第98話 運命の出会い


 強風にあおられて、目の前を歩いていた老婆が尻餅をついた。

 心配して手を差し伸べた僕に、もちろん下心なんてものはなかったけれど、その小さな手を握った瞬間、僕は不思議なことに運命を感じたのだった。


 腰を痛めたという老婆を家まで送ると、そこは僕が住んでいるアパートの近所だった。一人暮らしをしているという小さな家に招かれて、お礼にと出されたお茶とお菓子をいただきながら、僕らは少し世間話をした。


 それ以来、僕はその老婆のことが気になって仕方がなくなった。

 そして、わけもなく近所をうろついては、偶然を装って老婆と挨拶を交わすようになった。

 そのうち、僕がふともらした仕事のグチに、彼女が親身になって相談に乗ってくれるようになり、僕らは次第に親しく話すようになっていった。


 やはり運命の出会いだったのだ。そう確信するのはその数年後。

 僕が彼女のお孫さんと出会って結婚するときのことである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る