【後編】

┏━━━━━━━━━━<<Howks CO.presents >>━━━━━━━━━━┓

           三 FREEDAM AIRFORCE 三

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◆◇"This is the real Flight simulater! "--Game Informermaljournal◇◆


◆◇"The Most Realistic Game Ever!"--V-tecLife Power◇◆

                                


Welcom to ACE'sky!



"Freedam Airforce" is MMO combatgame, dedicated to modern warfare military aviation for all people who love sky. You will take part in Air forces of over 100 countrys, and join real time combat battles flight.


"Freedam Airforce" offers a highly detailed and personalizerd military aviation experience. Players will access to over 200 of models aircraft and experimence pilot LIfe.


Go shooting down the Enemys with aim of becoming a ACE!





※Acceptance of terms of Use※


Please keep to 1-3 hours to game play. "Freedam Airforce" put a highly load on your body than other games.If you keep paying over limit your body, you got physical injury examples are shown below.


Deficit body sensation.

Abnormal contract muscle,and broken body or intermal organs.

Lose the up and down feeling.

Lose auditory sense.

Got a PTSD.


and if you got somthing of Mental illness,there is apossibility confuse reality and fantasy. Attention what Freedam sky' s hegly detailed experimence will deep impact your body and sences.


DO NOT abnormal long period of times play.



so Let's join the combat flight!

and feel gratefull sky!




now loading.................


now loading........................


now loading.................................

























 足下がおぼつかない。


 二本の脚をのばしていれば、いつも確かな物だったはずの大地が、おおらかな「うねり」を繰り返している。平行を描いていた日常の感覚が、右へ左へ、上へ下へと、ゆるやかに、だが大きく、揺すぶられる----



 目を開いた。



 灰色の羊毛が敷き詰められたような空。

 白波をあげ、黒くうねる海。


 視界いっぱいに広がった光景に呆然としていると、巨大な牛のいななきのような警笛が鳴り響きわたった。見ると、黒い海の遠方で、何せきかの船----いや、"空母"や"戦艦"が荒波の中をのっそりと突き進んでいた。灰色の船体は鋭角な断面で組み立てれていて、宇宙を駆けめぐっている方がお似合いな姿形をしている。



「……今度は一体なんのゲームに巻き込まれた? 」



目を凝らしていると、急に大きく足下が揺れ、水しぶきに襲われた。思わず腕で防ぐ。

冷たい海水の水滴が、顔や腕を濡らした。大波で持ち上がっていた足下がゆっくりと降下すると、不気味なきしみが足下から響く。


辺りを見渡すと、自分は通路にいるようだった。手すりがずっと遠くまで伸びている。その下には灰色の外壁があって、うねる荒波をしぶきをあげて切り裂いていた。どうやら、自分もまさに、遠くに見えていたあの空母や戦艦に乗っているようだ……



「15分前、近接航空支援CAPに出た味方機が撃墜されたようです」



急に、グラスを叩いたようなソプラノの声がかけられる。

驚いて見ると、ごてごてした緑色のつなぎを着たコーディが、似合いもしないサングラスをかけてこちらを見上げていた。後頭部に花開くように黒髪を結っているのが、クロセの意識を「ここは外側世界アウターワールドなのか」と引き戻す。彼女の背後には、甲板に上がるための短い階段があった。


「お前……」


思わず噴き出しそうになる。サングラス、全然似合ってない。



「なんだよ、それ」


「……相変わらず女性の扱いには慣れていないようで安心しました」



 笑いかけていたクロセの口元がすっと落ちた。頬をひくつかせて、「なんだって?」と聞く間に彼女はサングラスを海に投げ捨て、憮然ぶぜんとした表情で言った。



「時間がありませんので。これを」



 コーディは胸に抱えていたフルフェイスのヘルメットを手渡してきた。大きな反射素材ミラーシェイドのバイザーが全面を覆う、モスグリーンのヘルメットだ。見慣れたガスマスクによく似た酸素マスクが、口元を覆うようについている。この形、見覚えがあった。

 旧式映画レトロムービーで見たことがある気がする。視線を落とすと、自分は黒色のつなぎに身を包んでいた。コーディの着ている物とよく似ている。これ、まさか----



「さぁ行きましょう」



 ろくな説明もせずに手を引っ張っていく。この強引さは相変わらずだ。詳しく説明しろよと言い掛けたその時、甲板にあがったクロセの鼓膜を、炎も焦げるような熱風の轟音が襲った。一瞬で、左から右へ駆け抜けていく。


 戦闘機だった。


 まさにグラス・リリィで見たばかりの機影が、甲板をまばたきの間に駆け抜け、空に舞い上がっていく。黄色やオレンジのベストを着た水兵達が、オレンジに光る誘導灯を振り回して駆け回っている。



「----急ぎましょう、こっちです!」



 コーディは機影が残したジェットエンジンの風に激しく髪を揺らしていた。あばれる髪をかき上げると、また強引に手を引いた。進む先には、整備員達に取り囲まれ、発進準備タキシング中の戦闘機が、甲板をゆっくりと後退している。



「今度は空を飛べっつーのかよ!」


「ブリーフィング画面にそう書いてあったじゃないですか」



コーディは至極当然のことを口にするように言った。彼女の冷静さがうらやましい。あの状況で世界共通語ユニコードなんて読めるわけない。


「さぁ乗って!」と急かされるままに、クロセはコクピットに続く梯子ラダーに飛びついた。くそ、と最後にもう一度毒づくと同時に、覚悟を決める。迷ってる暇はない。こんなゲーム、さっさと終わらせてやる。



