第75話 初のワンマンライブ


「……って、もうええわ! どうも、ありがとうございましたー!」


 相方と一緒に頭を下げると、パラパラと拍手がおこった。


 スーツ姿の男性、優しそうな老夫婦、就職活動中らしき若い女性、ランドセル姿の男の子……観客はたったの五名。

 その誰もが笑っていた。


 ウケたというよりは、笑ってくれたという感じだけど、それでも俺は構わなかった。


 ステージどころか、マイクも照明もない。おまけに、ぶっつけ本番。それでも、これが俺たちにとって初めてのワンマンライブ。胸をはってそう言おうと思う。


 すっかり日も暮れて、窓の外は真っ暗だ。バカげた思いつきだったが、後悔はこれっぽっちもない。笑いとは、こういうときにこそ必要なのだ。


「大変お待たせいたしました。まもなく運転を再開いたします」


 車内アナウンスにあわせて、俺たちはもう一度頭を下げた。やがて信号故障で停止していた列車が動き出し、初のワンマンライブは幕を閉じたのだった。


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