第12話 天国な地獄


 深いあい色をした湖のほとりに、その小さな山小屋は建っていた。


 初夏の一日を思わせる優しい風に、下草が静かに揺れる。深緑色をした針葉樹の森の向こうには遠く山並みがそびえ、その頂を雪で飾っていた。鏡のように澄んだ湖面が、その雄大な景色を逆さまに映し、その眺めはまさにこの世のものではない美しさだった。


「てっきり血の池か針山地獄あたりだと思ったんだが」

「ここは地獄の中でも、最もひどい場所です。あなたが反省するまで、永遠にここから出られません。そのおつもりで」


 事務的に応じる案内役に、現世で数々の悪事を働いてきた男はほくそ笑む。

 俺は絶対に反省なんてしない。

 それに、こんな快適な場所で反省なんてできるわけがない。


 ここでは、睡眠も食事も必要ない。

 陽も暮れず、四季は移ろわず、語らう相手もいない。

 もちろん死ぬこともない。

 

 永遠に続く退屈というの名の地獄の恐ろしさを、男はまだ知るよしもなかった。


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