第58話 かばん
「僕にはちいさなかばんが与えられた。だからこそ僕は、本当に必要なものと、1番好きなものだけを、迷うことなく選ぶことができたのだ」
これは、生まれながらにして短命を告げられた彼が、その人生の最期に遺した言葉である。
医学の進歩により人類の平均寿命が延びる中、誕生とともに寿命までもがわかるようになった。そして多くの短命者と同様に、彼もまた幼い頃に自分の短命を告げられていた。
残酷なようだが、しかし彼が遺した作品群には一片の悲壮感もない。彼自身、その自伝の中で、真実を告げてくれた両親に感謝の言葉を記しているほどである。
彼は自分の心のままに好きなことを追い、世界中を旅し、そして多くの人との出会いの中で、その人生を生きた。短命者としての宿命を背負いながらも、長命を約束された者より、実り多い人生を生きたといえるだろう。
平均寿命300歳を達成した世界で、彼はわずか80年の短い生涯であった。
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