第52話 愚者


「おい、村長! 隠したって無駄だぜ。あの島の洞窟に、不老不死の実が隠されているってことはわかってんだ!」

 男の怒声に、しかし老いた村長も動じない。


「道案内はできぬと言ったはずじゃ。村の掟で、わしらはあの島へ行くことが禁じられておるんじゃ」

「なら、舟を貸せ! 金なら出す!」


「ならぬ。これまで何人も島へ渡ったが、帰ってきた者は1人もない。若い命を無駄にするでない」

「ふんっ。俺はそんなヘマはやらないぜ」


「おぬし。ここまで話を聞いて、それでも行くというのか……」

「もちろんだ。お宝を目の前にして帰れるか!」


「なるほど。おのれ愚者ぐしゃと気づかぬ者ほど始末に負えない、とはこのことじゃろう」

 村長はあきらめの表情で首をふる。


「どういう意味だ。俺を馬鹿にしているのか!」

「そうじゃ。馬鹿にしておるのじゃ」


「なにしろ、誰も行ったことのない島にある、誰も持ち帰ったことがない不老不死の薬のために、命を賭けると言うんじゃからな」

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