつもの波がぶつかり合って白波を上げ、生き物のように荒れ狂っている。
白い粒のように小さな影が見えた。
「拡大します」
コーディの言葉通り、バイザーに映っていた機体に四角い枠が重ねられた。映像が切り取られ、小さな電子音と共に機影が大きく表示される。
濃い
SF映画から飛び出してきたような、武骨なところが一つもない、なめらかな機影だ。マンタをひっくり返したような翼が目を引く。コクピットには
そして機体には、翼を横切るように、黄色い直線が斜めに引かれていた。
そのカラーリングは、一つのイメージを脳裏に描き出す。
「
夜鷹<<まちがいないな。つけ回してきた甲斐があったってもんだ>>
夜鷹の無線には口笛が混じる。この状況でよくなめた態度がとれるものだ。
夜鷹<<ははっ! 奴の機体を見ろ、ステレスもついてない旧型だ。翼が小さくて高高度専用、この高度ならこっちの機体のが上だぜ>>
踊るような口調の夜鷹に、コーディが冷たい声で
コーディ<<しかし
「……あれはおとりで、一機は待ち伏せか?」
戦闘機なんて乗るのは初めてなのではっきりとはわからないが、昔見た
敵機の後ろをとって撃墜すると喜んでいるパイロットの姿が映る。だがその背後にカメラが向けられると、そこには新たな敵機の影が--次の瞬間ミサイル
すぐに考えつく可能性だ。 ここでサンダーボルトにつっこんだら、どこかに隠れていたもう一機が飛び出してくるかもしれない。サンダーボルトに気を取られている内に後ろをとられて、ズドン。いかにもありそうな可能性だ。
夜鷹<<
夜鷹はそう言っておきながら、いきなり翼を振って、まさに上空から飛びかかる鷹のようにサンダーボルトへと機体を突っ込ませる。
見る見る内に機影とアフターバーナーの炎が小さくなっていき、燃えた燃料が残した陽炎の残滓が海と空の間を切り裂いていく。
「お、おいッ!」
慌てて操縦桿を倒し、機体の舵を切った。風の抵抗を押し切るように手に力を込める。
機体は一瞬揚力で浮き上がったかと思うと、一気に斜めにひっくり返り、視界はいっぺんに海に切り替わった。
体は左へひっくり返り、頭から飛び込んだようなすさまじい浮遊感と、右側へとふっとばそうとする
夜鷹<<まだ来るな! そこでお嬢ちゃんと見学してな
夜鷹の声は笑っていた。締め上げられた血が、脳味噌を沸騰させているのか。こちらは冷や汗をかくばかりだ。
「なにやってんだ! 罠かも知れないんだぞ!」
夜鷹<<あぁだがら食らいつくしか方法はないだろ! 奴を見ろ!>>
その声にサンダーボルトを見ると、大きく弧を描いてこちらにコクピットを向けている。こっちの存在を確認しながら、ゆっくりと頭をもたげるように、機首の切っ先を起こす。
「空母にもう一度攻撃を仕掛けるつもりです」
コーディがつとめて冷静な声で言った。
「空母が撃沈されたら、私たちは
ここで止めないと、さらに大きな被害を出す--ほとんど脅しだ。
クロセ<<やっぱなんかおかしいぞ!>>
夜鷹<<いいから高度を高くとっておけ! 俺のケツに敵機が食いついたらお前が俺を援護しろよ! 俺について来る奴はいるか!?>>
ウィザード03<<ウィザード援護する>>
雲の彼方から現れた新たな機影が、クロセの乗った機体のすぐ脇を落ちるような速度で横切っていく。灰色の機影が、遠ざかっていく夜鷹の機影へと吸い込まれていく。
クロセはちっと舌打ちして、操縦桿をやや緩めた。こうなると、全員で突っ込むより、すぐにサンダーボルトの後方に飛び込めるように機体を身構えた方がいいかもしれない。
