第31話 歩く


 どこだかわからない街を、いつまでも歩き続ける。

 そんな夢をよく見る。


 でも、夢の中でどれだけ歩いても、どこにもたどりつかない。

 そして、いつも不安な気持ちで目を覚ますのだ。


「それって、いい夢だと思うな」

 暇つぶしに夢の話をした僕に、彼女はあっけらかんと笑った。


 映画好きで意気投合し、月に1回は一緒に映画を観に行く。

 彼女とは、今のところ、それだけの関係である。


「いくら歩いても、どこにもたどりつかないのに?」

「たどりいたら、そこで終わりなんじゃない? 映画と同じで、結末までのストーリーが楽しいんだよ」


 赤信号で立ち止まる。

 隣から、じっと僕を見る視線。


「でも、一人で歩くのは不安だよね」

「ん?」

「誰かが一緒なら、楽しいお散歩になるんじゃない?」


 信号が青になる。

 僕らは、まるで予定していたかのように、最初の一歩を踏み出す。


 その手は柔らかく、そして頼もしかった。


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