「前の席に座ってください」



しかしコクピットのヘリに足をかけた所でクロセの動きは止まった。反対側からコーディが姿を現し、後部座席に滑り込んできたのだ。



「おま--コーディも乗るのか!?」


二人乗りタンデムですよ。これは」



 何を当たり前の事を、とばかりにコーディはヘルメットに顔を埋めながら言った。



「何言ってんだよお前--やられたらお前も死んじまうだろ!」


「今までだってそうです。なに言ってるんですか!」


「それは……そうだけど、でも」



「おい待てよアンタら! ド素人だろ!」



 足下から急にだみ声がかけられた。見下ろすと、梯子の脇で髭面の整備員が誘導灯を振り回して



「今日の荒れ模様じゃ、離陸するのもままならんよ。あんたらじゃ無理だよ!」


「無視しましょう、乗ってください」



 迷ったが、クロセは頬の中で舌打ちをしてコクピットに飛び込んだ。

 棺桶の方がマシな狭さのスペースに、精密機械がぎっしりと詰まっていた。鉄板をとりあえず椅子の形に仕上げたような、武骨なシートに体を押し込む。すると、あわてて梯子を上ってきた髭面の整備員が「おいおいおい!」と身を乗り出す。



「無理だって! 大波が来てるから離陸で揺れるし、風は西やら東やらむちゃくちゃに吹いてるんだぞ!」


「黙って離れてろ」



 一瞥いちべつくれて、クロセはヘルメットバイザーに顔を押し込んだ。灰色だった世界が、やや薄暗くなった気がしたが、すぐに青白い"横線ワイヤー"が視界の下から上に駆け上り、視界が明瞭めいりょうになった。灰色にかすんでいた光景に適切な光が射し、人や物の輪郭りんかくがくっきりとする。



「あのな、今日は六機も機体が上がったのに一機も帰ってきてないんだ、ヤバいの飛んでんるだよ。ド素人が出る幕はないよ」



 食い下がる整備員にいい加減銃口でも向けてやろうかと思った。その時だった。



『総員衝撃に備えよ』



 突然、耳をつんざくような甲高い音が艦橋から放たれた。すさまじい警告音が鳴り続け、思わず、クロセも整備員も耳をふさぐ。

 甲板や艦橋のあちこちでスピーカーが『身体を固定しろ』とわめきちらし、乗組員達がはっとして空を見渡す。そして聴覚に膜が張ったような世界の中で、クロセはぎょっと目を見開いた。


 灰色の空から、白煙がまっすぐに向かってきている。


 突然姿を表したと思った瞬間、上から下へ一直線に白煙は突っ込み、滑走路をゆっくりと離陸準備タキシング中だった戦闘機に直撃した。


 爆炎が上がった。


 戦闘機の腹が一瞬で膨らみ、炎が弾けるとともに空駆ける鉄の塊は真っ二つになって吹き飛んだ。爆風の焼けるような風に襲われ、吹き飛びそうになった整備員を、思わずクロセはひっつかんだ。バイザーの電子表示HMDが激しく乱れ、爆風が数名の水兵達を吹き飛ばしていった。



「----あぁなんてこった!」



髭面の整備員が大口を開けてわめいた。足下の甲板ははっきりと傾いていて、鋼がねじれる音が、龍のうなり声のように響きわたる。不気味な音に、慌てて走り出した水兵達は誰もが顔を強ばらせる。遅れてやってきた浸水警報が、辺りにけたたましく鳴り響く。



「----まずい横穴があいてるぞ!!」


「甲板上の機体は全て空にあげろ! 急げッ!」


「どうなってる! 護衛艦イージスからの接近警告は!?」



誘導員や整備員達があわただしく声を荒げる中、コーディは氷を吐くように冷淡な声で言った。



「三分前に交信が途絶したままです」



髭面の整備員が、かけられた声に唖然として振り返る。

コーディががウィンドウを取り出し、濁流のように流れていくログデータに目を輝かせていた。



「おそらく、既に撃沈されています」


「ありえない……」



髭面の整備員は言葉を失ってわなわなと口を動かす。クロセは振り返り



「護衛艦ってなんだ!? 何が起きてる!」


「護衛艦は広大で強力なレーダーを装備し、接近する戦闘機や戦闘艦を察知することで、遠距離から即座に撃破するのが役割の艦船です。文字通り空母や戦闘機を護衛するのが役割ですが、東に二キロ地点にあった護衛艦二隻は先ほど撃沈されたと思われます」


瞳をタスクウィンドウに輝かせて、コーディは努めて冷静な口調でそう言った。



「この空母を守る盾はなくなりました。次の標的はこの艦です」


外側中毒者アウターホリッカーか……!」



この巨大な船は、今や小回りも利かず、遮蔽物しゃへいぶつもない洋上に浮かぶ、巨大な的だ。

クロセはぐっと歯がみする。いきなりゲームの根幹をくつがえしてくるこのやり方、これまで戦ってきたプレイヤーたちの顔が浮かぶ。



「あんたら一体なんなんだ……」



困惑する整備員の胸ぐらを、クロセはわしづかみにする。



「飛ぶ前に殺す気か! 今すぐこの機体を上げさせろ!!」



一瞬、彼の表情は迷ったが、その頭上をジェットの轟音が横切っていく。見上げると、厚い雲の向こうで黒い戦闘機の機影がすさまじい速さで駆け抜けていくところだった。整備員は「--ええい」と髭の間でうなると、クロセの肩を叩いた。



「基本的な操作はわかるんだろうな!」



彼はコクピットに身を乗り出した。精密機械が詰まったボックスが所狭しと並んでいるが、コクピット全面は案外すっきりとしたタッチディスプレイでまとめられている。中央からやや右に位置した床からは操縦桿ラダー・スティックが伸びていて、左側面には前後に動く出力桿スロットルレバー、それに前面には五角形のディスプレイが蜂の巣状に並んでいる。