少なくとも自分なら、団子になって突っ込んでくる敵にはいくらでもやりようが思いつく。そもそも、そういう『仲間と共に』というやり方に自分がついていけるとは思えない。集団、というのは本当に苦手だ。
それに――
夜鷹<<ようカウボーイ! 今度はお前が追い立てられる番だぜ>>
夜鷹の機体が、上空から落ちるように
ウィザード03<<おっと――頭は押さえてるぞ>>
だが
夜鷹<<おっと逃げても無駄だぜ!>>
機体をひっくり返して逃げ出した
夜鷹<<
夜鷹が抱えたミサイルから、低いうなり声のようなスパーク音が放たれる。ジリジリと空気を焼く音の照射が、
サンダーボルトは横滑りさせていた機体を、縦回転へと機動を変える。高度を落として逃げようとするその機首へ、巧みにウィザードが先回りして滑り込む。
ウィザード03<<機動を押さえた>>
夜鷹<<ロックオン!>>
鋭く響く、鼓膜を切り裂くような
「(やったか――!?)」
クロセも
コーディ<<--っ!? 雲から新たな敵機ッ!>>
はっとクロセが振り返る。
コーディが身を乗り出して指さす方向、灰色の巨大な入道雲から、どす黒い機影が飛び出してくる小さな点にしか見えなかったが、鋭角研ぎ澄まされた機首の突端と、大きく伸びた翼の形がはっきりと見えた--そして翼に描かれた、稲妻の
目を見開く。
「こっちが
一気に操縦桿を傾けた。
夜鷹<<落ち着け
夜鷹の背後へ一気に急降下する黒い機影に向けて、ウィザードは素早く機体を傾けた。彼もこの事態は想定済みのようだった。雲を突き破って上空から現れる黒い機影に向けて、ウィザードは迷うことなくジェットの炎を燃やす。機体にかかる
ウィザード<<ロックオン!>>
それでもウィザードは黒い機影の背後に滑り込んだ。放たれたロックオンの警告。零下の張りつめた空を切り裂くように響きわたる
ウィザード<<ロックオンした――終わりだな>>
ウィザードがほくそ笑むようにそう言った時、上空から見下ろすクロセの目に、
クロセ<<ちょっと待て、なにか---->>
だがクロセの警告は、既に手遅れだった。
ウィザード<<!? なんだ!?>>
次の瞬間、白いジェットの軌跡が、サンダーボルトの腹から噴き出した。
上空から目撃したクロセの目には、サンダーボルトが撃墜されたのかとすら映った。黒い機体から飛び出したいくつもの白い軌跡は、袋ごと火をつけたロケット花火のように無軌道に、むちゃくちゃな飛び方で空中にまき散らされる。
クロセ<<なんだッ--ミサイルか!?>>
よく目をこらすと、先端が平たい、奇妙な鉄の板のようなものが三つ見える。ミサイルにしては……妙に大きく見えたし、空を飛ぶための翼もついていない。
ウィザード<<おおっと--!>>
そして鉄の板は急速に力を失った。
唐突に推進力を失うと、くるくると回転して、
ウィザードがすんでの所で翼を振ってよける。故障か? 鉄の板はウィザードの機体を通り越して、空中を力なく舞う。クロセは拍子抜けした。なんだ、あれ。
背後でコーディが、息を飲む音がした。
コーディ<<
彼女の叫びと共に、鉄の板は突然翼を広げた。
バイザーに映っていた光景が拡大される。目の退化した深海魚のような鉄の板が、突然横に大きく羽根をのばす。安っぽいオモチャの飛行機にしかみえなかったが、くるくると力なく回転していた機体は、飛び出した翼で均衡を取り戻し、一気にジェットの炎を噴き出した。
小さな機体が、軽さを生かしてすさまじい早さでウィザードの機体へ吸い込まれていく。
クロセ<<後ろから迫ってるぞ!>>
ウィザード<<ッ――
一つ一つの速度は速くないが、三つの機体が生き物のように絡み合って飛びかかる--まさに機械じみた偏執さ。
ウィザード<<なんだコイツら、引きはがせない……ッ!>>
