第56話 気になる話


「道のりのって、なんだ?」

 電話の向こうで、学生時代からの友人が、急にそんなことを言い出した。


「……」

「気になるだろ?」

 意図がつかめず無言でいると、友人はたたみかけるように言う。


「あと、のっぴきならないのは? ほくそ笑むのは? 屈託のないのの意味は? 知ってるか?」

「……」


「ひょんなことからのは? 満をしてのってなんだ? 気になるよな、な?」

「……」


「今度、いや、明日までに調べて、教えてやるからな!」

「……」

「いいか、落ち着け。はやまるんじゃねえぞ。いいな!」

 焦りと動揺と怒りとが混じったような友人の声に、ようやく意図を理解して、思わず目頭が熱くなる。


「ああ、気になる。わかったら、教えてくれ。待ってるから」

「おう、任せとけ!」

「ありがとう」

「ば、ばか野郎。礼なんて言うな。とにかく、また明日な!」

「ああ。また明日」


 死にたいなんて、もう言わないよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る