第68話 雨の日の天体観測


 山の天気は変わりやすい。天気予報では晴れだったのに、夕方から曇りはじめ、とうとう夜には雨まで降りだしてしまった。


 天文部の夏合宿最終日。夕食後、部長は残念そうに今夜の天体観測会を中止にすると言った。「流星群を楽しみにしていたのにな」とみんなは肩をおとして食堂を出ていった。


「雨、やみませんね」

 窓際に立つ部長に、私はそう話しかけた。部長はうなずくと、雨に濡れたガラス越しに外の景色を眺める。丘の上にある宿からは、遠くの街明かりがよく見えた。


 夏合宿が終われば三年生は引退。だけど、部長として最後の観測会が雨で中止だなんて、そんなの寂しすぎる。


「部長。これも天体観測ですね」

 窓の外を見て、私はそう言った。部長はしばらくして、「そうだな」と優しく笑った。


 雨でにじんだ地上の街明かりは、まるで星のようにキラキラと美しく輝いていた。

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