「操縦桿のトリガーは二段階発射だ! トリムは突端右側、発射ランチャーボタンは左、探索装置オートサーチは前方一回で全方位探知スーパーサーチ、二回で前方ボア近接探知バーティカルスキャンが後方一回、押し込みで解除と起動ができる! ラダー・スティックは中央のフィンガースティックで短距離ミサイルAIMのボアサーチを手動でできる。それから……聞いてるのか!?」



濁流のような説明を、クロセはうるさそうに手を振って押しやった。コーディに人差し指を回して見せると、彼女は「まかせて」とばかりに力強くうなずく。



「操縦技術は私がサポートします! 今すぐ機体を出して!」



コーディは長い髪をヘルメットに押し込んでいた。シートの背もたれの方が彼女よりも大きく、むっつりとした表情を別にすれば、彼女はまるっきり"女の子"だった。髭面の整備員はぽかんとした顔つきで



「……こんなお嬢ちゃんに頼るのか?」


「言葉に気をつけろよ」



バイザーの表示に目を凝らしながら、クロセは嫌みではなく、心の底からのアドバイスを送った。



外側世界アウターワールドに世界一詳しいやつだ」



わけがわからない、とばかりに、整備員は首をふった。

クロセはクスリともせず、バイザーのヘッドマウントディスプレイHMDに目を凝らした。空中に小さな円を横棒で串刺しにしたような銃照準ガンサイトが揺れていて、首を傾けると、わけもわからず半口を開けている整備員に、ガンサイトがぴったり向いた。



「このゲームの一番強い奴エースは!?」



流れをぶった切ってそう訊くと、整備員は困惑顔で



「なんでそんなもん--」


「いいから早く!」


「あぁ……ナイトイーグル……あ、いや。サンダーボルトだな」


雷轟サンダーボルト



コーディに目の端を向けると、彼女は戦闘機のタッチディスプレイを素早く操作する。バイザー越しに、彼女の瞳へ青白い光がさっと横切るのが見えた。



「……ごく最近現れたプレイヤーです。非常に短時間でベストスコアを更新していっています」


「あぁ、ここ二三日で、四個小隊の味方機が奴にやられてる。それまでこっちが優勢だったのに、あっという間に戦局を塗りかえられた!」



そう言った彼は、ふっと何かに気づいたように、困惑を通り過ぎて呆れた笑みを浮かべた。



「ちょっと待て、あんた達奴と交戦するつもりか? 」


「笑ってろ」



そう言って、クロセは防風窓キャノピーの開閉ボタンを押し込んだ。がくん、と機体が揺れ、息をし始めたように空調が動き始め、ドーム形の窓が上からゆっくりと覆い被さってくる。

虚をつかれたように、整備主任は髭だらけの顔で目をしぱたたかせていた。首を振って



「やる気は買うがね、でも奴はーー」


サンダーボルトが活動したのはここ"二三日"なんだな?」



クロセが一瞬だけ視線をむけると、 整備主任ははっと目を見開いた。言葉につまってから



「あぁそうだが……まさかあのエース、外側中毒者アウターホリッカーなのか⁉︎」


「十分だ、ありがとう」



唖然とする整備主任をコクピットから押し出すと、キャノピー防風窓がコクピットのへりにぴったりと合わさった。両手をひろげて「あんた排出者なのか⁉︎」と叫んでいる整備主任に離れるように手を振り、クロセは操縦桿と出力桿スロットルレバーを握った。



「出力を最大に!」



出力桿スロットルレバーの上に、手前から前方へエメラルドブルーの矢印が延びた。

左手で握り込んだレバーを、いっぱいまで押し込む。


 地の底を揺らすような音がくぐもって響き、機体が振動を始める。エンジンに吹き込まれた燃料ケロシンが、タービンを猛速で回転させる衝撃がシート越しに伝わってくる。コクピットが熱と燃料の焼けたにおいに包まれる。


 ディスプレイで見た華麗な姿とは違い、振動は馬のいななきのように泥臭い。車に揺られている感覚とまるで違う。車窓を眺めているときは、自分が静止して景色だけが流れているように思えるものだが、このコクピットの揺れは、『お前は機体の中にいるのだ』と激しく主張してくる。今まさに炎を吐かんとする龍のあぎとに、飲み込まれたような空想が思い浮かんだ。



        F-i3 on the runway2,you copy?

CATT(Poseidon)<<ラインⅡ上にいる機体に告ぐ>>




膜を通したような、くぐもった通信音声が響いた。音声の最初と最後にゲームのスタートボタンを押したような奇妙な音がする。無線の声は世界共通語ユニオンコードだ。聞き慣れない言葉の響きに、一瞬面食らう。


      This is Airship SITADEL CATCC call sign :"Poseidon"

空母Poseidon<<こちら空母シタデル、航空管制センター コールサイン:ポセイドン>>


      I copy ”Poseidon”.    need my TAC name.

