第142話 嘘つき
「うん、おいしいよ」
私の手作りチョコレートをひとくち食べると、彼はそう言ってにこりと笑った。
嘘つき。
私は心のなかでそうつぶやいた。
だって、あれが失敗作なのは、自分がいちばんよく知っている。
湯せんに失敗しちゃって食感はパサパサだし、形はぐちゃぐちゃで全然ハートマークになんて見えない。肝心の味だって、溶かす前の板チョコの方がよっぽど美味しい。うまくできたのはラッピングだけだ。
それでも、私はどうしても今日、バレンタインデーに手作りのチョコレートをあげたかった。彼には受け取ってもらえたけれど、チョコと一緒に用意してきた言葉はやっぱり言えそうになかった。
「それ、義理チョコだから……」
私は逃げるように視線をそらして、そう言った。
嘘つき。
私は心のなかで、自分にそうつぶやいた。
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