第93話 悪趣味


「いいですか? 金っていうのはね、とても柔らかい金属なんですよ」

 鍛冶職人はため息混じりに私を見ると、まるで子どもに教えるような口調で言った。


「だから金は加工しやすい反面、刃物にするのには向いてないんです。申し訳ないが、使えないものを作るつもりはありません」


 純金製の刃物が欲しいとは、ずいぶん悪趣味なことを言う女だ。彼はそう言わんばかりの冷たい表情で私を店から追い出した。


 誤解なんです。どうしても必要なものなんです。そう言えばよかったのだろうか。しかし、必要な理由を正直に話したとしても、きっと信じてはもらえなかっただろう。 


 神といえども万能ではない。たとえ悪趣味と誤解されようと、人の手を頼るしかないのだ。しかしそうまでして人間の誠意を試そうとする私は、やはり悪趣味なのかもしれない。


 さて、誰に作ってもらおうか。

 金の斧と銀の斧。


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