第6話 【平和条約】
「そんな事になってたなんて…」
さいらは何も知らない自分を恥じた。
いくらお姫様で子供だからって知らなさすぎる。
さいらはずっとこの国は豊かで平和だと思っていた。
「お兄様はこの事を知っているの?」
「あぁ、知っている。なんせ王子様は最戦前で戦っているのだからな。あの人は10の頃から父親とともに戦っている」
「そうなの…相手にしてくれなかったのは何も知らないわたしをよく思わなかったからなのかしら」
アマリリスはウィンドの袖をくいくいと引っ張った。
ウィンドは「なんだ」とアマリリスを見た。
「日が暮れる。魔法が解けちゃうよ」
「そうだな。おい、世間知らずのお姫様。送って行く」
「…ありがとう」
さいらはアマリリスとクンシランにお礼と「またね」と言葉を交わしウィンドに送られ、城に帰った。
――――――――――
一方その頃のユグドラシル国では、隣国との平和条約を結ぶか否かの会議が繰り広げられていた。
ユグドラシル国側の要求はこれ以上国民や精霊を傷つけないでほしいと、国内から出ていってほしいとのことであった。
しかし、隣国の要求は精霊とユグドラシル国土そのものであり、双方合致しない要求であった。
どちらの国も1歩も譲らない。
一向に前に進まない会議は今日もお開きとなった。
――――――――――
「はぁ…どうしたものか…」
王はプライベートルームで1人頭を抱えていた。
そこに1人の女性が現れた。
まるで女神そのもののような女性。
王は彼女を見るなり、「ユグドラシル」と呟いた。
王の前に現れた女性は精霊王ユグドラシルだった。
「奴らを納得させるにはやはり、あの案しかなさそうだな」
ユグドラシルは宙にふわふわと浮き、微精霊たちと戯れている。
「他にないのか?それ以外にないのか?」
「ない」
ユグドラシルはきっぱりと言い放った。
「前にも言ったがなにも心配することはない。お前さんの娘だ。きっとうまくやる」
「…………」
ユグドラシルはずっと微精霊と戯れている。
――――――――――
翌朝、今日もまた会議が始まる。
始まるとともに、王は立ち上がり、まずこちらの要求を言った。
「それは充分にわかっていますよ、ユグドラシル国王。しかし、それではこちらの要求はどうなるのです」
隣国のヤイナム国王はため息をついた。
「ひとつ提案があります」
「なにかね、ユグドラシル国王」
「ヤイナム国王、貴方には15になる第一王子がいましたよね?」
「あぁ、そうだが」
「私にはもう時期13になる娘がいます。娘は必ずや貴方の欲しいものを連れてくる」
ヤイナム国王は暫くキョトンとしていたが、やがて「はははは」と大笑いしだした。
「ユグドラシル国の王は自分の娘を敵国に売るのか。生憎だが女に困っていませんよ。それに私が欲しいのは精霊だと言っただろう」
「私の娘は精霊だと言ったなら、貴方はどうします?」
「なんだと?」
会議室はざわざわとざわめき出した。
「姫様が精霊?」「実の娘じゃないのか?」「どういうことだ?」そんな声が次々と聞こえ出す。
「どういうことです、ユグドラシル国王?」
「詳細はお教えできません。しかし、そちらにとって、これ以上にない良い条件だと思いますよ。貴方は精霊が欲しいのでしょ?」
ヤイナム国王は後ろに立っている秘書となにやら話している。
こちらには聞こえない。
「わかりました。しかし、私が求める精霊でない場合、本気でこの国をもらいに来ます」
さいら。 冴空-sara- @dodo
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