第103話 朗読指導


「もっとゆっくりと丁寧に。ちょっと早口になってたよ」

「はい」

 僕は素直にうなずいた。

 厳しい指摘だったが、自分でもわかっていたことだった。

 本を音読するだけ、なんて簡単に考えていた。だけど、いざやってみると、そんなに簡単なことではなかった。


「それからセリフを読むときは、もっと感情をこめて。男の人と女の人は、ちゃんと声の感じも変えて読んでね」

 読み間違えないように集中しながら、登場人物の気持ちをセリフで表現する。それだけでも難しいというのに、同時に聞いている相手の様子も意識しなくてはいけない。本来の目的を見失うわけにはいかないのだ。


「それじゃあ、もう一度最初からね」

 ふとんにもぐりこむと、娘は顔を出してにこりと笑う。

 子どもを寝かしつけるのは、本当に難しい。


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