第139話 初めての一人暮らし


「ねえ、本当に大丈夫?」

「心配すんなって。俺だって一人暮らしぐらいできるさ」

 わざとらしく胸を張っているが、無理をしているのはバレバレだ。長年親子をしてきたのだ、すぐにわかる。


 訳あって、わが家は親子ふたりきり。だから、いつ私がいなくなってもいいようにと、家事はひととおり教えてきた。

 だけど、できるからといってやるとは限らない。


「掃除も洗濯も、サボって溜め込んじゃダメだからね? あと食事もレトルトに頼り過ぎないように……」

「もう、うるせえな。大丈夫だって言ってんだろう」

 言い返す声が途中から震えだす。それにつられて、私の目頭も熱くなった。


「俺の心配はもういいから。さっさと寝ろ。明日、早いんだろ?」

「……うん」

 とうとう涙がぽろりと頬を伝った。

 お父さん、今までありがとう。明日、私は結婚します。


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