コーディ<<通信了解"ポセイドン"。こちらの機体の暗号名を要求します>>



後ろの席から流暢りゅうちょうな返事が聞こえた。

唖然として振り返ると、コーディがパイロットヘルメットに手を押し当てている。



空母Poseidon<<そちらのコールサイン:トレボー11Trbow one one。乱気流で風向きに乱れ有り。方位164より味方機接近中。発進時に留意せよ。緊急発進を許可する>>


コーディ<<了解Roger、トレボー11発進します>>



発進誘導官shooterと書かれた黄色いジャケットを来た男が滑走路に駆けより、機体のあちこちに視線をとばした。何度目かサムズアップで、機体にガクンと衝撃がくる。何かが機体に"噛んだ"ような感覚。



「息を吸って!」



 クロセが大きく息を吸った瞬間、機体の外の景色が一気に吹き飛んだ。膨らんだ肺が一瞬で押しつぶされる。

 甲板に這うような姿勢でまっすぐに腕をつきだした発進誘導官の姿が、あっという間に前方から左へ、左から後方へ--視界の端から消え、正面に目を向けると、ずっと遠くに見えていた甲板のリムが真っ白な煙と共に迫ってくる。


 その先にはあるのは、支える物が何もない、真っ黒な海だ。



「機首をあげて!」



 コクピットの景色が灰色の空一色になると、足下から響いていた突くような衝撃が途絶えた。

 その瞬間、ヘルメットの視界バイザーに手前に向かって立体表示フォログラムの矢印が伸びた。右手に握りしめていた操縦桿を一気に引きあげる。


 ふわっ、と、一瞬重力が消えた。



「----上げすぎです! 緩めて!」



 だがすぐに、機体にかかっていた「浮かび上がる力」が消えたのがわかった。

風を切り裂いていた翼が傾きすぎて、正面から風にぶつかって機体がひっくり返りそうになる



「----っ!」



 慌てて操縦桿を元に戻すと、鈍い反応ながらも機体は水平に近づき、体にかかっていた加速度Gが戻ってくるのを感じた。

 視界に、灰色の空と、黒みがかった海のコントラストが戻ってくる。キャノピー《窓》の外の景色は、くすんだ灰色の空と、うねる海の黒さに、まっぷたつに分かれていた。


機体を緩やかに上昇させながら、クロセは息苦しさにあえいだ。穏やかにすら見える窓の外の光景に比べ、息を吸うのはふくらんだ風船を飲み込むような困難さだった。呼吸に全身の筋肉を使わなくてはならない。



「息が……!」


「機首を下げれば、体にかかる加速度Gが軽くなって、呼吸が楽になります。高度が上がるまでしばらく耐えてください」



 振り返ると彼女は半透明に仮想化ヴァーチャライズしていた。実体がないので呼吸も楽だろう。なんでもありなやつだ。



『いいですか、左右へのターンシュート方向転換もGかかります。"体"でわかっていると思いますが、かかりすぎると気絶しますから、そうなると』


『墜落って言うんだろ--あぁクソ、そっちは気楽で良いよな』


『なんですって?』



夜鷹ナイトホーク<<待ちくたびれたぞ>>



 コーディの声音がむっとした調子になったとき、無線に割れた通信が割って入ってきた。

 軽い調子が鼻につくが、低く深みのある声。


 次の瞬間、キャノピーの上をジェットエンジンの轟音が横切った。切り裂かれた空気がビリビリとキャノピーを叩き、焼けるようなジェットの陽炎かげろうが雨模様の空にまっすぐな軌跡きせきを描く。


 ジェット気流の先に、流線型の戦闘機があった。丸みを帯びた胴体に、鋭くコンパクトな羽根が鋭角に伸びている。羽根先や機首から飛び出した突端が、鋭いくちばしを連想させた。


 尾翼には、黒い鷹の意匠シンボル



「敵か?」



 灰色の鋭角の機影が、あざ笑うように一瞬で空を駆け上がる。



夜鷹<<味方だ、ひっよっこチッキ>>


「こちらの軍のエースのようです」



 後部座席で、灰色の空に目を凝らしたコーディが言った。彼女のバイザーには、夜鷹ナイトホークの機体の動く影が落ちている。



「“サンダーボルト”をのぞけば、撃墜数でトップの機体です」


「エースをのぞけば、か……」



 クロセは鼻白んだ。味方としては頼りになるかも知れないが、外側中毒者アウターホリッカー相手では決定打になるとは思えない。


 なにより、軽薄でお調子者なのがありありとわかるしゃべり口が、どうも気にくわない。クロセ本人は気づいていないが、いかにも根の暗い人間の考えそうなことである。


 夜鷹は興が乗ってきたラジオDJのように、ぺらぺらと流れるように話しだす。



夜鷹<<すぐにエースに返り咲くさ。俺はヤツが現れてからずっと付け回してきたんだ。サンダーボルトは俺が落とす。わかったかい、美しいお嬢さん?>>



 空から駆け下りてきた夜鷹の機体は、ぴったりとこちらの横につくと、泳ぐように機体を横へ滑らせ、さらにそのまま横転するようにぐるりと灰色の空に螺旋を描いた。こちらの機体をぐるりと見回すような、見事なバレルロール。


 円の半径はかなり小さかった。一瞬のうちに重力も加速度Gかかっているはずなのに、余裕綽々に親指を立てて見せてくる。クロセは目を細めた。こすったら二機とも墜落するところだ。完全なお調子者だが、確かに腕は立つようだ。



「うつくしい、おじょうさん」



 ぽかんとした間抜けな調子が後ろで聞こえた。クロセが細めていた目をいぶかしく思って後ろに向けると、コーディはバイザーの下の目をぱちくりさせていた。



夜鷹<<ああ、お嬢さん。これが終わったら、俺の後部座席に乗ってみないかい? とっときの観覧飛行をービスするぜ>>



 まんざらでもなさそうな顔をして、ちょっと恥ずかしそうに彼女は口元をゆるめていた。

 あきれて半口を開けているのクロセに気づくと、こほん、と咳払いする。



「おまえさぁ……」


「さぁ爆撃してきた敵を追いましょう!」



 なにか言いたげなクロセに、コーディは「さぁ!」とはりきって言った。



「(免疫ないな、こいつ…)」



CATT<<全機に告ぐ《GOLD》、こちら艦上航空管制センターPoseidon>>



 無線が通信開始の合図音をあげて、膜を通したようなくぐもった声をあげる。



we contact the aircraft what bombed SITADEL .

