原稿用紙1枚の物語

あいはらまひろ

第1話~第50話

第1話 時間厳守


 あるところに、社長を筆頭に社員全員がとにかく時間にルーズな会社があった。


 会議の時間に社員が集まらない。待ち合わせには、全員がそろって遅れてくる。遅刻している上司の到着を待つため、部下たちが1時間以上待たされるいう事態もけして珍しくなかった。


 毎日のように貴重な時間が無駄に費やされ、仕事ははかどらず、信用は失われ、会社の業績は悪化の一途とたどった。これに気づいた社長はついに、ある決断をした。時間にルーズな行いをした者の給料を減らすことにしたのである。


 それから半年が過ぎた。


 決断の効果は高かった。今では社員全員が常に時計を意識し、時間に正確な行動ができるようになっていた。会議開始前に全員が席に座っている光景も、すっかり当たり前になっていた。


 社長の決断は、見事な成果をもたらしたかに見えたのだが。


 今日も、時間に正確な彼らは黙って待っている。

 会議開始まで、あと30分。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る