「さあ、涙を拭（ふ）いて。いつまでも泣いてちゃダメだよ」

　父親は少年にそう言いました。

「なんで？」

「男の子だからさ」

　満足げな父親に、少年は納得がいきません。

「なんで、男の子だとダメなの？」

「それは」

「ねえ、なんで？」

　少年の追求に、とうとう父親は黙ってしまいました。

「ダラダラと怠（なま）けてはダメだ」

「遊んでばかりいたらダメだ」

「毎日、勉強しないとダメだ」

　やがて、少年は気づきます。

　大人たちが、自分にたくさんのダメを言うことに。

「人一倍頑張らないとダメだ」

「困難から、逃げちゃダメだ」

「前向きに生きなきゃダメだ」

「人に迷惑をかけたらダメだ」

「なんで、みんなは僕にダメって言うの？」

　少年は、街中の大人に聞いてまわります。

　でも、誰もきちんと答えてはくれません。

　とうとう街外れまでたどり着いた少年は、そこにいた老人に同じ質問をしました。すると、老人は笑ってこう言いました。

「それは君が自由で、うらやましいからだよ」

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