クロセ<<待ってろ! 今行く!!>>
クロセは
エンジンが刻む鼓動が早鐘を打ち、急加速する機体に身体がシートに押しつけられる。 機体は重力に迎え入れられ、地表へ向けて飲み込まれていく。
めいっぱいに押しこんだスロットルレバーで、エンジンが一気に火を噴く。
切り裂かれた重たい風が、断末魔を上げてキャノピーをびりびりたたく。暴れ狂う操縦桿を体ごと押さえつける。肺が押しつぶされて息が出来ない。ほとんど残っていない空気を奥歯の間で噛み潰し、飛び出しそうになる目玉を押し開く。コクピットの窓に映る、絡み合う小さな三つの機影。
ロックオンの
だが、
コーディ<<敵機が速すぎる――! ロックオン出来ません!>>
ミサイルの
バイザーで揺れる
「(逃げられた--!?)」
無力な
ウィザード<<ぐぅッ-->>
ヘッドフォンから、ウィザードの荒々しい息づかいと、大気を切り裂く音が聞こえる。加速度のかかった身体が、喉まで内蔵を押し上げられてうめき声を上げているのだ。
クロセ<<あいつがやられる! コーディ!>>
コーディ<<はいっ――もっと接近してください! ロックオンに捉えます>>
だが彼女の言葉をさえぎるように、無線機の割れた声で<<まてッ!>>と滑り込んでくる。
夜鷹<<
ヘッドフォンから、突然夜鷹の声が飛び出す。荒い息の中に、慌てて振り返っている激しい擦過音がする。何か、事態が急変した。だが今更滑り出した機体は止まらない。押しつぶされて蛇口を押さえたように流れる血が、血管をめいっぱい押し開く。なだれこむ血液で熱くなった頭が、握りしめたスロットルから手を離さない。
視界の中で、斜め下方へ回避運動をとったウィザードの機体から、
コーディ<<
握りしめた
シートからにガクンと衝撃が走る。
ウィザードから一瞬引き離された
白い軌跡が、冷たい上層の空気を切り裂いた。
クロセ<<ミサイルを撃った!>>
ウィザードが一瞬、安堵の息を吐くのが聞こえた。
だが、
コーディ<<しまっ----
コーディの悲鳴のような声。
はっと無人戦闘機へ目を凝らしたクロセの目に、一瞬宙で静止した
だがたどり着く一瞬前--無人戦闘機が大きく広げた羽の下から、ミサイルが一つ、滑り落ちた。
直後、無人戦闘機はクロセの放ったミサイルの着弾を受けて爆炎となって空にはじける。
だがその前に吐き出されたミサイルは真っ白な炎を吐き、下方へもぐり込んでいくウィザードの機体にすさまじい機動で食らいついた。
ウィザード<<ぐぅぅ--ッ!?>>
ウィザードのパイロットが最後の力を振り絞る声が聞こえた。落ちていく機体にかかる
夜鷹<<ミサイル近いぞッ!
夜鷹の警告に合わせて、惹きつけたミサイルへ向けてウィザードの機体が赤い炎の塊を吐き出した。同時にばらまかれる、星のように
ミサイルは赤い火花の間をすべり抜け、ぎらぎらと輝く薄片を羽根で切り裂き、ウィザードの機体に飛び込んだ。ミサイルの先端のカメラが、捕らえていた。
クロセ<<----クソッ!?>>
一瞬の、閃光。
辺りをまばゆいほどの光が照らし出し、爆炎が宙にはじけた。
轟音が衝撃となってクロセの機体を揺らす。まっぷたつになったウィザードの機体が、炎の跡を残しながら黒い海へと落ちていくのが見えた。
夜鷹<<
陽気だった夜鷹の声は枯れる程の怒声に変わっていた。はっとしてクロセが振り返ると、コクピットのやや上空後方に灰色の影が見えた。無機物の冷たい走行に覆われた、コクピットもない機影。
命のない、無機質な敵の目が、次の得物を見つけたのだ。
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