第96話 肝試しの夜に


「みんなで肝試ししようぜ!」

 夕飯が終わると、誰かがそんなことを言いだした。夏合宿といえば定番のイベントに、あちこちから賛成の声があがる。

 さっそく男女のペアを決めるくじが作られる中、ひとりの少年が震える声で言った。

「悪いけど、僕はやめておくよ」

「なんだ、おまえ怖いのかよ」

「うん。こういうの苦手なんだ。ごめんね」

 からかう声に少年は力なく笑い、素直にそう答えた。そしてよほど怖いのか、彼はそれっきり黙ってしまった。


「ねえ、大丈夫?」

 そんな彼に、ひとりの少女が声をかけた。結局、彼を心配したその少女が宿に残ることになって、肝試しは決行された。

「うまくいったね」

 少年の言葉に少女は照れた表情でうなずいた。宿に残ったふたりは仲良く肩を並べて、しばらくの間、静かな夜を過ごした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る