第2話 それぞれのロマン


「いい歳してプラモデルなんか作って」

 日曜の昼下がり。

 妻は僕を見下ろすと、眉をしかめてそう言った。


「これが男のロマンってやつさ」

「そんなのロマンなんかじゃないわ。単なるお金の無駄遣いよ」


 ここ数年、何度となく繰り返されてきた会話である。

 接着剤の乾き具合が気になった僕は、その言葉を背中で跳ね返した。妻はわざとらしいため息をひとつ残して立ち去っていく。


「ロマンとは全人生をかけて追うもの」

 妻の意見はこうである。

 それは昔から変わらない彼女の信念だった。


 だが、もし僕が今の安定した仕事を捨て、妻や子供をかえりみず、全人生をかけたロマンとやらを追ったら、困るのは自分たちではないのか。


 ちょっと考えればわかりそうなものである。

 女とは、もっと現実的な生き物ではなかったのか。


 しかし、その翌朝。

 妻は、自らの言葉を実践してみせた。


 つまり全財産が丸々入った預金通帳を持って、みついでいた男と一緒に逃げたのである。



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