第12話 天国な地獄
深い
初夏の一日を思わせる優しい風に、下草が静かに揺れる。深緑色をした針葉樹の森の向こうには遠く山並みがそびえ、その頂を雪で飾っていた。鏡のように澄んだ湖面が、その雄大な景色を逆さまに映し、その眺めはまさにこの世のものではない美しさだった。
「てっきり血の池か針山地獄あたりだと思ったんだが」
「ここは地獄の中でも、最もひどい場所です。あなたが反省するまで、永遠にここから出られません。そのおつもりで」
事務的に応じる案内役に、現世で数々の悪事を働いてきた男はほくそ笑む。
俺は絶対に反省なんてしない。
それに、こんな快適な場所で反省なんてできるわけがない。
ここでは、睡眠も食事も必要ない。
陽も暮れず、四季は移ろわず、語らう相手もいない。
もちろん死ぬこともない。
永遠に続く退屈というの名の地獄の恐ろしさを、男はまだ知るよしもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます