第144話 あなたのコーヒーが飲みたい


「あなたがれるコーヒーが飲みたいの」

 私は今月もワガママを言って、彼を自宅へと招いた。

 彼はいつも喜んでやってきてくれる。ただ、コーヒーを淹れるためだけに。


 彼がキッチンに立つと、やがて香ばしい香りが部屋に漂いはじめた。

 私は眠い目をこすりながら、仕事を続けた。原稿の締め切りは明日だ。今夜は徹夜の仕事になるだろう。


「はい、お待たせ」

「ありがと」

 差し出されたマグカップに口をつける。

 砂糖もミルクもいれず、彼のコーヒーをゆっくりと味わう。


 いつもと変わらない味に、私は安心する。

 同じ豆を使っても、私にはこの味がどうしても再現できないのだ。


 大きなポットには、彼が淹れてくれたコーヒーがたっぷりと入っている。それをお守り代わりにして、仕事の続きにとりかかった。

 眠気覚ましには、彼が淹れてくれる破滅的に不味いコーヒーが欠かせない。

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