第30話 タイミング


 茶柱が立った。

 安さと早さだけが売りの定食屋で、食後に飲んだ味のしないほうじ茶に。


 幸運とは、縁の遠い身。

 飲んでしまうには忍びなくて、しばらく見ていた。


「ほっほっほお」

 すると背後で、しわがれた笑い声がした。

 驚いて振り向くが、誰もいない。


「わしは茶柱の神様じゃ」

 幻聴だろうか。

 それでもいいや。

 神様なら、願い事でもかなえてくれ。


「言ってみよ。場合によっては、叶えてやらなくもないぞ」

 マジか。

 それなら、やっぱりお金だ。

 あって困るものじゃない。

 ここはひとつ、ドーンと100万円。


 っていうか、俺ってどれだけ小さい男なんだ。

 どうせなら1億円にしよう。


 いや、待てよ。

 欲を出しすぎると失敗するってのが、お約束だ。

 それに100万円だって、今の自分には大金だ。


 むしろ、美人な彼女との出会いとかはどうだ?

 ダメだ、どうせフラれるのがオチだろう。

 よしっ、100万円にしよう。


「お客さーん、これお下げしますねー」

「あっ!」

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