CATT<<本艦シタデルを攻撃した機体を補足した>>


2bandits bearing 195 for 27 . Angels medium, Flunk.

CATT<<補足2機 方位195、距離27 高度:中域 膠着状態 >>


夜鷹<<了解 司令部アイアイ コマンド>>



割れた無線で響く夜鷹の返事はおどけていた。ついでに翼を左右に振ってみせる。まるで機体が彼の体のようだ。無線の向こうから誰かが<<Don't fuck with me《ふざけんなクソ》>>と汚くののしるのが聞こえる。



コーディ<<了解Willcoポセイドン《Poseidon》。方位195へ向かうhedding 195>>



コーディの返事は淡々とした物だった。短い単語でどれだけ情報をまとめられるか競っているような言葉遣いで、ほとんど単語だけだ。なんとかクロセにも理解できた。


バイザーに表示された青白い仮想情報HMDは高度や速度、機銃照準ガンサイトなどの簡素なデータが並んでいるだけだったが、コーディが何かいじったのか、彼女の顔が画面の端に浮かびあがった。彼女の手が動くと、さらに半透明の矢印が灰色の空と海に表示される。



「誘導モジュールのオペレーションソフトを更新しました。指示に従って、光をたどってください」


了解Willco……これであってる?」


「……合ってますよ、発音以外は」



 クロセは鼻を鳴らした。こういう"情報を操る"のは彼女の得意分野だが、操作を始めるとまさに機械じみてくるのが彼女らしい。冗談も通じない。


 いつの間にか、機体の周りには数機の戦闘機が二つや三つの塊となって飛んでいた。そのどれもが、機体を傾け、機首を彼方の一方向へと変えていく。


 クロセも操縦桿の冷たい感触を握り込む。固くごつごつした感触。ゆっくりと引き揚げると、体が斜めに傾き、体がシートに押しつけられた。キャノピーの外の景色が滑るように流れていき、もうもうと黒煙を上げる空母の姿も、窓枠の端へと消えていった。






■  ■  ■  ■  ■  ■  ■








「……レーダーが敵機を捕捉しました!」


 灰色の空は、どこまでも天を埋め尽くす汚れた綿毛のようだった。沈鬱な空と、うねる暗闇の支配する海間を、切り裂くように機体は飛ぶ。どこまで行っても続く灰色の空に、必死に目を凝らしていると、コーディが急に声を上げた。



コーディ<<敵機1捕捉コンタクト1 10時方向>>



 フルフェイスヘルメットの耳の辺りに手を押し当て、彼女は警告を放つ。

 高鳴り続けるエンジン音と、風のうなり。流線型の機体をなめるように風が抜けていくのがわかった。握りしめた操縦桿が生きているかのように右へ左へ動きまわろうとする。常に小刻みに操作していると、集中力で頭の奧にふつふつと熱が浮かぶ。額に走る汗だけが、酷く冷たい。



クロセ<<どこにいる――?>>



 亜音速に近い速度がでている。首を動かすのにすら、見えない壁に挟まれているかのようでうまくいかない。映像で見た優雅さと、この操縦桿を握りしめる感覚はすこしも一致しなかった。見えない荒波の中、おそれる馬をなだめながら駆けているかのようだ。



『左手の方です。蒼い機影が--そこに、見えますか?』



 後部座席から身を乗り出したコーディが、人差し指を伸ばした。冷たい空気と合わさって、高原に咲く花をかいだような香りがした。視線を巡らし、小雨が窓をたたく空を見回す。灰色の空をたどっていくと、ひときわ大きな雲が、壁のように天高くへと伸びているのが目に入った。



夜鷹<<敵機発見タリホー! 雲の下だ>>



 夜鷹の戦闘機が、アフターバナーを噴かせて、熱のゆらぎを残しながら前に出てくる。ゆっくりと左へ滑っていく機体にあわせて、クロセも操縦桿に力を込めた。平衡を保っていた視界が、水平計を倒したように左へと傾いていく。



 少し傾けるだけで、灰色の空がほとんどを占めていた視界に、黒い海がせり上がってきた。

 見下ろした海はいくつもの波がぶつかり合って白波を上げ、生き物のように荒れ狂っている。


白い粒のように小さな影が見えた。



「拡大します」



 コーディの言葉通り、バイザーに映っていた機体に四角い枠が重ねられた。映像が切り取られ、小さな電子音と共に機影が大きく表示される。


 濃い群青色ブルーの機体。


 SF映画から飛び出してきたような、武骨なところが一つもない、なめらかな機影だ。マンタをひっくり返したような翼が目を引く。コクピットには反射素材ミラーシェイドがかかっていて、人影すら見えない。


 そして機体には、翼を横切るように、黄色い直線が斜めに引かれていた。

 そのカラーリングは、一つのイメージを脳裏に描き出す。



雷轟サンダーボルト……!」


夜鷹<<まちがいないな。つけ回してきた甲斐があったってもんだ>>



 夜鷹の無線には口笛が混じる。この状況でよくなめた態度がとれるものだ。



夜鷹<<ははっ! 奴の機体を見ろ、ステレスもついてない旧型だ。翼が小さくて高高度専用、この高度ならこっちの機体のが上だぜ>>



 踊るような口調の夜鷹に、コーディが冷たい声で



コーディ<<しかし管制官Poseidonの情報と異なっています。捕捉した敵機は二機だったはずです>>


「……あれはおとりで、一機は待ち伏せか?」


 戦闘機なんて乗るのは初めてなのではっきりとはわからないが、昔見た映画レトロムービーでは、機体の後ろをとられるのは致命的に描かれていたように思う。


 敵機の後ろをとって撃墜すると喜んでいるパイロットの姿が映る。だがその背後にカメラが向けられると、そこには新たな敵機の影が--次の瞬間ミサイル警告アラートが鳴り響き、発射されたミサイルでパイロットと機体は粉々に吹き飛ぶ……そんな映画のワンシーン。


