第123話 長年の愛用品
「この定規、ずいぶん古いのね」
妻が背後から手を伸ばし、僕の定規を手に取った。完全に油断していた。
それは僕が小学生の頃から大切に使っている愛用品。本当なら誰にも見せたくなかった。
「返して」
あわてて取り返そうとするが、もう遅い。妻は笑って僕の手をひらりとかわした。
「ほんと、どれだけ使ってるのよ」
妻はそう言うと、定規に書かれた4年2組の文字を指でなぞった。
「これ、……もらうから」
「え、待って。それは」
言いかけた僕の頬を、指でツンと小突く。妻の顔を見て僕はあきらめた。
「返して、もらうから」
元同級生の妻が、当時と変わらない口調で僕を叱った。
「もう。これって、私が貸したままにしてた定規じゃないの」
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