第3話 早すぎた彼の人生


 彼はとてつもない強運の持ち主だった。目の前に立ちふさがる不幸は、まるで飛び石を渡るかのようにして駆け抜け、立ち止まった場所では必ず幸運に恵まれるのだ。


 彼の足は早く、常にライバルである友人達よりもずっと先を歩いた。若くして最先端の仕事にき、あっという間に社長にまで駆けのぼり、友人達が就職する頃にはすでに助手席に乗せるべき妻を射止めていたほどである。


 やがて彼は3人の子供にも恵まれ、大豪邸を建てたが、それでもなお彼の運は尽きることがなく、宝くじや株で大もうけをし、銀行から紙幣が足りなくなるほどの莫大ばくだいな財産を築いたのである。


 しかし彼は、その強運ゆえに、今まさにその人生を終わらせようとしていた。友人たちのめた顔が見つめる中、彼が震える指でまわしたルーレットは10を指して止まる。


 そう、彼はとうとうあがってしまったのである。

 ゲーム中盤で盛り上がる友人達を尻目に、彼はちっとも面白くないのであった。

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