 すぐに考えつく可能性だ。 ここでサンダーボルトにつっこんだら、どこかに隠れていたもう一機が飛び出してくるかもしれない。サンダーボルトに気を取られている内に後ろをとられて、ズドン。いかにもありそうな可能性だ。



夜鷹<<ひよっこチッキ、勘は悪くないみたいだな>>



 夜鷹はそう言っておきながら、いきなり翼を振って、まさに上空から飛びかかる鷹のようにサンダーボルトへと機体を突っ込ませる。

 見る見る内に機影とアフターバーナーの炎が小さくなっていき、燃えた燃料が残した陽炎の残滓が海と空の間を切り裂いていく。



「お、おいッ!」



 慌てて操縦桿を倒し、機体の舵を切った。風の抵抗を押し切るように手に力を込める。


 機体は一瞬揚力で浮き上がったかと思うと、一気に斜めにひっくり返り、視界はいっぺんに海に切り替わった。


 体は左へひっくり返り、頭から飛び込んだようなすさまじい浮遊感と、右側へとふっとばそうとする加速度Gの力に振り回された。およそ地上では別々に起こる事態が、一瞬のうちに同時に起こる。締め上げられる身体の苦しい。目まぐるしく襲い来る感覚の荒波に、脳がまったくついてこない。



夜鷹<<まだ来るな! そこでお嬢ちゃんと見学してなひよっこチッキ!>>



 夜鷹の声は笑っていた。締め上げられた血が、脳味噌を沸騰させているのか。こちらは冷や汗をかくばかりだ。



「なにやってんだ! 罠かも知れないんだぞ!」


夜鷹<<あぁだがら食らいつくしか方法はないだろ! 奴を見ろ!>>



 その声にサンダーボルトを見ると、大きく弧を描いてこちらにコクピットを向けている。こっちの存在を確認しながら、ゆっくりと頭をもたげるように、機首の切っ先を起こす。



「空母にもう一度攻撃を仕掛けるつもりです」



 コーディがつとめて冷静な声で言った。



「空母が撃沈されたら、私たちは敗北ゲームオーバーに追い込まれます」



 ここで止めないと、さらに大きな被害を出す--ほとんど脅しだ。群青色の機体サンダーボルトはこちらが攻撃せざるを得ない状況を作り出している。



クロセ<<やっぱなんかおかしいぞ!>>


夜鷹<<いいから高度を高くとっておけ! 俺のケツに敵機が食いついたらお前が俺を援護しろよ! 俺について来る奴はいるか!?>>


ウィザード03<<ウィザード援護する>>



 雲の彼方から現れた新たな機影が、クロセの乗った機体のすぐ脇を落ちるような速度で横切っていく。灰色の機影が、遠ざかっていく夜鷹の機影へと吸い込まれていく。



 クロセはちっと舌打ちして、操縦桿をやや緩めた。こうなると、全員で突っ込むより、すぐにサンダーボルトの後方に飛び込めるように機体を身構えた方がいいかもしれない。


 少なくとも自分なら、団子になって突っ込んでくる敵にはいくらでもやりようが思いつく。そもそも、そういう『仲間と共に』というやり方に自分がついていけるとは思えない。集団、というのは本当に苦手だ。


 それに――群青色の機体サンダーボルトがアウターホリッカーだとしたら、まず間違いなく正攻法は効かない。必ず、病的な程長期間勝ち続けられた理由があるはずだ。穏やかにすら映る、灰色の羊毛のような雲に、鋭く視線を突き刺す。



夜鷹<<ようカウボーイ! 今度はお前が追い立てられる番だぜ>>



 夜鷹の機体が、上空から落ちるように群青色の機体サンダーボルトの後ろにつく。サンダーボルトのジェット管から、アフターバーナーの爆炎が吹き出す。空気を焼き、轟音で大気に激震をまき散らす。素早く加速した群青色の機体サンダーボルトは、一気に機首を上げ、灰色の空へとみるみる内に舞い上がった。群青色とオレンジの塊が、なめるように空に弧を描く。



ウィザード03<<おっと――頭は押さえてるぞ>>



だが群青色の機体サンダーボルトの切っ先に、ウィザードの灰色の機体が立ち塞がる。ウィザードはサンダーボルトの前に滑り込むと、アフターバーナーに着火、高速回転する巨大なエンジンで爆音を轟かせる。瞬時に機体を反転、そして背面からの急降下ダイブ


 群青色の機体サンダーボルトがさっと機動を反転させる。ひっくり返った機体はウィザードの機首ヘッドに、犬のように腹這いになる。目にまぶしいほどの銀色の塗装が、光を滑らせる。



夜鷹<<おっと逃げても無駄だぜ!>>



 機体をひっくり返して逃げ出した群青色の機体サンダーボルトへ、横から夜鷹の機体が飛びかかった。サンダーボルトが後部からはき出すジェット気流にからみつくように、夜鷹はぐるりと機体を縦回転バレルロールさせてみせる。



