第10話 我慢


「人は自由になりたいと言うが、自分の体だって自由にできないのが現実だ」

 まさに今それを痛感する俺は、いらいらと足踏み。


「そこで俺は考えた。欲に従うことが自由なのではなく、欲を我慢することこそが、真の自由へ至る道ではないのかと」

 彼女は席に座って、同情と笑いの混じった表情で俺を見あげる。


「食欲とか性欲とか睡眠欲とか、そういったものに左右されないこと。我慢するこそが真の自由ではないだろうか」

「お坊さんが、欲望を捨てて修行するのと同じね」

「そうだ。もちろん凡人である俺にも、やってできなくはないはず」


 会話が途切れる。

 話題が思いつかず、何か話せと彼女に目で合図する。

 しかし、彼女は笑ってアイスコーヒーを一口飲んだ。


 我慢の限界が近い。

 こんなことは小学校の授業中以来だ。

 しかし、あの時とは違って俺は大人。

 失敗は許されない。

 そして、もう目の前、あと1人で俺の番。


 どうしてカフェのトイレは、1つしかないんだ。

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