第36話 失恋


 失恋なんて、珍しい出来事でもない。

 だけど、1日に2回の失恋となれば、話は別だろうか。


「失恋した日は、牛丼屋で特盛を食おう!」


 渾身の告白を一蹴されて落ち込む私に、事情を知る友人が無神経なほど陽気に笑った。その笑顔を見て、私はまたしても落ち込んでしまう。


「告白したってだけで、尊敬するぜ」

「尊敬されてもうれしくないわ」

「なんだよ、せっかくなぐさめてやってるのに」

「はいはい。いい友達を持って幸せです」

「好き嫌いって、理屈じゃねえんだ。気にすんな」


 その通りだ。

 理由なんて、いつも後づけ。

 最初に「好き」という感情があって、人は後からその理由を探す。


 その証拠に、いくら好きになる理由を見つけても、なぜか恋愛感情が湧かない人だっている。

 だから、私の中で彼はずっと友人であり続けるだろう。


「牛丼でも食って、むくわれない恋なんて忘れようぜ」

「そうね」


 失恋し、失恋させてしまった私は、友人の後を追って牛丼屋へ向かった。

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