夜鷹<<火気管制システムFCS起動! どーしたどーした!?>>



 夜鷹が抱えたミサイルから、低いうなり声のようなスパーク音が放たれる。ジリジリと空気を焼く音の照射が、回避機動マニューバを取るサンダーボルトの背後に迫る。ミサイルの探知電波シーカーだ。

 サンダーボルトは横滑りさせていた機体を、縦回転へと機動を変える。高度を落として逃げようとするその機首へ、巧みにウィザードが先回りして滑り込む。



ウィザード03<<機動を押さえた>>


夜鷹<<ロックオン!>>



 鋭く響く、鼓膜を切り裂くような捕捉完了ロックオン警告。まさに鼓動を止めた心電図を想起させる。夜鷹のコクピットで、すさまじい重力に息を荒くするパイロットの指が、発射ランチャースイッチに指をかける。


「(やったか――!?)」



 クロセも群青色の機体サンダーボルトの機体に、目をこらした。だがその瞬間、後部座席ではっと息を飲む音が上がった。

 


コーディ<<--っ!? 雲から新たな敵機ッ!>>



 はっとクロセが振り返る。

 コーディが身を乗り出して指さす方向、灰色の巨大な入道雲から、どす黒い機影が飛び出してくる小さな点にしか見えなかったが、鋭角研ぎ澄まされた機首の突端と、大きく伸びた翼の形がはっきりと見えた--そして翼に描かれた、稲妻の徽章ウィングマーク


 目を見開く。



「こっちがサンダーボルト本命か!?」


一気に操縦桿を傾けた。



夜鷹<<落ち着けひよっこチッキ! ウィザード対応できるな!>>



 夜鷹の背後へ一気に急降下する黒い機影に向けて、ウィザードは素早く機体を傾けた。彼もこの事態は想定済みのようだった。雲を突き破って上空から現れる黒い機影に向けて、ウィザードは迷うことなくジェットの炎を燃やす。機体にかかる加速度G、大気を突き破る重たい衝撃。機体がびりびり揺れて、合金の羽根が湾曲してぎりぎりと音を立てる。



ウィザード<<ロックオン!>>



 それでもウィザードは黒い機影の背後に滑り込んだ。放たれたロックオンの警告。零下の張りつめた空を切り裂くように響きわたる警告音アラート



ウィザード<<ロックオンした――終わりだな>>



 ウィザードがほくそ笑むようにそう言った時、上空から見下ろすクロセの目に、黒い機影サンダーボルトが一瞬アフターバーナーを切るのが見えた。違和感。なぜ追われているのに、エンジンを緩める?



クロセ<<ちょっと待て、なにか---->>



 だがクロセの警告は、既に手遅れだった。

 黒い機影サンダーボルトの”腹が開く”。緩慢にすら思える速さで、機体の下部が両開きになったのだ。



ウィザード<<!? なんだ!?>>



 次の瞬間、白いジェットの軌跡が、サンダーボルトの腹から噴き出した。


 上空から目撃したクロセの目には、サンダーボルトが撃墜されたのかとすら映った。黒い機体から飛び出したいくつもの白い軌跡は、袋ごと火をつけたロケット花火のように無軌道に、むちゃくちゃな飛び方で空中にまき散らされる。



クロセ<<なんだッ--ミサイルか!?>>



 よく目をこらすと、先端が平たい、奇妙な鉄の板のようなものが三つ見える。ミサイルにしては……妙に大きく見えたし、空を飛ぶための翼もついていない。



ウィザード<<おおっと--!>>



 そして鉄の板は急速に力を失った。

 唐突に推進力を失うと、くるくると回転して、黒い機体サンダーボルトの後方へと転がり落ちていく。


 ウィザードがすんでの所で翼を振ってよける。故障か? 鉄の板はウィザードの機体を通り越して、空中を力なく舞う。クロセは拍子抜けした。なんだ、あれ。


背後でコーディが、息を飲む音がした。



コーディ<<無人戦闘機UCAVです!>>



彼女の叫びと共に、鉄の板は突然翼を広げた。


 バイザーに映っていた光景が拡大される。目の退化した深海魚のような鉄の板が、突然横に大きく羽根をのばす。安っぽいオモチャの飛行機にしかみえなかったが、くるくると力なく回転していた機体は、飛び出した翼で均衡を取り戻し、一気にジェットの炎を噴き出した。


 小さな機体が、軽さを生かしてすさまじい早さでウィザードの機体へ吸い込まれていく。



クロセ<<後ろから迫ってるぞ!>>


ウィザード<<ッ――回避行動ブレイク 回避行動ブレイク!>>



 一つ一つの速度は速くないが、三つの機体が生き物のように絡み合って飛びかかる--まさに機械じみた偏執さ。


 ウィザード獲物が左へ回避ブレイクすると、一体がすかさず小回りを利かせて距離を詰め、追いつめられたウィザードが逆に舵を切ると待ち受けていたもう一機が襲いかかる。空には絡み合う白い軌跡がねじれるように描かれていく。



ウィザード<<なんだコイツら、引きはがせない……ッ!>>


クロセ<<待ってろ! 今行く!!>>



 クロセは無人戦闘機UCAVに向けて、一気にスロットルを全開にした。

 エンジンが刻む鼓動が早鐘を打ち、急加速する機体に身体がシートに押しつけられる。 機体は重力に迎え入れられ、地表へ向けて飲み込まれていく。


 めいっぱいに押しこんだスロットルレバーで、エンジンが一気に火を噴く。


 切り裂かれた重たい風が、断末魔を上げてキャノピーをびりびりたたく。暴れ狂う操縦桿を体ごと押さえつける。肺が押しつぶされて息が出来ない。ほとんど残っていない空気を奥歯の間で噛み潰し、飛び出しそうになる目玉を押し開く。コクピットの窓に映る、絡み合う小さな三つの機影。


