第17話 運がいい男


「俺くらい運のいい男は他にいないね」

 友人はいつも、そう豪語ごうごする。

 またいつもの自慢話かと、僕はうんざりした。


 不良にからまれた所に、警官が偶然通りかかって難を逃れたとか。

 旅先で盲腸になったが、たまたま同じ旅館に医者が泊まっていて助かったとか。

 川遊びをしていたら流されたけど、近くで水泳部の人がキャンプをしていて運よく助けられたとか。

 そんな彼の「運のよかった話」には枚挙まいきょいとまがない。


「ま、おまえとは違って、俺には幸運の女神がついてるんだよ」

 そして、最後は決まってこのセリフである。


 その話が本当であれば、きっと彼には女神がついているのだろう。

 それに比べて、僕の人生はいたって平凡だ。彼が語るような「運のよかった話」なんて、1つも思いつかない。


 しかし。

 本当に幸運なのは僕の方だ。


 なにしろ、僕はこれまで1度も、不良にからまれたことも、盲腸になったことも、川で流されたこともないのだから。

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