第54話 大人の昔話


「むかーしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

 ある日、おじいさんは山へしばかりに……」


 ん? しばかり?

 芝刈り、じゃないよな。


 大人になって、改めて昔話を読むようになると、意外と知らない言葉をわかった気で読んでいたことに気づく。


 さっそくスマホで調べてみると、しばかりは「柴刈り」だとわかった。

 そして「柴」とは、山や野に生える小さい木々のこと、とある。

 つまり「おじいさんは、山へまきを取りにいった」のだろう。


「おばあさんが川でせんたくをしていると、向こうから大きな桃がどんぶらこーどんぶらこーと……」


 どんぶらこ、だと?

 桃が流れてくる様子というのはわかるが、様子だ?


 なるほど。

 重い物が浮き沈みしながら流れてくる様子、か。

 これは、重要な伏線になっているんだな。


 桃の中には赤ん坊が入っているんだ。

 ぷかぷか浮いたまま、さーっと流れてきたら変だ。


「ねー、ぱぱー。はやく、つづきよんでー」

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