 発射ランチャーボタンのカバーを親指で跳ね上げ、スイッチに指をかける。

 ロックオンのいななきがとどろくのを待つ――今か今かと待ちわびる親指が、震えて微かにスイッチに触れる。まだだ、まだ――――どんどん拡大されていく無人戦闘機UCAVのシルエット。

 だが、



コーディ<<敵機が速すぎる――! ロックオン出来ません!>>



 ミサイルの探知機シーカーがうなり声を上げても、火気管制FCSは沈黙を続けた。


 バイザーで揺れる照準円ロックオンサークルを、無人戦闘機UCAVの影が一瞬にして横切る。



「(逃げられた--!?)」



 無力な照準円ロックオンサークルの先では、回避行動ブレイクするウィザードの機体は、しかし四方八方から飛びかかる無人戦闘機から逃げるだけの速度が出ていない。



ウィザード<<ぐぅッ-->>



ヘッドフォンから、ウィザードの荒々しい息づかいと、大気を切り裂く音が聞こえる。加速度のかかった身体が、喉まで内蔵を押し上げられてうめき声を上げているのだ。加速度Gがかかりすぎている。長くは持たない。



クロセ<<あいつがやられる! コーディ!>>


コーディ<<はいっ――もっと接近してください! ロックオンに捉えます>>



 だが彼女の言葉をさえぎるように、無線機の割れた声で<<まてッ!>>と滑り込んでくる。



夜鷹<<ひよっこチッキ引き返せ! こいつは----ッ>>



 ヘッドフォンから、突然夜鷹の声が飛び出す。荒い息の中に、慌てて振り返っている激しい擦過音がする。何か、事態が急変した。だが今更滑り出した機体は止まらない。押しつぶされて蛇口を押さえたように流れる血が、血管をめいっぱい押し開く。なだれこむ血液で熱くなった頭が、握りしめたスロットルから手を離さない。


 視界の中で、斜め下方へ回避運動をとったウィザードの機体から、無人戦闘機UCAVがわずかに引き離された。



コーディ<<無人戦闘機UCAVロックオン--今です!>>



 握りしめた発射ランチャースイッチに、親指をねじ込んだ。電撃が走ったように、発射ボタンが重たい音を立てる。


 シートからにガクンと衝撃が走る。防風窓キャノピーの脇で赤い炎が上がったと思うと、真っ白な気流が一瞬のうちに飛翔した。

 ウィザードから一瞬引き離された無人戦闘機UCAVへ、ロックオンの警告音と共にミサイルは飲み込まれていく。


白い軌跡が、冷たい上層の空気を切り裂いた。



クロセ<<ミサイルを撃った!>>



 ウィザードが一瞬、安堵の息を吐くのが聞こえた。

 だが、



コーディ<<しまっ----無人戦闘機UCAVがミサイルを発射!>>



 コーディの悲鳴のような声。


 はっと無人戦闘機へ目を凝らしたクロセの目に、一瞬宙で静止した無人戦闘機UCAVの姿が映った。クロセのはなったミサイルが、白い軌跡をひきながら無人戦闘機標的に伸びる。

だがたどり着く一瞬前--無人戦闘機が大きく広げた羽の下から、ミサイルが一つ、滑り落ちた。


 ほこのような薄い羽根がうごめくのが見えた。

 直後、無人戦闘機はクロセの放ったミサイルの着弾を受けて爆炎となって空にはじける。

 だがその前に吐き出されたミサイルは真っ白な炎を吐き、下方へもぐり込んでいくウィザードの機体にすさまじい機動で食らいついた。



ウィザード<<ぐぅぅ--ッ!?>>



 ウィザードのパイロットが最後の力を振り絞る声が聞こえた。落ちていく機体にかかる加速度Gはすさまじい。全身の血が頭に集まり、狭苦しい頭蓋を破裂させて飛び出していきそうな感覚になる。今まさに急降下してウィザードを追うクロセにはそれがわかった。ウィザードはさらに機体を傾けて過大な加速度Gをかけた。金属の割れる音がはっきりと無線越しに聞こえた。機体が、遠心力との軋轢に耐えられていないのだ。このままではバラバラになる。



夜鷹<<ミサイル近いぞッ! 回避装置フレア回避装置フレア!>>



 夜鷹の警告に合わせて、惹きつけたミサイルへ向けてウィザードの機体が赤い炎の塊を吐き出した。同時にばらまかれる、星のようにまたたくアルミの薄片。それは熱源と電波を追うミサイルへの目くらましになるはずだった。だが、すべては遅きに失する。


 ミサイルは赤い火花の間をすべり抜け、ぎらぎらと輝く薄片を羽根で切り裂き、ウィザードの機体に飛び込んだ。ミサイルの先端のカメラが、捕らえていた。防風窓キャノピーの中で目をかっ開いた、パイロットの姿。



クロセ<<----クソッ!?>>



 一瞬の、閃光。



 辺りをまばゆいほどの光が照らし出し、爆炎が宙にはじけた。

 轟音が衝撃となってクロセの機体を揺らす。まっぷたつになったウィザードの機体が、炎の跡を残しながら黒い海へと落ちていくのが見えた。



夜鷹<<ひよっこチッキ! 後ろだッ!!>>



 陽気だった夜鷹の声は枯れる程の怒声に変わっていた。はっとしてクロセが振り返ると、コクピットのやや上空後方に灰色の影が見えた。無機物の冷たい走行に覆われた、コクピットもない機影。



 命のない、無機質な敵の目が、次の得物を見つけたのだ。


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