第143話 あの夏、残された謎


 花火大会は、突然の雨で中止になった。


「誰だよ、雨男は。いや、雨女か?」

 わざとふざける声に、答える人はいない。雨宿りに駆け込んだ橋の下でお互いの顔もよく見えないなか、雨音だけが響いていた。


 近くで女子の泣き声がした。委員長だ。夏が終われば受験で忙しくなるからと、彼女がクラスのみんなを花火大会に誘ったのだ。


「来年、また集まろうよ!」

 雨音をかき消すような大きな声が、暗闇のなかで響いた。一瞬の沈黙のあと、すぐに賛成の声があちこちであがる。

 僕はひとり、動揺していた。


 それから僕らは毎年、花火大会にあわせて同窓会を開くようになった。

 いつも話題になるのは「あの言葉は誰が言ったのか」だ。今でも、それは謎のままになっている。


 謎といえば、もうひとつ。

 引っ込み思案な性格の僕に、どうしてあの一言が言えたのか。

 それも謎のまま、なのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る